―――30―――

翌日、羅希は眠ったら少しは落ち着いたらしい…というか、もう開き直ったというか…。
なんだか嵐の前の静けさというように落ち着いている。
飛成「瑠美、キツくない?」
男バージョンの飛成が隣から水を差し出しながらそう言ってくれた。
瑠美那「…まぁ、なんとか平気」
水を受け取って、二口分くらい飲み込んだ。
羅希の話に聞いていた森、想像以上におかしかった。
見た目ジャングル。
魔界のような妙な空気。あれよりも毒々しくはないが、ただ気分が悪くなる…。
そして此処にいる間、ずっと視界が悪い。目眩を催すし、幻覚のようなものが見える。
羅希が通る道がすごい獣道に思えて、こんな所を通るのか…と思うのだが、いざ進んでみるとなんでもない、ただの道だったり…。
しかも何処を見てもまともな植物がない。
でっかい口が着いていて笑っている花や、変な液体を垂らしている花。
その他にも醜く不気味な草花がそこら中に……。
瑠美那「どわああ!!!?
足を後ろから思いっきり引っ張られた。とっさに、一番近くにいたアステリアが私の手を掴んでくれた。
瑠美那「な、なになになにー!?なんかへばりついてない?!足ーーーー!!!」
アステリア「ああ……よく見れば食虫植物が食っているな。
食われてるんかい!!!冷静に判断して報告してんじゃねえ―――!!!
羅希「…〜よっと。」
羅希が植物を引きはがしてくれて、私の足は解放された。
羅希「この植物は大丈夫だよ。消化とかされないし、ただくわえられるだけだから。
それは自然界において意味があるのか…?
瑠美那「そのさあ、カルネシアって人?なんでこんなとこに住んでんのー……」
羅希「…昔、此処に閉じこめられてたらしい。後に神界移住が許可されて、一度は行ったらしいけど、しばらくしてこっちに戻ってきて、それきり。」
そう言い終わってすぐに、羅希がぴたり止まった。
何かと思ったが、すぐに分かった。
何かが近づいてくる。
大きい動物だろうか。足音が走り寄ってくる。
羅希「気を付けて獰猛な奴だ。戦うときなるべく離れないで!」
私達は四散した。
その輪の中に、ライオンサイズの化け物が突っ込んできた。
全身に毛はない、青白い皮膚に気持ち悪い緑の血管が網のように浮き出ていて、しっかりと脈打っている。
口から鋭い牙がメチャクチャにとびだしていて、筋肉質な前足後ろ足には赤い爪。
私が剣を構えた時には飛成が獣に斬りかかっていた。
獣はそれを脇に避け、そこをすかさず羅希が拳を叩き入れる。
獣は吐瀉物をまき散らしてひるみ、激しく脈打つ部分、おそらく心臓近くのそこに、私が剣を突き刺した。
小さめの噴水のように血が流れ出て私の腕にもかかった。
突き刺した剣をそのまま切り上げる。肉と内部のものを切る感覚。
瑠美那「……!?」
それでも、コイツは生きていた。
私をギョロッとした目で睨んで、前足で叩いてくる。
防御態勢を取ったときに、飛行用の布を私の前に固定させた。
今まで使っていて、これは力を込めれば形を保とうと堅くなることに気が付いた。
だからとっさにそれで盾を作ろうとしたのだった。
叩かれた傷はないものの、そのすさまじい力に体が吹き飛ばされて、木、数本を超えるほど吹き飛ばされた。
みんなとはぐれる前に、新たに同種の獣たちが集まるのが見えた。
瑠美那「ぐっ……」
まだ地に着かぬうちに、木に激突して頭を打った。
かなりのスピードがあったので痛みと言ったらハンパではないし、しばらく目眩と吐き気で動けなくなった。

羅希「また次も来ると思う、早めにここを離れよう。」
何体も転がる獣の残骸、動くのは人3人だけだ。
飛成「羅、瑠美を探さなきゃ。確かそっちじゃないよ。」
飛成のその言葉を無視して歩き出す。その方向は飛成が指した方向とは違う。
羅希「大丈夫だよ。“あの人”が連れてきてくれる。」

瑠美那「っうえ……」
やっと落ち着いてきた。
なかなか正常にならないな、と思ったら、ここ自体妙な空気だからだった。
瑠美那「やべぇ…どこだよここ……」
辺りを見回すと、相変わらず視界がフラフラする。
そんな中で、何かがキラッと光った。
私はその光の方へ歩いていく。足は思ったよりも軽く進んだ。
やがて視界が開けた。
瑠美那「おー」
すごく綺麗な湖。ここだけジャングルが開けていて、明るい日差しが反射してキラキラしていて神秘的だ。
可愛い小さな動物が所々にいて頬笑ましい。
その湖に太い根を張った大木があって神秘的で絵になる。
その根元のひとつに寄りかかるようにして気持ちよさそうに人が浮いてるし………人おおおお!!!?
瑠美那「な、なに、死体?!ちょっとっ」
少し怖くなって、その浮かんでいる人に走り寄る。
ずいぶんぐったりしていて、間違いなく死体と思ったそれがいきなり起きた。
瑠美那「うおっ……」
黒い髪と黒い服で怪しい…。しかもそれがびしょ濡れだから怪しさ倍増。
な、なんだ、生きてんのか。
私は180°回転してその場から離れようとした。
変人に関わらない方が……。
瑠美那「ん」
歩き出したその先に人がいた。
濡れた短い黒い髪、黒い服……さっきの死体モドキ。背は高めで、羅希よりは高いがアステリアほどではない。
瑠美那「うぎゃあ!!なになに!!ってあれ、さっきあっちに…」
振り返ると、さっきいた湖の中の木の根本には……誰もいない。
「好奇心で迷い込んだか?」
高いとも低いとも言い難い男性の声だ。けど、なんだか聞き覚えがあるような無いような。
「外に案内してやるからもう来るな。二度目はないと思え。」
とかなんとか言われて乱暴に腕を掴まれて引っ張られる。
瑠美那「なんのことだよっ!私は仲間と一緒で…」
「なら後でそいつらも放り出してやる。」
瑠美那「違うって!!ここに用があって!えっとーあーー」
なんだっけ、用のある人の名前…。
ああああーーーこうゆうときに限って私ってど忘れをーーー!!
「俺は機嫌が悪い、言い訳は聞きたくない。」
瑠美那「ちげぇっつてんだろ!!!」
苛立って、その男の腕を力任せに払って突き飛ばした。でも相手は体勢をしっかり取っていたので、全然動かなかった。
「ならさっさと言え。」
かなり不機嫌な声でそう言って、濡れた前髪を掻き上げた。
瑠美那「っ……」
初めてその男の顔を直視して、言葉を失った。
キリッとしていて整った顔立ち。
ってかさーこうゆう人とかアステリアとか見てると、羅希とか飛成あたりが凡人に見えてくる…。
てか私がアレイジなんかやってたせいでろくな男見てなかっただけか?
あ、そんなことはどうでもよくて、何よりも驚いたのは、鮮やかな赤い宝石、ルビーを思わせる瞳。
それが何よりも…セリシアに似ていた。
顔全体を見れば、顔立ちもセリシアによく似ていたのだ。
瑠美那「セリシア…?うぎゃああああ!!!!????」
セリシア男版にガシッと掴みかかられてバランスを崩した。
倒れはしなかったが…肩を掴む手に力が入っていて痛い。それよりも、セリシアに掴みかかられているような錯覚があって、悲鳴を上げた。
「その名を何処で知った。」
そう言う、その男の目は必至。
瑠美那「し、知ったっていうか、もう実際にあったし殺されかけたしっ…」
「セリシアに…?何故」
瑠美那「あーーそれについて話に来たんだ。……多分アンタに。」
「………」
急に肩を放されて、転びかけた。
瑠美那「あのさ、アンタ名前、カー……カル……」
「…カルネシア」
瑠美那「あーそー、それ。神サマたちがアンタと連絡とれないって言うから、羅希の案内で協力を頼みに。」
カルネシア「…羅希?」
瑠美那「アンタがナントカ術で作っちゃった男」
カルネシア「ああ、あのヘボか。」
瑠美那「へっ……」
なんかあっけらかんと言われて、力が抜けた。
……やっぱ仲良くないんだろうなぁ…。

飛成「すいませーん、誰かいますかー?」
質素な小屋に着き、羅希は少し離れ、飛成がその扉を叩く。
羅希「……多分、この時間だとカルネシアはいないと思うけど…」
飛成「……誰かいるよね…」
小屋の中に人の気配がする。
だがそれは一向に出てこようとしない。
多分、森に私達が入ったことはカルネシアが関知してるだろうし、瑠美那は湖の近くに行ったから、彼と合流してると思う。彼が連れてきてくれるだろう。
と、羅希談。
飛成「とりあえず、カルネシアさんが帰ってくるまで待ってみる?」
羅希「そうだな。」
少し家の扉から離れる。
飛成「…でも、瑠美大丈夫かな…。」
羅希「何が?」
飛成「だってさ…僕はカルネシアさんのこと良く知らないけど…羅の話聞いてるとすごい極悪人に思えるんだけど…。いぢめられてないかなーと」
羅希「……ぶっ壊れた人だけど常識はそれなりにあるし、無意味に人を傷つけたりはしないよ。」
アステリア「…それよりも、瑠美那の方が何かしていると思わないか。」
飛成「…あ、それもそうかも。」
羅希「……まあ、罵声を浴びせられるとかはしてるかもね。」
飛成「…それなら、瑠美も負けじと言い返すんじゃない?」

カルネシア「ちんたら歩いてんじゃねぇハンパ小娘!家までブン投げんぞ!」
瑠美那「っせーなこの並カルビ丼!こっちはアンタほど野生児暮らしじゃないんだよ!!」

羅希「はぁー…あのナルシスト野郎だけには関わりたくなかったな…」
飛成「ナ、ナルシスト?」
羅希「最悪だよ、性悪口悪目つき悪ナルシストロリコン、もう私にとって反面教師だっ……っ!?」
飛成「うぉう!!?」
アステリア「………」
羅希が勢いに乗って悪口を言いまくっているところで、家のドアが勢いよく開かれ…中から包丁やナイフや刀など、刃物がビュンビュン飛んできた。
それを全員は無傷で避けきった。
「……え」
何者かと、開いた扉を見ると…そこにいたのは10歳に満たない少女だ。
飛成「女の子……?」
少女は無表情。だが、両手にはちゃっかりと剣が一本づつ。
飛成「君は…うわぁっ」
あくまで好意的に行こうとした飛成だったが、近づいたら斬りかかられた。
小さな体なのに、踏み込みや斬り伸ばしができていて、危うく腹を切られるところだった。
飛成「ちょっと、何するのっ!?」
少女はあくまで無表情。攻撃を避けきることが少々難しいので、飛成も宝剣を使って防御に回る。
羅希が彼とは反対から少女を取り押さえようと近づいた、が、少女は気付いていたらしく、剣劇の合間に背後を魔法で攻撃。
彼は少々慌てつつも横移動で回避した。
飛成「羅っ、何この子!?妙に強いんだけど!?」
羅希「私も聞きたい!」
やはり、小さな少女。ぱっと見、幼女とも思えてしまうほど幼いので、力はない。だがその分早くて、飛成を手こずらせた。
「あっ…」
羅希、飛成、少女も含む3人が声を上げた。
何処から湧いたのか、いつの間にか少女の後ろに立っていたアステリアが少女を取り押さえた。
と言うか、子猫の悪い持ち方をイメージさせる持ち方でぶら下げた。
飛成と羅希が遠くから拍手。
ぶら下げられた少女は黙って縮こまった。
少女「……」
アステリア「……?」
観念したのかと思っていた少女は小さな声で呪文詠唱をしていた。
飛成「アッスー!危ない…!かも!」
少女が魔力をアステリアの顔面めがけて発した。
アステリア「………」
が、それは彼の顔元へ届く前に力尽きて降下していき、地面に当たって小さな爆発を起こしただけであった。
アステリア「………」
少女「………」
少女は気を取り直して、剣で攻撃をしようとした。が、いつの間にか少女の手の中には剣がない。
少女「………」
アステリア「………」
アステリアが黙って少女の、手は届かないが見える位置に、剣を出して見せた。いつの間にか強奪されていたらしい。
少女「………」
アステリア「………」
少女は試しに手を伸ばしてみる。が、届かない位置を考えてアステリアも出している。
ちょっと嫌味に離してみたりしている。
少女「………」
アステリア「………」
アステリアが遊んでいるのかいないのか、微妙なところだが、少女の手も足も出ない姿は滑稽だ。
少女「………」
アステリア「………」
少女は黙って彼を見上げた。
睨むわけでもない。相変わらず無表情。

飛成「……アッスーとあの子…なんだか同じ属性に見える…。」
羅希「…なんだか似てるよね…無言なだけだけど…何考えてるのか分かるようで分からない…」
あの2人をどうするべきか、止めてもいいのか、思案している2人だ。

カルネシア「…竜花( ルンホワ) 、何してる。」
カルネシアは私のことなんかお構いなしにすたすた進もうとするから、腕にぶら下がるように、がっちり掴みかかっていた。
そうしていて数分後、やっと見えた家……よりも、はじっこにいる飛成&羅希……よりも、アステリアと彼に持ち上げられぶら下げられている少女。
カルネシアが言った「ルンホワ」ちゃんらしい。
ここから、桃色のふわふわしてそうな髪が印象的だ。
竜花「この人達カルネシアの悪口言った――!!」
羅希「っ!?」
竜花が手足をばたつかせて言う。その言葉に羅希がぎょっとしたのが見えた。
カルネシア「………とりあえず、事情は小娘に聞いた。詳しい話は中でしてくれ。」
彼はそう言って、羅希の方には目もくれずに……いや、今絶対に一瞬睨んだな!!?……家の中へ入っていった。
………目の端に魂の抜けかけた羅希がポツンと見えたが、気にせず家に入っていった。

飛成「……という感じで…神王の許可はもらえてないんですけど、ヴァレスティ様が賛成してくれてます………。」
瑠美那「……飛成、あの手紙。」
飛成「あっ…」
何故か緊張気味の飛成。ヴァレスティさんからもらった手紙のことも、私に言われるまで全然思い出さなかったようだ。
カルネシア「………」
カルネシアが足を組み直しただけなのに、飛成が妙にビクッとした。一瞬、彼女がちらりと羅希を盗み見た。
ああ、飛成はカルネシアがいつ羅希に飛びかかってしまわないか気にしてるんだな。
飛成「えっと、これ…ですね。」
飛成が差し出す手紙を受け取…らないで、そのまま立ち上がって羅希の方へ歩き出すカルネシア。
これはヤバいんじゃないのぉ〜?
カルネシア「………おい」
羅希「………」
無視りやがった。
いきなり乱暴に彼の髪を鷲掴みにして視線を合わさせる。
羅希とカルネシア、負けじとガンを飛ばしあう。
感動のごたーいめーん
カルネシア「ご主人に挨拶も無しとはフザけた犬だな貴様は。」
羅希「貴方とはもう縁を切りました。変なこと言わないでください。」
それを聞いて彼は鼻で笑う。
カルネシア「ほぉ、口は良くなったか。なら腕の方も見てやる、表へ出ろ。」
羅希が明らかに動揺した。
瑠美那「るおし〜?久しぶりなんだし、ちょっとくらい腕試してもらったら?今のお前ならまあまあ大丈夫だと思うぞ?」
と、フォローしてみるが、本心はどんなシゴキを受けていたのか見てみたかっただけ。
だって、私だって小さい頃からずっとそれなりに過酷な思いをしたが、それでも羅希や飛成、龍黄にだって劣る。
その中で一番実力上の羅希の体験、それを見てみたかった。
カルネシア「好いている女までそう言ってるぞ。いつまでも女々しくしてないで、根性出したらどうだ。」
好いてる女…てかなんで知ってんだ、それ。
カルネシアが、入り口付近に立てかけてある武器の数々から、剣を日本−片方は羅希に投げ、外へでた。

 

戻る  帰る  進む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広告 [PR]  冷え対策 キャッシング わけあり商品 無料レンタルサーバー