―――28―――

龍黄 ( ロンファン ) 「………」
魔王が片手を上げただけで、騒ぎまくっていた魔族達が静まりかえった。
初めて見る魔王であっても、それだけ彼は絶対的な存在なのだ。
へたり込んでいた私は力無く立ち上がった。
龍黄の声が響いた。
魔族の声…音に近い、実体のない声だった。
龍黄「魔族は自由 何者にも捕らわれない 我を崇拝するは自由 咎めはしない」
これ絶対に台本とかあるな……
龍黄「我は魔族達の王として自由に生きよう これより 我が王となり 魔族を導こう」
龍黄が大鎌を掲げた。
白銀ではない、漆黒に染まっている。
あの大鎌も、龍黄について行ったのだろう…。
それを合図に、また魔族達が咆哮した。

――――気を付けろ 彼女が来た

またあの声がした。
瑠美那( ルミナ ) 「え、ちょっと何…」
羅希 ( ルオシイ) 「気を付けろ!!何か来る!!」
隣で羅希が吠えた。
魔族達には届かなかったが、私達にはしっかり聞こえていて、みんなとりあえず構えた。
その瞬間に、城内に異常な風が吹いた。
瑠美那「うわぁ!!なになになになに―――!!」
飛ばされそうになったところを、危うく羅希が止めてくれた。
魔族達がゴミのように飛ばされ、室内の中心に空きが出来てきていた。
顔にバシバシ当たる風が少しずつ弱くなっていくのが分かった。
羅希「………神族?」
耳元で羅希が呟いた。
何かと思って彼の視線をたどれば、風で出来た謁見の間の中心の空きに、女性がいた。
長い黒い髪に対照的な、真っ白のローブ。
髪は身長よりも長く、ローブも長いが、それらが地面に付かない高さに浮いている。
瑠美那「誰、あれ……」
何故か、彼女を見ようと乗り出したら、寒気がした。

――――セリシア

瑠美那「セリシア?」

羅希「セリシア?」

私と羅希の声が重なった。

一瞬、彼と目を見合わせた。

羅希にもこの声が聞こえていたのだろうか。

彼女…セリシアは龍黄と対峙している。

「魔王を守れ!」

執事の女性の声がして、魔族が一斉にセリシアと龍黄の間に入り込もうとした。

セリシア「退きなさい。魔王を害しに来たわけではない。」

凛として通った声だった。女性らしい綺麗な声。

魔王「退け」

魔王の一声で、魔族達はまたセリシアと龍黄の間に道を造った。だが彼女はそれ以上近寄らない。

セリシア「今日は新たに就任した魔王にご挨拶に。おめでとうございます。」

和やかな会話に思えたが、何故か私の体は勝手に警戒をしている。

隣を見たら…飛成とアステリアは呆気にとられていたが、羅希は私と一緒で警戒している。手には短剣。

龍黄「……セリシア、そんなことで来たのではないだろう。俺を害さないのなら…あの2人か。」

龍黄の…実体のある声だった。

だが口調や話していることが別人だった。

瑠美那「羅希、あの人知ってるか?」

私が視線を逸らさないまま、隣に尋ねた。

羅希「いや、でも…龍黄と…私の中の人は知ってるみたいだ。」

“私の中の人”…羅希にもいたんだ、あの声の人が。

別人だとしても、同じような存在がいる。

瑠美那「……こっちもそうみたいだ。」

――――俺たちは遠い昔にセリシアに陥れられて、殺された。今も呪われて、転成しては人に取り憑いている。

瑠美那「……じゃあ、私と羅希にかかってる呪いって…」

――――俺たちのことだ。セリシアを止めてくれ、彼女が俺たちを……

声が消えた。いや、声の気配すら…
瑠美那「………死んだか?」
羅希「こっちも消えたよ。」
私の言葉の意味を理解して、羅希がそう言った。

セリシア「……いいえ、本当に挨拶に来ただけ。もうこれで最後…だからこれから王達にはお世話になるわ。」
実に友好的な態度だったが、実に腹黒そうな微笑みだ…。
彼女は笑顔のまま、私達の方を向いた。
ぎょっとして、みんな獲物を構える。
セリシア「希麟 ( シイリン ) 、あなたの努力は認めてあげる。」
一瞬、彼女の周りの空間が歪んで、セリシアの姿が消えた…と思ったらいきなり私達の目の前、バルコニーの手すりに出現した。
瑠美那「うぉ!?」
羅希が私を庇うように、前に乗り出してきた。
羅希の肩越しに見えるセリシアの顔は、キリッとしていて整っていた。
瞳の赤さと、唇の赤さが際だつ。
今の龍黄の様な赤黒さでもなく、飛成のような紅でもない、ルビーのような鮮やかな赤だった。
セリシア「でもね、貴方が解けるのなら、“先代達”がとっくに解いていたわよ。諦めなさい。」
彼女の体がまた宙に浮いた。
羅希「何故、貴女はこんな事をしているのですか!貴女のせいで数え切れないほどの者達が命を落としました。精霊王と魔王までも!」
羅希が去ろうとした彼女をそう言って止めた。
羅希「貴女の犯した事は、何の意味があるのですか!」
セリシア「それが知りたかったら…」
彼女の周りの空間が歪んだ。
セリシア「貴方も抵抗せずに大人しく死になさい。」
その言葉に飛成と私が乗り出し、今度は羅希が一斉に庇われた。
こちらが戦闘モードに突入した瞬間、セリシアの笑みに殺気が満ちた。
私だけではなく、全員がひるんだのが分かった。
殺気自体はそんなでもない。でも全身が凍り付いたようになる。本能的に、彼女の強さを悟っている。

!!!?

一瞬だった。気が付けば城の外へ投げ出されていた…と思った。だが実際は違った。
城の上部、私達のいた部屋が消滅したのだった。
瑠美那「っ……」
“飛ぶ”と言うより、“宙に静止する”イメージを浮かべたら、あっさりと魔法の布は私の体を受け止めてくれた。
まわりを見回してみる。少し下にアステリアの腕を掴んで飛ぶ飛成( フェイソン)
そういえば、ちゃんと見たことがなかった。彼女の濃い碧の、海の色の翼。龍黄のように少々虫のはねとかガラスのような感じではなく、鳥の翼だ。
飛成「瑠美、後ろ!」
言われて、とにかく動くことをイメージした。が、布は超高速で落下を始める。
ちょっとびっくりして、とりあえず冷静に再度止まるイメージを浮かべる。
瑠美那「はぁ、はぁ、はぁ……扱いムズいぞ……」
絶叫マシン並みの怖さを感じた甲斐はあった。どうやらあの行動は正しい判断だったようで、さっきまで私のいたところに剣を構えたセリシアがいた。
そしてその更に上に、羅希。
羅希「ヴァーン!!」
魔力を帯びた言葉。力強いそれと共に、セリシアの体が炎とそれらの大爆発に包まれた。うなる炎に気をとられたら、急に布が脱力したので慌てて力を込めた。その瞬間、炎の塊の中から羅希が飛び出してきた。
瑠美那「羅希!」
吹き飛ばされたようで体勢が整っておらず、落下速度が速い。受け止めたらちょっと苦しかった。そして見た目によらず超重いぞ、減量しろ…。
羅希「ごめんっ…」
そう言う彼の肩越しに見える、背に生える翼にぎょっとした。なんとも禍々しい。
色が…血や内臓とかこすりつけたようなグロテスクな紅で、うっすら発光している。
形も“翼”なんて言える代物じゃない。ただ無造作に何本もの紅が、羅希の背から争うようにしてめちゃくちゃに突き出している。それらが集まって、出来た塊。
コレが呪われた翼……。
瑠美那「…前は金色だったよな…」
羅希「うん?」
記憶が戻った今なら思い出せる。
羅希の昔の翼…呪いなど受けていなかったときの翼は、薄く白で覆われたような、淡い金色だった。見た目もふわふわしていて…。
瑠美那「って今はこんな事思い出してる場合じゃねえ!!」
羅希に離れてもらって、セリシアに視線を移す。
さっきまで轟音を立てて燃えていた炎が四散した。そして案の定、無傷なセリシア。
羅希「( フェイ) !時間稼ぎを!」
隣にいた私に、離れて、と言って、呪文の詠唱を始める。
アステリアを城の崩壊した部屋に降ろしてきて、飛成がセリシアに突っ込んでいく。
気が付けば久しぶりに見た男バージョン。そう言えば「能力をもらった」んだから、もう男に変身できなくなったわけではなかったんだな。
かけ声と一緒に宝剣を振りかざし、空中戦を開始した2人を私はただ見ていた。
下手に突っ込めば、飛成の邪魔になる。とりあえず、加勢できる状態にならないか見極める。
剣技としては飛成が確実に上、力もそうだ。だけど、セリシアには魔法がある。あの城の上部を詠唱無しで吹きとばすくらいに強力な…。
飛成の力を込めた一撃が、セリシアの腕を少し大きく反らせた。そこでデカイ銃声が数回響いた。銃弾がセリシアの手元を見事に打ち抜いた。
銃撃の主は、アステリア。
恐ろしく遠い距離を、よく当てたもんだ。
彼女の剣を持つ手の力が抜け、その隙をついて飛成が彼女に容赦ない斬撃…をくりだす前に、モロに反対の手から魔法を喰らった。腹当たりで大爆発。
瑠美那「飛成!」
………意識なさそう。
慌てて全速力で落ちていく彼を追いかける。
瑠美那「……てうわあ!?!?」
飛成にばかり目がいっていて、セリシアのことをすっかり忘れていた。彼女は私の真後ろで魔法の準備万端。
100%かわせない。
瑠美那「…え」
おお助け船!
私達の間に、龍黄が入ってくれた。セリシアが放った魔法は龍黄の掲げた大鎌にぶつかって散った。
瑠美那「ありがと、あとよろしく!!」
セリシアから逃げるように、飛成を追いかける。
なんとか飛成のキャッチに成功。
案の定気絶している。腹の部分の服は焼けこげて、火傷を負った腹部がむき出しになっている。
瑠美那「飛成、聞こえてるか?……おーい」
飛成「………」
反応無し。
とりあえず、安全な場所に連れて行こうと、降下をする。

羅希「……」
急に、全身が重くなる。魔法の力に押され始めている。ここで受け止め切れなければそれは暴走し、自分はタダでは済まないし、周りもどんな被害を受けるか分からない。
さっきまでセリシアと飛成の戦闘を見守っていたが、これからは集中しきらなければならないので、目を閉じ、外界から自分を隔絶した。
……ちょうど、そうした直後に飛成がやられたので、運が良かった。
羅希「………っ」
思った以上に、魔法の力は強かった。
けれど、コレを成功させなければ…セリシアは倒せない。

――――セリシアを倒して、倒して、倒して……

五月蠅いほどに、いつも自分の中にいた女に言われていた言葉。
成さなければならない。セリシアを倒す、そうすれば…瑠美那も、自分も助かる気がした。

――――重い物を抱えた時に使う魔法はまず成功しない。

羅希「………」
急に思い出された、あの人の言葉。いつも、大切な時に浮かぶ、あの男の言葉。

重い物って…そんなもの持ちながらだったら集中できない。

――――正真正銘の馬鹿だな、貴様は。大切なときに…ここぞと言うときには失敗するぞって事だよ。

……ここぞと言うときだから、魔法を使うんだろ?成功させなきゃダメじゃないか。

――――そうだ、でも魔法を使うとき、絶対に何かの為にとか、失敗したらどうなるとか考えるんじゃない。とにかく敵をブッ倒す。それで十分だ。

………標的はセリシア。アイツを倒す。

…………ついでに………

羅希「……アンタもブッ倒すつもりでいくさ…ロリコン野郎…」
そう呟く羅希は明らかに目つきと性格が違った。そしてそう呟く先は、セリシアでも此処にいる誰でもない。


龍黄とセリシアの攻防はすべて魔法。
さっきまでの飛成VSセリシアとは違い、手助けできる余地などない。
それに、2人の戦いは、もう私の想像の範囲を超えていた。
物陰に隠れて様子を見ている。爆風が激しくて直視していられない。
轟音がずっと鳴り響いていて耳が痛くなってきた。
瑠美那「………れ?」
急に爆風はなくなり、轟音が聞こえてはいるがずいぶん遠くに思えた。
アステリア「おい」
気が付けばすぐ後ろにアステリア。ずっと風に煽られていた私と飛成とは違い、髪に乱れはないし服も汚れていない。
瑠美那「……何コレ」
すぐに、何故風がなくなったか、轟音が遠くに聞こえるのか分かった。
私達3人を守るように、透明な壁が出来ている。
アステリア「見て分かるだろう。結界だ。」
彼が私の腕から飛成をはぎ取った。
瑠美那「アンタ、魔法使えるんか。」
アステリア「……一応。ここでは治療できない。移動するぞ。」
結界のおかげで快適に難なく移動。
………言おうかと思っていたが、アステリアの目が碧…いつの間にコンタクト入れたのか分からないが、超似合わない。
いちいち言うことでもないので心に閉まって置いた。
アステリア「……瑠美那、五つ数える前に伏せて何かにつかまれ。」
瑠美那「え…」
とりあえず私はしゃがんで手近にある物…その辺の植木に捕まった。
瑠美那「何が起きるんだ?」
アステリア「……希麟が何か使うみたいだな。」
あーなんか魔法使おうとしてたね。
てか、会社で一緒にいた時のクセだと思うけど、「シイリン」=「羅希」って分かりにくい…。
アステリア「……きた。」
その言葉から数秒後。
どこからか生じた強烈な爆風は、アステリアの結界を簡単に突き破った。
あたりはさっき以上の強風と轟音。オマケに閃光で包まれた。

羅希「……っはぁ」
魔法は押さえ込んだ。あとはコレを爆発させるのみ。
龍黄はセリシアとの戦いを、羅希が見える位置…なおかつ羅希に邪魔の入らない位置でしてくれていた。
その戦いを一瞬見て、やはり彼は“魔王”である、と思った。
明らかに強い。
一発一発の攻撃が、兵器のようだ。
龍黄が、セリシアの隙を見計らって、こちらを見た。
羅希「………」
彼は、これをセリシアに打ち込む隙を作ってれる。そう思えた。
羅希はじっと目を凝らせて、セリシアの隙と龍黄の動きを伺う。

龍黄が魔力でセリシアの腕を狙う。
衝撃波のようなそれを、セリシアの放った黒い光の線が打ち破り、更に龍黄に飛ぶ。それの上から同時に剣を振りかぶる。
龍黄は黒い光を避けようともせず、セリシアの剣に立ち向かおうともせず、黒い光に突っ込んでいった。
一瞬のやりとりだった。

羅希「…神々の振り翳す星辰の猛り 我が天罰を下さんとする者へ 太陽神が審判を下す」
一瞬のやりとりで、セリシア本体は攻撃の標的を失った。
龍黄は黒い光のダメージは受けたが、それでもそれを越えてこの魔法の攻撃範囲からは逃れられる。
隙は出来た。
羅希「天翔」
雲が一瞬にして大きく割れた。
魔界の暗闇の空に、一瞬の光が差した。
その自然の光そのものがセリシアを敵にし、攻撃する。
その光景は目を潰そうとする閃光で、誰も見ることは出来ない。

しばらく目を開けることも息をすることも出来なくなって、ただ飛成と木にしがみついていた。
魔法なんて嫌いだ…。
風は一瞬でパッと静まった。けれど土煙がとてつもない。
むせかえりそうになったところで、またアステリアの結界に救われた。
アステリア「……しばらく移動は無理そうだな。………生きているか?」
瑠美那「………死んだ。」
身も心も疲れきって飛成の上に崩れ落ちる。
アステリアは余裕ぶっこいて乱れた髪を直したりしているが、私はもう開放感と疲労感でそんな余裕はない。
アステリア「……その布で3人担いで上れるか?」
彼のその言葉に対し「何処に?」と聞き返そうとしたが、すぐに分かった。
城の最上階(と言うか、残っている部分)に。
瑠美那「………ちょっと乗って。」
試しにアステリアが飛成を抱えて、布の上に乗る。そんでもって力んでみた。
瑠美那「……重い感じあるけど、なんとか行けそう…」
予告なしに、そのまま上昇した。あんまり長時間浮いていられる感じがしなかったので、なるべく急いだ。
ある一線で、土煙の上に到達、視界が開けた。
瑠美那「ああっ、っだああ!!」
開けた視界で見た物に驚き、そのせいで布のコントロールを忘れて脱力、更に驚いた。
すぐに体勢を整えられた。
瑠美那「……どうする?」
アステリア「私に聞くな。」
瑠美那「………だってーーーー!!!」
半泣き。だって………
目の前にある光景は、完全に落ちている羅希をぶら下げて悠然とたたずむ(って言っても浮いてるけど)セリシア。
龍黄の姿は見あたらない。
状況から言って、もうやられちゃったと思う。
アステリア「とりあえず、城の上に行け。けが人抱えてでは戦うに戦えないだろう。」
瑠美那「分かった」
彼女が攻撃を仕掛ける前に、城の上に着く。
その前に、そこに龍黄がいることに気が付いた。
瑠美那「龍黄!」
横たわる彼のすぐ上に着地。
龍黄「…瑠美?」
マントが焼けこげていて、全身の所々に小さめだが重い火傷の後。
龍黄「思ったよりも強かった…」
体を動かすのはどうか分からないが、話すことはそんなに辛くないらしい。
瑠美那「それは十分分かるんだけど、これからどうすればいい!?飛成も羅希もやられちゃったし、逃げるにしてもけが人3人だし」
龍黄「………とりあえず、瑠美だけは逃げろ。彼女は君なら迷わず殺す。」
…………え。
ちょっと、やめてよ、そうゆうの。
瑠美那「みんなは?」
龍黄「僕や羅は絶対に殺さない。飛とアステリアは殺すことに意味がない。だけど瑠美を殺すことには意味がある。」

やめてよそうゆうのおおおおお!!!!!!

瑠美那「いやぁ!てかどうしてーーー!!!」
龍黄「“君の中の人”がセリシアには邪魔者だからだよ…。」
なにぃ!あんのやろう、タダじゃおかねー
龍黄が大鎌を杖代わりにして立ち上がった。
龍黄「……セリシアを引き留める。その間に人間界へ戻るんだ。神族は…人間界で全力は出せない。」
瑠美那「っつっても…」
彼の足は不安定で、いつ倒れるかも分からない。
龍黄「それに、君が最後の“鞘”だから、殺されるわけにはいかないんだ。」
瑠美那「なんか大変なことは分かるけどなんのこっちゃサッパリ……とりあえず分かった。」
いきなり死んでたまるか。
飛び立つ用意をしようとした。
アステリア「…ひとつ提案がある。」
意外にも、アステリアが口を出してきた。
アステリア「…ここであの女を追い払えば、逃げる必要もないだろう?」
何を言いだすかこの人は…。
瑠美那「それができないから…」
アステリア「少し、任せてもらえないか。」
自信満々と言ったその様子に、任せてみようか…という思いが湧いた。
龍黄の方を見てみる。彼は頷いた。
アステリアはどこからかライフルを取り出して、その場にしゃがみ込む。そして床に手を伸ばした。
手を伸ばした先にあったのは、龍黄の体から流れ出た血の溜まり。
それを指ですくって、舐めた。
アステリア「…下がっていろ。始めは力の調節が出来ない。」
龍黄に肩を貸して、城の半滅した柱の影に隠れた。

瑠美那「……アステリア、強いのか?」
龍黄「わからない。でもこの際、賭けるものがあるなら賭けてみたい。」
瑠美那「……そうだけど」
それでアステリアが死んだらどないすんねん。
龍黄「でも常人よりは確実に強いはず。上手くすれば僕よりも強いかも知れない。」
瑠美那「へ?」
龍黄「さっき僕の血を舐めただろう?精霊や魔族でも、僕の血を体内に取り入れれば異常は起こすはず。でもあの様子だとなんでもなさそうだし…。」
瑠美那「……てかなんで血、舐めたんだろうな。」
美味しそうだったから?
アステリア「それはこれから教えてやる。」
アステリアがそう言って、こっちを向く。
その瞬間、ちょっと不思議なものを見た。
瑠美那「え、目、赤い…」
さっきまでコンタクトでも入れていたんだろう、と思っていた、あの似合わない碧の瞳が、赤かった。
見覚えのある色。
瑠美那「………」
私は隣の龍黄をのぞき込む。
この色だ。
龍黄の、もう昔とは全く似つかない、真紅の瞳。

アステリアとセリシアが対峙した。

セリシア「お前は……」
見覚えのない男。だが彼女は警戒していた。
アステリア「……早く始めよう。どうやら魔王の血は…他とは違うらしい…」

それこそ、完全なる魔王の瞳だった。

戻る  帰る  進む

広告 [PR]  冷え対策 キャッシング わけあり商品 無料レンタルサーバー