―――31―――
――羅希、ごめん。もう興味本位で口突っ込むのはやめ、ないけど控えるよ…。
ちょっと反省してるような感情を持って、心の中でそう呟いた。カルネシア「やることもあるしな、時間制だ。」
スッと剣を片手で構えた。まだその形は隙だらけだ。
羅希も軽く深呼吸して両手で剣を構える。――スピードでは勝てない、なら力勝負…
その構え方は両手持ちで、長期戦を避けようとしている。
カルネシア「一時間逃げ切るか、俺に軽傷でも負わせたら、止めにしてやる。」
始めるぞ、そう言った瞬間に両者走り出す。
先手はカルネシア、一発目は馬鹿正直にまっすぐ振り下ろした。
羅希はそれを払うのではなく、鍔元で制しつつそのまま斬りつけようという動き。完全に力任せだ。
羅希「うっ…」
押し返したとき、カルネシアの剣には全く力が込められてないの気付いた。
余計に力が入りすぎて少しバランスを崩した。
そして、剣の軌道線上に…というよりも羅希の視界にカルネシアはいなかった。彼は羅希の足下に深く体勢を沈めていた。
剣は放していない。そこで初めて握る手に力を込めて、無防備になった腹に刃を突き立てた。瑠美那「………え?」
何が起きたのか理解できなかった。
飛成「羅ぉ―――――!!!」
私が理解する前に飛成がヒステリックな悲鳴を上げ、羅希に駆け寄った。数秒…2,3秒の間にわずかなやりとりがあって、カルビーがザッとしゃがみ込んで、それから羅希がビクンと大きく痙攣したように見えた。
そして、羅希の背から銀の細い線が突き出た。わずかに紅い。
瑠美那「……って…」
カルネシアが静かな動きで…羅希の胸元から剣を引き抜きつつ、離れた。
飛成が脱力しかけた彼を支えた。
飛成「……アンタ何を…」
カルネシア「ちゃんと狙った。臓器は避けてある。傷ついていたとしても致命傷じゃない。」
声を震わせた飛成に、剣を軽く振りながら落ち着いた口調でそう言う。剣から血が少し飛んだ。
カルネシア「てんでダメだな。反射神経や勘が落ちまくってる。それを作戦で補おうとしていたみたいだが、頭で考えるのは逆効果だ。」
――それでも…
カルネシアは速かった。動きそのものも速いが、何よりも反応がだ。それになんだか重力も無視したような感じで、無駄がなかった。
カルネシア「昔からしつこく言っただろうが。闘うときは考えるんじゃない。相手を倒す、それだけだ。」
私達からしたら十分強い羅希に、呆れた様子で雑魚に向かっているように言葉を吐き捨てた。
カルネシア「技術自体損ねたクズと化したお前じゃ、それも逆効果かも知れないがな。」
それを聞いているのかいないのか、羅希はしばらく咳き込んで、軽く血を吐いてまた立ち上がった。
確かに、命に別状はなさそうだ。
羅希「飛、さがって…」
かすれた声でそう言う。傷口からは少し血が流れ出ている。
意外とふらつかずにしっかりと立ち上がった。
カルネシア「……今度はお前から来い。」
剣を肩に担ぐようにして、完全に隙だらけになってみせた。
羅希「……魔法は?」
怒鳴りつけるように言った。
カルネシア「有りだ。」
風が吹いた。――負 満ちたりし血 巨大なる暗黒の力
羅希の声が響く。
いつもとは違い、スローぺースの詠唱だ。
……何故か、聞き覚えのある言葉の様な気がした。――偉大そして悲しき
言葉が一瞬途切れ、力強く魔法の主の名が発せられた。
――魔王 神・里・龍黄 の威厳の元に
カルネシア「魔王…?!」
さすがにカルビー驚いてる。
飛成「はあ!?龍!?」
飛成も、もう遠くの友人となった人が、魔法で召還されるとは…。――我ここに有り 汝の敵ここに有り 威風堂々赴き 其れを討て
カルネシアの足を、地面から生えた黒い影が掴んだ。
膝元まで捕らえるそれを、少し見ただけで相手にしない。
彼はそのまま、魔法完成まで動かなかった。
足を取られて動けないのか、魔王召還の魔法を見てみたいのか……、なんとなく、後者。羅希「
魔王血印封界(ブラッディフィールド) !!」 カルネシアの足下に生えた影に似たモノが、羅希の背後に塊となって現れた。
しばらく動いていた其れがボロボロ崩れ落ちていく。
そして手品で登場するかのように(例え悪いな)龍黄の姿が。
あのヘロヘロしていた昔なんか全然思いつかないほど威厳があって、なんか格好良かった。というか、怖い。
最後にあったときよりも、明らかに“魔王”が定着してきている。
服も、神も、大鎌も…その“黒”が威厳と殺気を帯びている。
カルネシア「新しい魔王か。」羅希「…友達って事は気にしないで…遠慮無く取っていっていいよ。」
龍黄「…わかった。」
龍黄が羅希の真上に静止し、大鎌を構える。
下にいる彼の体が薄い黒に包まれ、その黒が羅希の何かを奪っていっている。魔法の代償に、魔力かなんかを取っていっているんだろう。
それに比例して、龍黄の大鎌が激しく力を帯びているのが分かる。
カルネシア「……」
カルネシアが咆哮した。
それにやられて、彼の足下の影が吹き飛ばされた。
彼は2人に向かって走る。
龍黄「…」
――なるほど、彼もよく頭が回る…。
召還された者として、召還者は守らなければならない。カルネシアと羅希の距離が近いのにこの大鎌の力を解放したら…召還魔法で無防備となっている羅希が危険だ。
龍黄は大鎌の力の解放を延期し、カルネシアに生身で突っ込んでいく。
カルネシア「……」
龍黄とぶつかる直前にカルネシアが止まり、地面に手で触れた。そこが爆発し、すごい砂煙が飛び散る。
龍黄「!」
龍黄がすぐにそれを風でかき消した。
そして姿の見えたカルネシアに、大鎌を奮った。
カルネシア「っあ!!」
一瞬の呻きを上げて、大鎌から発せられた黒い光とその衝撃派にかき消される。
地面が深く、広くえぐれ、そこの地形を乱した。羅希「龍!!」
少し離れている羅希が声を上げた。
龍黄「…!」
羅希のすぐ前に、カルネシアがいた。
――しまった、偽物 だったか…!
彼が引き返す頃には、羅希はカルネシアに落とされていた。カルネシア「あれじゃテストを替え玉にやらせてるようなモンだろうが馬鹿」
羅希が気絶したせいで、龍黄は魔界へ引き戻された。
とりあえず腹の傷を飛成が治療していたのだが、そうし始めた頃には血は止まっていた。本当に大切な臓器は避けられていたのがすごい。
カルネシア「本当にてめえが俺の一部なのかが疑える。こんなガラクタ、作ったのが失敗だったな。」
羅希「じゃあアンタ魔王呼べるのか。」
ずっと罵声を浴びせてくるカルネシアに、羅希のささやかな反撃だった。
羅希が“魔王”を召還できたのは顔見知りで、なおかつ交流があったからだ。
一般に召還される者は、『召還獣』として存在する。けれど龍黄はそれではないし、“魔王”だから召還獣なんかよりも位が高い。
羅希の場合でも、召還したときに召還獣のように契約を交わしておく必要はないが、「呼んだら絶対来い」なんて偉いことは言えない。
龍黄が来たがらなければ召還できないし、忙しかったり取り込み中だったりお昼寝中だったりしても来ない。
つまり、龍黄と交流のないカルネシアに、魔王召還は無理、なのだ。
カルネシア「……」
ささやかな反撃でも、言われれば黙っていないカルネシア。
ってか羅希、言わない方が良いって分かってるのについつい言っちゃったって感じだな。
彼は黙って羅希の肩を掴んで、顔を近づけた。
カルネシア「神王ならかまわん。あの世行って会いたいか?」
と、穏やかな声色で言った。
その表情は、羅希にだけ見えていて、私達には死角で誰一人見えなかった。
けれど、見ている羅希は汗ダクダクになって、大人しく「ごめんなさい…」と言わざるをえなくなった。
彼に離された羅希は、ベットに崩れ落ちた。
飛成「る、羅…?大丈夫…?」
羅希「………」
彼はガタガタ震えて、横に首をブンブン振った。
カルネシアは知らん顔で部屋を出た。
羅希「見てしまった…見ては行けないものを…うあああああああ……」
瑠美那「…一体何見たんだお前は」
私がのぞき込むと、涙目で震えながら
羅希「…背景に花が飛んで天使がコーラスするような輝く微笑みを……っ」
瑠美那「…確かに怖いな。」
カルネシアがってのがつくと更に怖いかも。羅希はその夜うなされた。
翌日、アステリアは執務があるので飛成とともに人間界へ帰っていった。
この森には、何故かカルネシアが出られないように結界が貼られている。
それは特定の日にのみ解除されるらしいのだが、その日まであと数週間もある。ということで、龍黄を通してヴァレスティさんに手紙を送り、解除を頼むことにした。
多分、明日あたりには解けるだろう、と龍黄のお言葉。
瑠美那「気分どぉよ」
顔が赤いのか青いのか、よく分からなくなっている羅希の額に、濡れた布をかけてやる。
昨日、カルネシアの壮絶な微笑みを目の当たりにしてから、ずっと熱が下がらない。
羅希「……ちょっと…気持ち悪い。」
コイツの“ちょっと”は=ハンパじゃなく、だ。
瑠美那「そうか…。まあゆっくり休め。私は用があるからしばらくいないぞ。」
一瞬、「どこへ?」という顔をしたが、私には馴染みないココで、用があると言えばカルネシアの所だけだ。
彼は小さく頷いた。
………気を付けて、と目で訴えながら。彼は表で竜花といた。
今朝、ちょっとこの森に慣れてきた。もう目眩はしないし、幻覚もするが見破れる。
………竜花と一緒にいると良い父親に見えるんだけどなぁ。笑わないけど面倒見が良さそうだし。
竜花が手元で何かをいじっている…のではなく、魔法の練習らしい。
カルネシア「……」
彼が私の方を少し見た。
竜花の頭を叩いて、何か話してからこっちへ歩いてきた。
瑠美那「いいお父さんやってんじゃん。」
カルネシア「……」
別に嫌味じゃなかったんだけど、本人はあまりいい気がしないらしい。
瑠美那「あの子も羅希と同じ?」
カルネシア「…ああ、ホムンクルスだ。」
ほ、ホムクル……?ま、どうでもいいけど。
瑠美那「そんなに何人も子供作ってどうするんだ?なんか羅希はバリバリ戦闘教育してたみたいだけど。」
カルネシア「別に…暇つぶし。」
おいおい、それだけで……。
カルネシア「羅希は、セリシア戦に備えて作っていた。」
瑠美那「……あーそっか」
彼は家の方へ視線を向けた。
カルネシア「…本当は、セリシアの成長の手口を知って、それと同じ事をして対抗しようとしていた。」
瑠美那「…人を呪って、成長したら食いつぶす、みたいなやつ?」
無言の肯定。
カルネシア「正直、アイツには感謝している。アイツがいたから、俺はセリシアと同じにならなかった。」
……なんだ、正直になれないだけで優しい親心はあったのね。
瑠美那「そうそう、そういやさ、アンタとセリシアの関係って何」
カルネシア「……同一人物。」
は?
カルネシア「俺はセリシアの一部。昔、彼女が強大になりすぎたために、その存在をいくつかに分けられた…と聞いたことはないか?」
物覚え悪いのでワッカリマセーン。
とはなんだか言いづらかったので、そうゆうことにしておく。
でも多分、ヴァレスティとか羅希とかが話していたかな?
瑠美那「聞いた。」
カルネシア「その一つだ。話に聞いただけでは実感が持てなかったが、会ってみて確信した。」
あー似てるしねー。
カルネシア「それからセリシアについて調べまくった。目的は分からないが、彼女がしている事も知って、とりあえず、それを止めさせようと、何かと準備をしてきた。」
瑠美那「羅希とか竜花とか?」
カルネシア「ああ。けど…」
少しトゲトゲしい感じがしていた彼の声が、和らいだ気がした。
カルネシア「今更どうでも良くなってきた。」
瑠美那「…は?」
カルネシア「竜花は…羅希に比べると明らかに劣っている。だが今更戦士に仕立て上げようと思わない。何もなく暮らせていれば良いと思う。」
……父親の言葉だな。
カルネシア「まあ、羅希にもそう言ってやるつもりだったが…そうもいかなくなった。」
セリシアの“エサ”の対象になった。
彼は闘わなければならなくなった。
今思ってみれば、なんだか偶然が重なってるな。
瑠美那「今更どうでもよくなってるところ悪いけどさ」
彼と視線を合わせた。
今は見えないが、昨日見た“羅希の師”“強戦士”の目を思い出す。
瑠美那「私も鍛えて欲しい。」
一瞬間が空いた。
彼の視線が、竜花の方へ移った。
瑠美那「アステリアは天性の才能だけど、羅希と飛成は自力で強くなった。私もそれなりに過酷に生きてきたけど、あいつらよりも劣ってる。それがなんだか悔しいし。、私はこの戦いから抜けられないだろ。だから足手まといにはなりたくないんだ。」
カルネシア「……小娘」
小娘言うな。
カルネシア「足手まといにはならない程度には鍛えてやる。だがな、他人と比べるな。」
瑠美那「……アンタの教訓?」
カルネシア「そうだ。それをやると延びるのも延びなくなる。」
瑠美那「了解」
カルネシア「それと、途中で止めるのはかまわんが、続ける限り…死ぬ覚悟は付けておけよ。」
瑠美那「………」
上等。
私は笑ってやった。
瑠美那「了解」
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