―――29―――
会食堂には相変わらず豪華な食事の数々。
だがそれを囲むメンバーは、いつもよりも少ない。
龍黄と飛成とアステリアがいない。
龍黄は…もうここには来れないし、アステリアはセリシアと戦ってから三日三晩寝込んでいる。ちなみに飛成はその看病。
外傷は至って小さなものばかり。命に別状はない。セリシアと信じられない熱戦を繰り広げ、そして彼女は引き上げた。彼女もほぼ無傷だったが、これ以上の戦闘は無意味と考えたらしい。
そしてアステリアはその後に倒れた。
龍黄の見立てでは、彼の血を飲んで慣れないのに強大な力を振るった反動だろう、らしい。
サンセ「はい、ありますよ。昔はそれでやたら変な事していましたけどね。」
私はサンセに、アステリアのあの強さの謎を問いただした。
私が推測した、『アステリアは他者の血を飲むとその血の持ち主の力をコピーできる』という感じな力。
そしてサンセはあっさり肯定した。
サンセ「なんか変な動物の血を飲んで、夜目が利くようになったり反射神経鋭くなったり。何に使うんだっていうのもあるんですけどね。」
瑠美那「ほー便利だねー。そういえば、羅希はアイツに血をあげたことある?」
羅希「ないけど、なんで?」
瑠美那「なんか目が碧になってて、んでなんか魔法とかいろいろ使ってたんだ。今思うと、あれって羅希じゃないかなーと思うんだ。色似てたし“魔法”だし」
「それには僕がお答えしよう!!フォァ マイ ラヴァーーー!!!」
羅希が短剣を取り出す。聞こえた声がベーガンツだからだ。
何かといきなり背後からとか、天井からとか、登場しては羅希にとびかかって(とびついて)きていた彼だが、今日はフツウに部屋のドアを開けて登場。
羅希「来るなっ!なんでアンタがここに来るーーーー!!!!」
ベーガンツ「なんでと言われても。もちろん君に会いに、そして招かれたからさ!」
サンセ「ちなみに僕が招待しました。人数は多い方がと思いまして。」
羅希「サンセ、余計なことをー………」
ベーガンツ「そうそう、何故兄貴がハニィの血を持っていたかだね。それは…」
瑠美那&羅希「ストップ!!!」
私と羅希の声が同時に飛んだ。
瑠美那「『兄貴』?」
ベーガンツ「兄貴はもちろん、兄貴のことさ!アステリア・ロッティス・クライム・ア・ラ・リェーゼ・ヴァル・ヴァヌス」
しばらく考え込む私と羅希に、サンセがどこか面白そうに横から入る。
サンセ「言っていませんでしたが、ベーガンツ様は領主様の実の弟君です。領主様の母君が自害される直前に産み落としていたお子様です。」
ベーガンツ「立派なヴァル・ヴァヌス王族さっ!」
羅希「うわー似てないー!飛ーコレがアステリアさんの弟って許せないでしょー!?ちょっと一緒にコレ抹殺しよ――!!」
瑠美那「ぉぃ」
確かに………顔も性格も似てねぇ。これがアステリアの弟……兄貴とは違ってどこをどう間違って育てられたのか……。
ベーガンツ「それで、兄貴がハニィの血を持っていたワケは、僕が入手したのを兄貴が発見してお裾分けしたからさ」
瑠美那「お裾分けって……羅希の血を?」
ベーガンツ「そうとも!夫になる者として、しっかりワイフの健康状態は知っておこうと思い、夜に密かに注射器で抜き取ったのさ」
羅希「……私、一応寝込みの襲撃は慣れているはずなんだけど………」
マジびっくりの様子の羅希。
彼ほどの戦闘のプロなら寝込み襲撃くらい気が付くと思うのだが…しかも注射しても起こさないとは…。飛成「るおおおおーーーー!!!!アッスーが起きたああーーーーー!!!!」
サンセが食事を始めようといった瞬間、飛成が大扉を蹴破って叫びながら羅希にとびついた。
彼女はアステリアが倒れてから三日間、ろくに眠れず食事もできずに彼の側にいた。
よっぽど安心したのだろう。羅希の首に巻き付いて、締め上げていることにも気付かない。
飛成「うわああああああ」
ボロボロに泣きじゃくって、羅希を道連れにして崩れ落ちた。
その瞬間、2人の頭上を何かがかすめて通り、先の壁に突き刺さった。
瑠美那「矢文…」
羅希はちょっと逝っちゃいそうになっていてそれどころではなく、飛成もまたそれどころではないので気付いていない。
矢の軌道を辿っても、発射源はわからない。
軌道の逆を辿ると行き着く先は何もないただの壁だし、誰にも当たらない。
矢文をほどい読む。
瑠美那「……羅希。コレただことじゃな…飛成、羅希の顔がもう青くなり始めてるぞ。」
飛成「ふぇ…あ、ごめっ」
羅希「う゛…平気…で、何……」
瑠美那「…龍黄から…みたい」
なんで矢文なのかは分からないしどこから飛んできたのかも分からないけど、始めに龍黄の名。
その後に続くのは…よく読めない。
羅希がどこかドキドキした様子で手紙を受け取った。
速読で一気に読み通し、見て数秒後に手紙を閉じて
羅希「…明日また出かけるよ。」
と言い出した。
瑠美那「なんて書いてあったんだ?」
羅希「……龍が神界を説得してくれたみたい。」
飛成がえ、と声を漏らし、たちまちまた泣いて喜びそうになる。
羅希「でも」
それを羅希は少し強く言って押さえた。
羅希「あまり相手側は乗り気じゃないみたい。あくまで話せるだけのようだ。」
そう言う彼の顔は、それでも曇っていない。
本当にわずかだが希望が見えそうだから。日も昇らない早朝、飛成に起こされた。
昨日用意しておいた服に着替え、荷物を持って広間に走った。
広間には既に用意済みの羅希。
アステリアは念のためまだ安静にしている。というか、本人もちょっと具合悪いらしい。
そして、闇に紛れるようにして入り口にいるのは龍黄。髪はやはり黒く、一瞬暗闇で瞳が際だった。
飛成が私が止まったのを見て、場の雰囲気が悪くなる前に声を出した。
飛成「…じゃあ、行こうか。」瑠美那「………っうえ…」
また先日魔界行きで味わった絶叫ワープを体感した。
着いた先は、教会のような雰囲気の象牙色の素材をした建物の内部。
羅希「大丈夫?」
瑠美那「……どうでもいいけど、もっと快適に移動できねーのかな…うあ、吐きそ…」
吐くなら羅希のローブのフードに吐いてやる、と彼のフードを掴んだが、その意図が見破られて彼は私の後ろに着いた。
龍黄「…多分、神王に話は出来なくても、それなりに上階級の方には話せると思う。」
飛成「うん、龍ありがとね。いろいろと」
そう言って、彼女が龍黄の頬に軽くキスをした。
龍黄「……」
飛成はその後の龍黄の反応など気にもせずに出口に走る。
羅希「どうしたの?」
ちょっと固まっている龍黄に、羅希が顔をのぞき込みながら問い掛けた。
龍黄「……あれが“飛成”かと思うと…ちょっと妙な気分になるね。」
羅希「………まあね。」
どうやら2人の頭にはまだ、「飛成=男」が着いているらしい。面会は、コチラから話すことは特にはなかった。
コチラの情報は、神界サイドも大体知っているようで、結局言うことは「助力を頼みたい」だけだった。
話を聞いてくれているのはいかにも「神様」という格好と態度のケバ……凛とした女性だ。赤毛に薄黄色の衣がよく似合う。
『ヴァレスティ』と名乗った。
ヴァレスティ「正直言って、この話し合いはあまり意味がない。結局は神王が動かねば一般の神族も動けぬ。一応この件は神王に通してみるが…多分、あの方は動かぬよ。」
瑠美那「おい、長時間話させといて今更なんだよその…グムッ」
ちょっと乗り出してけんか腰になった私は、飛成&羅希に羽交い締めにされ口を塞がれた。
飛成「瑠美!相手誰だかわかってんの?!あんまりそうゆういつもの態度でいないでよっ」
ひそひそ声ではあるが、超至近距離でちょっとうるさかった。
羅希「失礼いたしました。ここへ訪ねる前から勘付いていました。けれど、これしか道がないので…」
ヴァレスティ「…そうか。私や周りの者でよければ、出来る範囲で協力しよう。神王には内密になるが。」
彼女はそう言って、人の良い笑みを浮かべた。そしてどこかいたずらっぽい。
瑠美那「マジで!?オカミさんいい人じゃんー!」
その場にいる者から一斉に容赦ないツッコミがきた。羅希「それでは早速質問があるのですが。」
私は猿ぐつわを付けられて、飛成の監視下に置かれて話し合いを黙って(黙らされて)見ていた。
羅希「先日、魔王の継承式でセリシアに会いました。その時は撃退できましたが、彼女はどうも本気ではないような気がして…。彼女は神界においてはどの程度の実力の持ち主なのかを。」
ヴァレスティ「…彼女は昔一度封印された。どんな悪事をしたのかは極秘で私も知らない。だがその存在自体が神王をも上回り、危険とされた。その時は精霊王と魔王が生け贄になってようやく封印が出来た程度だ。」
私からでは羅希が驚いているのか見えない。けど多分驚いてるだろうな。
ヴァレスティ「そして彼女は何故か復活した。過去に会った力はかなり失われたが、その後に神族の目の届かぬところで特別な方法で徐々に強くなってきた。」
羅希「特別な方法?」
ヴァレスティ「神族は完全な存在故に自力で成長することが出来ない。ならどうやって強くなる?」
………筋肉増強剤?
羅希「…他者の力を奪って。」
なんだ。
ヴァレスティ「そう。彼女はそうしていたのだ。ただ、他の者とは違って戦場に赴き敵神族と戦うのではなく、成長できる者を成長させ、それから繰り返し奪い続けた。」
………私って思考能力が少ないからよく分からなかった。それってどうゆうこと?
飛成「と言うと…あれ?なんかガチョウに無理矢理エサ食べさせて肥らせてから食べるっていうのみたいな?」
フォアグラかい。
ヴァレスティ「まあ、似てはいるが…。希麟殿、私が何の話をしているか理解できているか?」
あ、なんかこの人、私と飛成は馬鹿だから羅希と話を進めよう、とか思ったな?今
羅希「はい。……私と瑠美に取り憑いている人達のことですよね。」
何故分かる?!
ヴァレスティ「そうだ。」
しかも正解?!
羅希「……全体を通して言うとね…」
私と飛成が理解できていない事を知って、羅希が私達に丁寧に解説。
羅希「私と瑠美に取り憑いていた人達がいるだろう?」
うんうん。
羅希「それを言いやすく“呪い”と言っておくけれど。セリシアがいろんな人達に呪いをかけてその効果で強く成長させる。
で、良い具合に成長したら、殺して力を奪っている。
こうすれば、わざわざ自分が身の危険を冒して神族と戦わなくても、ただ待つだけで力を奪えるエサが勝手に成長するだろう?まあ、家畜みたいなものだね。」
飛成「そんなことしなくても、他人の力かたっぱしから奪えないの?」
ヴァレスティ「神族は核を持って存在している。もともとは個体ではないのだ。その核が力の源、それを奪うことが『力を奪う』ことになっているのだ。
セリシアの操る者は、セリシアの分身のようなもの。エサと一体化したそれと、再度合体するようにして取り込んでいるようだ。」
ほぉーよく考えてあるねぇ。
瑠美那「ふぇもは、ほいふへひひはほほへへっへ…」
羅希「……飛、くつわ、取ってあげていいよ。」
羅希の指示で、私の猿ぐつわが外された。
瑠美那「ふう…でもさ、そいつ『セリシアを止めてくれ』って言ってたから、セリシアに従ってるワケじゃないんだろ?取り憑いてる人となんとかコンタクトとって、一緒に協力して、強く成長させちゃったりセリシアと合体しちゃったりって言うのをとめらんねぇの?」
羅希「あー無理。」
あっさり羅希に肯定された。
羅希「多分、セリシアが動かしているのは私の中の人だけだと思う。」
瑠美那「なんで。てかじゃあ私の中のは何者?」
羅希「だって私の中の人かなりイカレてて正気じゃないから。セリシアに従ってはいないけど、バリバリ利用されてるね。」
瑠美那「は……」
羅希「あとさ、前に話したおとぎ話覚えてる?あれってある程度正しいと思うんだ。
狂った女の人が私の中の人で、それを止めるのに瑠美の中の人が追いかけて同じように取り憑きまくっているんだと思う。
『“呪い”は常に一世代に二つ』っていうのはこうゆう訳だろうね。」
瑠美那「うわ、じゃあ私ってお前の道連れじゃん。またぁーやめてよそーゆうのー」
ちょっと羅希が傷ついた顔をした。ま、べつにお前のせいじゃないってのはわかってるんだけどさ。羅希「あと最後に…」
ヴァレスティ「どうぞ。時間はある。」
羅希「…“カルネシア”って人、ご存じですか?」
誰?
知っているか、という視線を飛成に流したが、彼女は首を横に振った。
ヴァレスティ「ああ、よく知っている。」
羅希「…やっぱりセリシアに関係ありますか?」
彼女が少し苦笑いを浮かべた。
ヴァレスティ「…見て分かるだろう?」
羅希「ですよね…。」
ヴァレスティ「多分、今回の件を進めていけば自然と協力を願うようになると思うが?」
羅希「……はい、わかっています………。」
……なんか羅希がかなり不満げだ。
よっぽど嫌いな人なのか…?でも羅希がそこまで嫌うなんて珍しい。
ヴァレスティ「それにしても、よく彼を知っているな。神界ではいろんな意味で有名だが、精霊界では極秘だろう?特に幻翼人の間では。」
羅希「まあ、交流があったもので…少しの間。」
ヴァレスティ「…ああ、彼に鍛えて貰ったのか?それならば嫌いになるのも無理はあるまい。
だが彼は神界でも指折りに強いから、感謝もしていた方が良い。」
というヴァレスティの目は哀れみがにじんでいる。
ヴァレスティ「だが最近、神界でも彼とのコンタクトがとれないのだが、元気にしていたか?」
羅希「…もちろん。」
羅希、すっごい嫌な顔…よっぽど嫌いなんだな。何者だカルネシア…
ヴァレスティ「希麟殿、今回の件、早めに彼に協力を頼んだ方が良いと思うが…。恐らく彼なら神王を動かすことも出来るかも知れぬ。」
その瞬間、羅希の頭上にドリフコント王道の金ダライが落ちてきた。ように見えた。
羅希「……………………………………………………………………………わかりました。」
エラく長い沈黙だったな。
ヴァレスティ「きっと彼にもこの件は耳に入っているだろう。私から手紙を書いておく。明日お主の元へ飛ばそう。それを持っていくが良い。」翌日、黄色い蝶がやってきて、羅希の手に止まったと思ったら手紙に姿を変えた。
便利だな〜。
羅希はずっと鬱ぎ込んでいて、目も虚ろで、手術前のような様子だった。
飛成「羅、ずっと聞こうと思ってたんだけど…」
聞きたくても聞けなかった状態を破って、飛成がついに質問。
羅希「…カルネシア…?」
先手を取られた。
羅希「…私の…生みの親だったり育ての親だったり……」
悩みを打ち明けるような様子でそんな重大なことを発言された。
飛成「羅、親いたの!?あ、いや、いるかも知れないけど、自分の親、知ってたんだ…」
私の記憶だと、羅希が一緒に住んでいた家族は、葉蘭 の両親だった。姿形全然似てないからすぐに分かったし、羅希本人からも聞いた。
ってことは、思い直してみれば羅希は孤児というか、捨て子というか…。
飛成「ってことは、羅って…神族なの?」
“カルネシア”は話からして神族らしい。その子供って事は神族だろう。
でも、羅希って幻翼人って…
羅希「いや…。私自体が自然の生命繁殖の律に逆らってできたから…。」
瑠美那「…っていうと?」
羅希「…クローンってあるだろ?アレに近い。
生成された肉体に“カルネシア”の生命力を入れて生まれた…らしい。
なんか知り合いに聞いた錬金術の実験で作っちゃったとか言ってたな…。」
作っちゃったって…おい…。
飛成「え、じゃあ羅って人形?」
酷なこと言うな、飛成。
羅希「いや、始めは人形程度だったろうけど、定着すればちゃんと生命活動するし…カルネシアが失敗してなければ普通の人と変わらない。」
はず、と弱々しく付け足される。
なんかコイツ自体すごい存在だな。
羅希「…10になるときだったかな…家出して…近くに幻翼人の村があったから、カルネシアは幻翼人を作ったんだと思う。だから、そんなに異端に見られなかったし…。」
瑠美那「家出って、そんなに嫌だったのか?カルネシア。」
私がそう言った瞬間、彼の周りの空気が重くなった…気がした。
羅希「そりゃあもう。貴様は戦うために生まれてきたんだと言わんばかりに毎日毎日…。
それに、あの人時間感覚がやっぱり神族だから、私の体に全然あってないし…。
言ってることもメチャクチャで相手を子供と思っていないし…。
ああ、いやだ、思い出したくない……!」
………完璧にトラウマだな…。
そんだけビシバシやられてりゃ強くもなるか…。
羅希「最近、何かと忙しくて鍛えてる暇無かったから少し体弱くなってきてるしもう成長して大人になっちゃったし、こんな状態で行ったら絶対に殺される…」
もう、これ以上羅希をこんな状態にしていたら壊れてしまうかも知れない…。
瑠美那「じゃあ、せめて事情説明とか手紙を渡すのとか、お前抜きで行った方が」
羅希「そうして欲しいけど、君ら道分かる?」
瑠美那「………メモしてくれりゃ…なんとか行ける…かも?」
羅希「そんな描けるような場所じゃないよ…もうジャングル状態だし、結界貼りまくられてて慣れてないと幻覚見えるし、勘とか方向感覚が全く効かなくなるように出来てるんだけど…それでも私抜きで行けると…?」
瑠美那「あー無理かも。ってか大丈夫かお前、ちょっと寝た方が良いぞ。」
とりあえず、こんなことで彼を失うわけにはいかないだろ…。やっとこさカルビー登場〜
でも羅希の話聞いてて、絶対引いた人いると思う(笑)
2ではイイ兄貴だけど、1ではスパルタ親父なのですよ…(爆)
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