−−−20−−−

呪いの封印とやらを行ってから3日目の朝・・・

龍黄「痛み、少しはおさまった?」

龍黄がベットの上で力無く項垂れる私に、ココアを差し出す。

私は上体だけ起こしてそれを受け取り、一口飲んでから返してまた倒れ込む。

瑠美那「昨日よりはまし・・・」

龍黄「代わってあげられたらいいんだけど・・・・」

瑠美那「平気だ。こんなもん・・・拷問に比べたらまだまだ」

龍黄「拷問、されたことあるの?」

瑠美那「・・・ないけど」

昨日から天井ばかり見上げている。

儀式を終えた直後、私は信じられないほどの激痛で意識を失った。

その激痛が、その時だけなら良かったのだが、残酷にもその後もずっと残っていた。

意識を失っていられたのはわずか数十秒。あとはその痛みで眠ることすらできず、ひたすら歯を食いしばって痛みを耐えていた。

それが丸2日続き、今さっきやっとしゃべれるまで緩くなった。

もう、この苦しみは今まで感じできた何よりも辛かった・・・。

ナイフでえぐられるとかの痛みではない。その痛みが全身に起き、その上長時間続いているのだ。

もうそんなもの、想像できない・・・(実際体感したわけだが・・・)

瑠美那「龍黄、寝てていいぞ。まる2日寝てないんだろ」

龍黄「平気平気。一週間寝なくても平気だから。」

瑠美那「・・・ここにいたって、何もしないでただ痛そうな顔してるだけだろが」

龍黄「だって、寂しくない?」

瑠美那「むかつくこと言うな。今突っ込めないんだから」

龍黄が小さく笑っていると、出入り口のドアが開いた。その瞬間、龍黄は笑顔を落としたように消し、無表情になる。

彼は羅希と飛成と行動をともにするようになってからずっとこんな調子だ。

あの二人の前ではずっとむすっとしている。

そしてもちろん、今入ってきたのは飛成と羅希だ

飛成「調子はどお?」

飛成はなにやら買ってきた物を整理して、一段落させてから私に話しかけてきた。

羅希はその隣で、整理された物を荷物に分けてしまい込んでいる。

瑠美那「あー、結構良くなった。も少ししたら歩けそう。」

飛成「良かった。そしたらさ、昼食は外で食べに行かない?」

私はちらりと龍黄の方を見た。彼はさっき私に分けてくれたココアを飲んで、話を聞いていない・・・フリをしている。

これは私の好きにしろと言うことか?文句は言わないんだからそうなんだよな。

瑠美那「おう、わかった。」

そう言ってから、もう一度龍黄の方を見る。

彼は私とも目を合わせないようにしながら、まだ話を聞いていないフリをしていた。



レストランと言うよりは喫茶店のような感じのところで私達は昼食にした。

はじめは、飛成が外食しようなどと言ったのは未だに二人を受け入れていない(私も少しだが)龍黄と話し合う機会を設けるためかと思ったが・・・

飛成「このパフェと、このラム酒入りケーキと、ハーブティー・・・あ、砂糖は多く。」

ただ単に甘いものを食べたかっただけのようだ。

結構男らしい人が乙女チックな物ばかり注文するので、ウェイトレスの女の子も少々呆気にとられていた。

私の隣で龍黄はなにやら他人のふりをしたがっている様子

そのあと私達も適当に注文する。

瑠美那「飛成・・・サングラスかけなくて良いのか?」

ちょっとこの男の妙な性格にツッコミを入れようとしたが、やめて話をそらせた。

飛成「うん?あれは瑠美に変に怪しまれないようにしてただけだがら。それに、この辺の人たちならカラコン程度にしか見えないでしょう。」

飛成の目は赤い・・・鮮やかでは無い、ちょっとだけ茶色に近い。

羅希の瞳は透き通った青色。これは普通に人間にもある色に思える。

そうくると、私と龍黄の(片方だが)黄色い目の方が、一瞬見て異形に思えるだろう。

瑠美那「そういえば、私と龍黄の目片方づつ黄色だが・・・」

龍黄「母さんが黄色だったから。」

口元に手を当てて、視線を落としたまま、龍黄がボソリと答えた。

龍黄と私のもう反対の目は、両方茶色だ。

瑠美那「じゃあ、父親は二人とも茶い・・・」

茶色なのか、と言いかけたところで、羅希と飛成が同時にテーブル越しに私の口を手で塞ぐ。

瑠美那「んぐっ!?」

羅希「そういえばさ!この前会社にいた人が、宿とかが困ったら泊まりに来いって言ってくれたんだけど!」

飛成「あーー!それは助かるね!じゃあ今度そっちにご挨拶に・・・」

瑠美那「だあ!!放せって!!」

彼らの手をふりほどいて私はテーブルをバン、と叩いた。

ちょっと周りの人が注目したが気にしない。

瑠美那「なんなんだよ!そんなに龍黄の父親のこと教えたくないならそうはっきり言えよ!」

私がいらだたしげにそう怒鳴っていると、隣から龍黄が服の袖を引っ張ってきた。

龍黄「別に隠すほどの事じゃないよ。」

とりあえず落ち着いて、と促されてからたいして気にしている様子もなく

龍黄「僕の父親は魔王なんだ」

とかなんかまた非現実的なことをぬかす。

瑠美那「魔王って・・・なんかおとぎ話で悪役とかやってて勇者っぽいのに倒されるやられ役のことか?」

龍黄「現実はそんな物じゃないけど」

瑠美那「じゃあ、なに?私の母親が浮気してたのか」

龍黄「魔王が母さんのことを気に入って、政略結婚みたいな感じで婚約を押しつけてきたんだ。それを、瑠美の父さんが戦って取り返した。」

瑠美那「たかが人間が、よく魔王に勝てたな」

龍黄「その辺は僕も良くは知らない。でも父さんはとにかく強かったんだ。」

彼は少し眉根を寄せた。なにか嫌なことでも思い出したのか。

瑠美那「なんか嫌なことでも思い出したのか?」

彼は少し黙り込んだ。それでも、続きを話してくれた。

龍黄「・・・母さんは魔王のところから逃げてきて、父さんは魔王から奥さんを横取りしてその上怪我も負わせて、その子供二人は魔族のハーフと人間のハーフ・・・」

瑠美那「・・・それは歓迎されない一家だろうな・・・」

私は思っていたより平和な生活をしていなかったらしい。そう言えば龍黄もなんか昔のことはすごく辛いことばかり話していた。

こんな家に生まれたんじゃ、良いことなんて無かっただろうな。

羅希「少なくとも私の一家は歓迎していたけどな・・・」

私の飛成の隣で先に来たコーヒーを飲みながらボソリと呟いた。

飛成「龍達の両親は羅一家と仲良くしてたけど、龍本人はあまり仲良くしてくれなかったんだよね」

飛成も昔の思い出に浸っているように遠くの方を見ながらボソリと呟いている。

瑠美那「・・・よっぽど人間不信だったのか」

私がそんなことを呟くのと同時に注文した品々がテーブルに運ばれ始めた。

飛成以外はそんなに注文をしていないので、テーブルは結構空きがある。

龍黄「人間不信ていうかさ・・・羅が怖かったんだよね・・・」

龍黄がサラダをつつきながら少々低い声でそんな考えもしないセリフを吐いた。

言われた羅希が目を丸くして、とった鶏肉を皿の上に落としてしまった。

羅希「私が怖かった・・・って?」

龍黄「・・・僕はどちらかというといじめられてると言うよりは怖がられてた・・・のに、そんな中で親しげに寄ってくる異常な人物がいて・・・」

龍黄がドレッシングをサラダにかけながら、更に低い声で

龍黄「そんなことされたら何かたくらんでるとしか思えないし・・・」

羅希「・・・」

どう反応してよいのか分からず羅希は料理を食べる手が動かなくなっている。

龍黄「別にそれだけなら僕も適当にあわせていればいいかな、と思って。でも・・・」

相変わらず手の動かなくなっている羅希とは対象に、龍黄はたいして気にせず、話の間をとって料理を口に運んでいる。

彼は私の方に視線だけ移した。

龍黄「一度、瑠美の悪口を言っている子供がいて、僕がちょっとキレちゃって、そいつらに襲いかかったことがあったんだ。」

瑠美那「ぉぃ・・・」

龍黄「ちょうどそばにいた羅が僕を止めようとして、僕の攻撃を受けたんだ。それが以外と深手で・・・」

羅希「ああ、あったね・・・そんなこと。もう傷口は消えたけど」

羅希がそう言って、やっと手を動かし始めた。

龍黄「それから羅がいっそう僕にかまうようになったんだ。」

羅希「それは、龍が気にしてるかな、と思って、僕は何とも思っていないって事を示そうとしていたんだが」

龍黄「なんてこと子供の僕は思わずに、隙あらば復讐してくるものだとばかり思ってた。」

またもや羅希がさっきとろうとしていた鶏肉をまた取り落とす。

飛成は人事なので、ちょっとおもしろそうに話を聞いている。

龍黄「一応、僕も罪悪感があったし、羅がそうしたいならそうすればいいかな、と思っていたから放っておいたんだけど・・・そんなときに羅が瑠美に近づき始めて」

羅希がそのセリフに、あ、と声を上げた。

その先の話は私にも想像できた。

龍黄「僕に復讐するために瑠美にも手を出すのか、と思って」

羅希「・・・そう言えば、瑠美に近づき始めてからだよね・・・龍が私に敵意を持ち始めたの・・・」

そうゆうことだったのか・・・と羅希が頭を抱える。

羅希「もしかして、今もそう思ってる?」

彼ちょっと不安げに龍黄を見つめる。

龍黄「たかが子供の嫌がらせなら、人間界 ( こんなとこ ) にまでついてこないだろ」

羅希「・・・」

なんだか二人とも複雑な表情で料理に手を付け始める。

羅希はすこし嬉しそうに見える。龍黄は異様に無表情。

私は別にどうでも良かったが、飛成は居心地が悪いらしく、なんとか会話をできないか、と適当に話を切り出そうとしている様子だ。

そのうち、あ、と何か思いついたように声を上げる。

飛成「ねえ、羅。さっき誰かが泊めてくれるとかなんとか言ってなかった?」

羅希に聞いた質問に私が横やりを入れた。

瑠美那「会社から逃げるときに、私をかくまってくれたり、羅希のところまで連れて行ってくれた人がいたんだ。アステリアというヴァル・ヴァヌス公国南部の領主だ」

飛成「アステリア?」

結構有名なのに飛成は以外にも知らないようだ。

羅希「よく実験室を見に来ていた、髪が長い長身の男の人だよ。私は同じ立場として一緒に話し合い出ていたりしたけど」

思っていたより、羅希はアステリアと面識があったらしい。

考えてみれば、セヴァールフの客人という立場上、羅希とアステリアは同業者だし、同格者だ。

飛成「でも大丈夫かな。会社側の罠だったりしない?」

瑠美那「大丈夫じゃねーの?」

羅希「大丈夫だ」

私の投げやりなセリフにたいして、羅希は確信のあったセリフである。

言ってしまってから、彼は少し口ごもった。

羅希「・・・なんとなく、なんだが、あの人はきっと何か目的があると思う。けれど、それは会社側とは関係ない」

少し引き気味になったものの、その言葉は相変わらず確信に満ちている。

飛成も、そんな様子の羅希を疑う様子もなく、そうか、と相づちをする。

きっと、これでアステリアの屋敷に行くのは確定した。

そうなったところで私は話を切り替えた。

瑠美那「羅希、また質問で悪い。」

羅希は料理を入れていたところなので「いいよ」とでも言うように小さく頷いた。

瑠美那「お前は“呪い”を解きたいのか。」

料理を飲み込んで、一息ついてから返事をした。

羅希「・・・そうだが?」

瑠美那「具体的にどうやって解くか考えているのか」

羅希「とりあえず、神界へ行く。この呪術の主は神族だと思う。違ったとしても、神族なら誰が術者か知っているかもしれない。」

瑠美那「神族・・・って神サマだろ?そんな簡単に行けるものなのか?」

飛成「死ねば簡単に行ける〜。」

羅希が答えようとしたところに飛成が笑いながら横やりを入れてきた。

今はまじめな話をしてるんだっつーの

羅希「生きたまま行くのが難しいのは確かだ。けれど、行けないわけではない。まずは精霊界に戻る。精霊界には神族とコンタクトをとるための手段がいくつもあるから、それで神族に事情を話す。なんとか協力してもらえれば、神族の通路で神界まで行ける。」

瑠美那「の前に、まずはちゃんと精霊界に行けるのか?」

羅希「一応ね。一度向こうへの扉を開けば、誰かが修復するまで開きっぱなしだから、結構楽に行き来できる。」

飛成「ただ、こっちの世界でそれをやると材料費とかでお金かかるし、魔力溜めるのでも時間かかるし・・・」

ため息に混じりにそう言うのが、もう昼食(彼の場合、おやつのようだ)を食べ終えた飛成である。

羅希「セヴァールフでいくらかふんだくったり、向こうの協力で得た材料や実験のおかげで、なんとか半分くらいは準備が進んだ。でもこれから先が長いな。」

前向きに考えようとしていた羅希も、結局最後の方にはため息混じり。

飛成「今まで進めてくるまでに4年かかったから、ちょっとこれから不便になるし・・・そう考えるとあと8年くらいかかりそうじゃない?」

瑠美那「長ぇよ。ってかさあ、なんで神族は自分から動いてくれないわけ?」

羅希「幻翼人は神族にとっては兵器なんだ。もともと、戦争のために作られたんだから。」

瑠美那「は、なにそれ」

羅希「幻翼人は元は人間・・・それをどこかの神族が戦争の兵器として信仰心の高い人間を改良して作った。それが幻翼人なんだ。」

瑠美那「うわ、むかつく」

羅希「今までこの件で出てきた神族達は、罪人や下級の者で作られた捨て駒の隊だし、被害を受けた精霊王は世界の王達の中でも位は低かったからね。今も昔も、神族にとってはどうでも良いことなんだ。」

瑠美那「じゃあ、神族になんか頼らないで自分たちでなんとかすりゃいいじゃん。」

羅希「なんとかならなかったから、今では呪いを受けた者は人間界に捨てられるようになって、呪いを解ける環境はどんどん悪くなっている。だから受呪者としては頼れるのはもう神族しかいないんだ。」

瑠美那「じゃあ、もうどうしようもないじゃん」

羅希「だから悩んでるんでしょうが」

そりゃそうだ。

私は今更納得してから、テーブルに突っ伏した。

瑠美那「う〜、頭痛くなってくる・・・」

飛成「まあ、マイナス思考はあんまり良くないでしょう。がんばればなんとかなるよ。」

飛成のそんな一言でも羅希の曇った表情は晴れない。



4人はそのあとアステリア(領主)の屋敷へ向かった。

屋敷は、彼の領土のギリギリ北部にある。瑠美那達のいた場所はヴァル・ヴァヌスの中心よりも少々西。

そこまでは馬車で小1時間程度かかるが、近くに屋敷へ行くという運び屋がいたので、ついでに乗せてもらった。

馬車の荷台に乱雑に積まれた木の箱にそれぞれ寄りかかり、しばらく無言でいた。

龍黄「・・・羅」

龍黄の隣でうたた寝をしていた瑠美那はすっかり眠り込んでしまった様子。

それを見て、龍黄が彼を呼んだ。

羅希「何?」

龍黄「神族とコンタクトをとる方法、他にあるんだろう?」

険しい顔つきでそう問いかける彼とは対照的に、羅希は穏やかな表情を保っていた。

返事は無言。けれど龍黄は続ける。

龍黄「そちらの方法を使おうと思わないの?」

羅希「絶対に嫌だ」

今度の質問にははっきりと答えてくれた。

羅希「・・・龍、やったら一生恨むよ」

何かを言い出そうとする龍黄を少々厳しい言葉で制した。その様子に龍黄は思わず黙り込む。

羅希「確かにそうしてくれると、私も瑠美も助かるかも知れない。でも、絶対に私も瑠美も君を恨むよ」

龍黄「・・・」

龍黄は隣で小さくいびきをかいている妹に目をやった。

羅希「・・・龍、君は優しさと自分勝手の区別がついていないよ。後に残される人の気持ちも考えて。」

龍黄「・・・」

相手の顔を見ずに、彼は小さく頷いた。



サンセ「領主様、明日までの書類は・・・」

サンセが開けた扉の先は何の灯りもない。薄暗い月光だけが部屋を照らしていた。

執務室の脇にある扉が開け放たれて、ギィギィと小さく音を立てている。

彼は少し嫌な予感に駆られながらその開いている扉の奥へ歩き出した。

サンセ「・・・領主様」

彼は少し小さく主人を呼んだ。更に暗い部屋には人の気配。けれど返事はない。

彼は視線の先に見えているカーテンで覆われた寝台に近づいていった。

そのカーテンの奥にかすかだが横たわっている人影が見える。

彼は小さな物音も立てないように静かにカーテンを開けた。

サンセ「・・・またか」

小さく一人愚痴って、ため息をつく。

ベットの奥の主人は、聞こえるか聞こえないかの小さな寝息を立てていた。

けれど、どこか死体のように見えるのは気のせいか。

目覚めることのない眠りについたように見える。

サンセ「・・・多分、僕以外に貴方についていける人はいないでしょうね・・・」

どこか神妙な趣で一人でそうこぼす、青年は数日前よりも明らかにやつれている。

戻る  帰る  進む

広告 [PR]  冷え対策 キャッシング わけあり商品 無料レンタルサーバー