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何人もの大人達が自分にてをかざしてくる。

四肢を押さえつけられて、太陽の光に反射していくつかの獲物が目障りにチカチカと光る。

その大人達の出す雑音の中に、今にも消えてしまいそうな聞き覚えのある声がしている。

………龍黄。

「お兄ちゃん!!!」

喉が張り裂けんばかりの大声で、脳裏に浮かんだ兄を呼んだ。

今にも振り下ろされそうに構えられた獲物が、恐怖心を駆り立てる。

その切っ先が自分に向けられたのを確認して、更に恐怖心を駆り立てた。

自分の心臓の音がうるさい。口から出てきそうなほどに苦しい。

今までに出したことがないほどに悲鳴を上げた。


切っ先が自分の顔をはずれて、すぐ脇に突き刺さった。

喉が痛い。

そんなことを重いながら見上げたら、写ったのは色の悪い晴天の青空。

殺気が満ちた大人達の姿はない。

そのかわりにまわりに何か、ある。

「ひぃっ………」

声なき声が漏れる。

殺気まで自分に覆い被さるようにしていた者が、すべて妙な形でつぶれてまわりに落ちていた。

上から巨人に押しつぶされたような形や、内側で何かが破裂したように一部が吹き飛んで絶命している者達がいた。

「…にぃちゃ……」

さっきまでわずかに聞こえていた龍黄の声が思い出された。

ひょっとしたら、この残骸の中の1つとなっているのではないか。

恐ろしい光景に対する恐怖心が消えた。

早く、龍黄を探し出さなければ、と立ち上がった。

けれど、立ち上がった瞬間目的の者は見つかった。

残骸の一山向こうにうずくまっている、見慣れた葉緑の髪。それによく似た色の翼。

けれど、彼の下半身と腕は見たことのない色。

血。

そうわかったが今まで見たことがないほどに深い真紅だった。

そして、こちらを振り返った時、その顔がいつもと違った。

目がその血と同じ色。

目尻から涙のようにも、ひび割れのようにも見える青い筋は?

何か言おうと開いた唇は真っ青で、その間からわずかに牙が見えた。

これが、いつも少年を苦しめていた正体。

「お兄ちゃん…」

それでも、少女は受け入れた。

それがあの兄であることを。

怖かった、けれど、龍黄の方がもっと怖いだろう。

同じ目線までしゃがみ込んで、自分のことが分かるか話しかけようとした時…

誰かが叫んだ。

奴が魔族になった、と。

そして、残った人々は獲物を持ち、魔法を唱え、標的を瑠美那から龍黄にうつした。

「やめてよぉ!!」

四方からやってくる村人達から龍黄を庇うようにかぶさるが、その小さな体では覆いきれない。

守れない…。

そう無力感に襲われたのは、龍黄よりも瑠美那だった。

どうして私はいつも、何もできないのだろう。

今、自分は自分の命を失っても、龍黄を守ることができない。

手段が無い。

そう思いながら、龍黄を庇う。

腕の中の龍黄は正気を保っていないが、瑠美那は敵ではない、と認識できているようだった。

だがそれ以外は何も分かっていない。

「………」

村人の何人かが同じ呪文を紡ぎ出した。

その魔法の効力を、二人は知らない。

それが完成するまで、二人は何もできずにただうずくまっていた。

そして完成した時、真っ黒い墨を流し込んだような空間が頭上に現れ、二人をまわりの土や草ごと掃除機のように吸い込もうとする。

何もつかむものはなく、二人の体は地面からあっさり離れた。

ただ、龍黄を離すまいとしていたが、予想以上の力に二人の体は空間に飲み込まれる前に離れてしまった。

「瑠美ぃ!!!」

聞き覚えのある声が2つ。

「羅お兄ちゃん!」

その後ろに飛成が、自分たちの方向へ向かって跳んでくる。

飛成は龍黄の方へ方向転換。

羅希がこちらに手を伸ばす。

でも、今この手を取ったら、彼まで道連れになってしまうかもしれない。

一瞬そう思って、手を引いてしまった。

「瑠美………!」

けれど、自分に手をさしのべる少年は空間の風に耐えられる一線を越えてしまった。

彼の体も風に引き寄せられ、地面を離れた。そして自分の腕をつかもうとする。

羅希の性格を考えれば良かった。

彼は優しいから、自分を好きでいてくれてるから、こうしてくれることは想像できたのに。

彼の伸ばす手をつかもうと手を伸ばしたが、空間内の更に激しく吹き荒れる風がそれを許さなかった。

また、私は………。

離れていく彼の手を、ただ呆然と見つめていた。



瑠美那「って夢見たんだけど、あれって私の昔の記憶だろ?
ウザいからなんとかしてくんない?今更過去に興味なんてないし。」

私のいらだたしげな声が響くのはアステリア邸別館の一般食堂。

たいして飾りはないが、しっかりと整えられた空間で、ほんのりとイイ香りが漂っている。

ここで食べられるものは、普通のレストランや喫茶店で注文できる物とたいして変わりはない。

ずいぶん変な屋敷だなぁと思うが、堅苦しくない気楽にできる空間があることに感謝している。

私と朝食を囲んでいるのは羅希と龍黄。

そして・・・なんか赤くなってボケーっとしている飛成。(アステリアと何かあったと推測。が誰も突っ込まない)

羅希「まぁ、いいじゃないか。事実なんだし、ちょっと目覚めの気分が悪いだけだろ。」

瑠美那「人事だと思って……」

さっきから話しているのは私と羅希だけだ。

飛成はあんな感じだし、龍黄は口数が少ない。

私が何か話しかけても、ちょっと前までの羅希と飛成に対する対応と同じ感じの返事しかしない。

なにか悩んでいる様子だったので、そっとしておいてやろうとなるべく話しかけないでいる。

んだから

瑠美那「飛成」

飛成「うん?」

こっちにつっかかる。

瑠美那「昨日なんかあったのか」

飛成「ん、まぁね……」

瑠美那「デキちゃったか」

私の歳に相応しくない発言に、羅希と飛成が吹き出す。

何も口に入れていなかったので、二人が変に咳をしているだけで済んだ。

羅希「瑠美、そうゆう発言はやめようね。まだ“女の子”なんだから」

ちょっと復活が遅れて、羅希のすぐ後に飛成が怒鳴るように抗議。

飛成「それに、そんなことないです。」

瑠美那「だって何かをずっと思い出してるみたいじゃないか。」

飛成「ん……」

飛成はまた少し明後日の方向を見ていたが、ちょっと顔を赤く染めて

飛成「なぁんかね、告白っぽいのされた」

とかボソリと呟いた。

『ええ!!ホントに!!?』

と私と羅希の声が重なった。

飛成「ん、なんか首絞められてさあ、僕殺してお母さんの幻影みたいにどうのこうのって。」

…………………………。

瑠美那「それは……」

羅希「告白ではないのでは……?」

ブチ切れて殺ろうとしているか、脅迫しているか…としかどう考えてもとれない。

何故飛成がこれを“告白”と取ったのが不明なところだ。

瑠美那「まぁ、それが本当だと羅希やられたな。」

何気なく私がいたずらっぽく言ってみる。

羅希「何が?」

瑠美那「お前一番年上なのに年下に先超されたな、と思ってね。」

一瞬パチクリした彼だが、全然気にした様子もなくにこやかに笑う。

羅希「だって私には」

瑠美那「私お前のことあんま好きじゃないから」

と、かなり酷い発言を彼の言葉を遮って言ってやった。飛成はそのあまりの言いぐさに口をガクンと開けて、当の本人はさすがに傷ついたようでテーブルに突っ伏してなにかぐちぐち呟きだした。

どうせ私の顔はそんなに良くもないさとか、ボケた性格だよとか、ガリ勉野郎だよちくしょー、とかなんとか。

ん〜、他人のこうゆう姿見るのは気分良いわ。

龍黄「なにか騒がしいな。」

何気なくそんなことを呟いた龍黄は、何故が険しい顔のままで、声のトーンが低くなっているように聞こえた。

んなことは気にしないようにして、龍黄の視線の先を探る。

瑠美那「だれあれ。」

私の言葉に一同が返してくるのは「さぁ?」。

私達の目に映っているのは……いや、このくつろぎスペースにいる多くの人たちの目に映っているのは、ただの青年。

だが何故か近くの侍女や一般人までもその男に敬礼して、その男もにこやかに笑い返す。どうやら偉い人らしい。

そして何故かその青年は誰か愛しい人に告白をするかのように、抱えきれないほどの色とりどりの薔薇の花を抱えている。それが彼を知らない人までも注目させているのだ。

飛成「あの人チラチラこっち見てない?」

羅希「それに、こっちに向かってきているような気がするのは気のせいかな。」

飛成と羅希がそう言うとおり、彼にはそんなそぶりが見えた。そしてソレは気のせいではなかった。

丁度私達の目の前で足を止めた。

山盛りの薔薇の花に顔を埋めて、愛想良く笑いながら偉そうな口調で

「やぁ、くつろいでいる時分に失礼。」

とかなんとか言い出す。

瑠美那「なんの用だよてめ」

羅希「いえ、お構いなく。何か私達にご用でしょうか。」

私のガンつけを手で隠しながらそう丁寧に言い直す羅希。彼に青年が薔薇の香りをまき散らしながらまたはっきりした口調で言い出してくる。

「用があるのはレディにだけなのだけど。」

その“レディ”が私のことなのか飛成のことなのかは謎だが、そう言って彼は薔薇の山を少し下げて、山の中から顔を出した。

たいして格好いいとかそんな感じではない。ただ不細工ではないと言うだけで印象に残る感じでもない。

服が派手なわけでも、化粧をしているわけでもないのだが、何故か派手で協力なオーラを感じる……。

「失礼、僕はベーガンツ・アルティア・クライム・セ・ラ・リェーゼ・ヴァル・ヴァヌス。」

ながったらしい………ていうか、「ヴァル・ヴァヌス」ってことは多分アステリアと同じ王族なんだと分かる。まわりの人たちがかしこまっていたわけだ。

彼は少々頬を赤めて少しモゴモゴしながらも言葉を続けた。

ベーガンツ「それで……手短に言うと、見初めて……それ以来僕は夜も眠れずにいたんだ。」

一同肩が落ちる。

つまり、うちらの誰かに惚れたと。

最近色恋沙汰が多いなぁ。

羅希「だって。どうする?」

ちょっと哀れみを込めた目で見返してくる羅希に何故か腹が立った。

てか、私みたいな血生臭い極悪女に惚れる男なんざイナイだろう。(羅希は例外)

私は飛成に視線を流したが、彼女は私みたいな事を考えたらしく、こっちに視線を流してきた。

ベーガンツ「どうか、僕と結婚前提におつき合いを!!」

け、結婚前提!!!??

急展開だ!!!

本気で私と飛成をお互いを見つめあう。哀れみの目で。

龍黄が席を外そうとしてソレを私と飛成が止めようとしたら、今度は羅希までも席を立とうとした。

ベーガンツ「待ちたまえ!!」

たまえって……。ベーガンツは薔薇の花束を立ち上がろうとする羅希に押しつけた。彼を止めようと思って押しつけたモノだと思ったが、…………羅希が座っても薔薇は引かれない。

瞬間、一同が固まった。周りで聞かないふりして聞いていた人たちも注目。そしてみんな「もしや……」と思わずにはいられなかった。

そして、ベーガンツは

ベーガンツ「ダメかい?」

とか言ってる、その先はどう見ても羅希。さすがの彼もちょっとこの現状を否定気味で、その顔には青い肌と引きつった笑顔。

羅希「あのぉ……」

ベーガンツ「とりあえず、受け取ってもらえないだろうか」

羅希「いや、受け取ってもらえないかって……あ、私仲介人?じゃあコレは、誰に宛?」

ベーガンツ「君に決まっているだろう。」

羅希「…………………………はあ!!!!?

かなり混乱しているようで、そう叫んだ声に含まれているのは怒りか呆れかなんなのかよく分からない。

羅希「ちょっと待て、アンタ何考えてんですか!?」

ベーガンツ「だから君と結婚前提のお付き

羅希「うわあああ!!!!それ以上言うなあああ!!!!!!

事の状況を理解してきたようで、羅希は薔薇の花束を振り払って涙目で叫んでいた。

それでもベーガンツは気にせず歩み寄って羅希の手を取った。

ベーガンツ「やはり僕の思いは受け入れてもらえないのか!!」

羅希「当然だろうが!!変○かアンタは!!」

ベーガンツ「○態?!とんでもない!!僕はただ君を愛し」

羅希「だからそれが変○だっつってんだろがあーーー!!!

瑠美那「やったな羅希、これでお前の結婚先は決まり

羅希「うわあああ!!横で変なこと言わないでくれえええ!!!!」

ベーガンツ「何故だい!!確かに会って間もないけれど、君をあ**(羅希の悲鳴によってかき消され)ているのに!!

羅希「アンタ私が男だって分かって言ってるのか!!?」

ベーガンツ「何を言っているんだい?君はれっきとした女性では

羅希「どっからどう見ても男だろ!!?」

飛成「まさか……羅も僕みたいに本性女……」

羅希「んなわけあるか!!一緒にしないでくれっ!!

龍黄「羅希、叫んでて疲れない?

羅希「だったらこの人達(瑠美、飛含む)をなんとかしてくれっ!!」

ベーガンツ「お願いだ!!僕は君に全てを捧げる!!!」

羅希「うわああああああああ!!!!!!!!!!!!

ベーガンツがいきなり羅希にガバッとか抱きついた。それをみて周りの人たちがゲッとかアッとかキャッとか言うのと、羅希が絶叫しながら彼を思いっきり殴り倒すのは同時だった。

そしてやってしまってから、あ、と冷静になる羅希。

羅希「うぁ、ごめんなさっ……ヤバッ、どうしよ!本気でやっちゃっ……」

あー死んだな。とか思ってたらなんと彼はガバッを起きあがって再度羅希の背中にしがみついた。

ベーガンツ「フフ、そんなお茶目なところも大好きだよ〜」

羅希「うわあああああああああああ!!!!!!!!!!!!

マジで無事でいるとは思っていなかったので(現に顔面流血なので無事でもないが)羅希も私達も本気で驚いた。

そして羅希はまたらしくなく冷静さを失い、私達が止める間も無く、必殺技を繰り出した。

んで、ベーガンツの体は鈍い音を立ててゆがみ、吹っ飛んで壁に体を半分めり込ませてぐったりとしてしまう。

瑠美那「あーあ」

と私。

飛成「いくらなんでも、奥義使わなくたって……」

ほぉ、アレが羅希の奥義だったのか。なんか妙に光って速くてよく分からなかったけど。

羅希「……殺っちゃった………?」

そう言って恐る恐る壁にめり込んだ肉塊に歩み寄る羅希。

もうぐったりしていて、血だらけで、形は成してはいるが色とかがもう原型のモノではなくったそれは、どう見ても絶命している。

けれども、何故か私は………生きている気が………

ベーガンツ「心配には及ばないさハニー!!君のためなら何度でも蘇ろうとも!!!

した。

私の予想通り生きていたベーガンツは、その血だらけのまま羅希に飛びつこうとした。が、寸前で羅希が音もなく逃げた。

きっと、かなり怯えた目をして涙を流しながら。

ベーガンツ「ああ!まちたまえっ!!!」

人間離れした速さで逃げた羅希を、同じく人間離れした速さで追うベーガンツ。

あっという間に二人の姿は室内より消えて、そこに静寂が満ちた。

どこかで羅希の悲鳴と、ベーガンツの笑い声がしている。



瑠美那「羅希もこれで一安心だな。」

飛成「どこが」

ちょっと口元に笑みを浮かべてそう言う私を、飛成は本気で怒っていた。

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