―――32―――

竜花を家において、少し離れた森の中で、カルネシアと対峙した。
カルネシア「先ずはお前の力量を見る。」
瑠美那「羅希に比べたら蟻だけどな。」
ってちょっと言い過ぎ?
でもマジで昨日の戦いを見ていたら…ねぇ?
カルネシア「それをこれから上げるんだ。見たところお前には魔法の才能が全くない。」
……だろうねぇ。あんなもん出来るとおもわねぇし。
瑠美那「でもさ、戦士が魔法使いに勝てないって事はないだろ?」
カルネシア「お前が魔法使いと敵対したのなら、どう闘う?」
瑠美那「魔法避けながら隙見て攻撃。」
カルネシア「その時点で死んでるな。」
あっさりそう言われて、ちょっとショック。
私は羅希みたいに的確に答えられないんだよ!
カルネシア「魔法には追撃方ってのもある。そうやって逃げられないように広範囲のものもある。」
瑠美那「……じゃ、だめじゃん。」
私が考えずに否定したら、呆れられてため息までつかれた。
そのため息は少しは考えろってこと?答えくらい出せよってこと?
カルネシア「魔法は精神的エネルギーを使う。それに対抗するには?」
瑠美那「精神的エネルギー使う。」
カルネシア「それが出来ないからどうする、って話をしてるんだろうが。」
瑠美那「あ、そっか。……んじゃ似たようなのだしゃいいんだろ?」
カルネシア「……身体的エネルギー。つまり」
彼は手近な木に手を添えた。
何かと思った。次の瞬間、カルネシアが咆哮した。
………昨日、龍黄の魔法を振り切ったときの声。
また弾かれたように、手を添えた木が…はじけ飛んだ。
バキバキと斜めに傾いたが、倒れきりはせず、近くの木に引っかかって止まった。
瑠美那「……すげ」
今の私は、多分口をぽかんと開けていて、すごく間抜けな様だと思う。
カルネシア「これは魔法じゃない。けど同じ種のものだ。」
瑠美那「知ってる。気合いだろ?」
カルネシア「ああ。コレは才能関係なく使えるし、鍛えられる。修羅場の数に比例するとも言える。」
お前には最適だろう、と言われて、なんだかゾクリとした。
コレを私ができるのか、とかの不安なのか、はたまた期待なのかよく分からない。
カルネシア「これはただ大きく放射しただけだ。ちゃんと工夫をこなせれば、盾にも使えるし他にも使い道はまだまだある。」
瑠美那「ああ。」
カルネシア「…まずはお前の“気”の最高値を引き上げる。今日一日では無理だが、そのうち俺と同じ位置に立て。」
無理。
とは言えないよな…。
瑠美那「………やってみる。」
カルネシア「今日、俺の満足行くまで出来たら、これは終わりにして、技術の方の訓練をする。」
瑠美那「……はい。でも引き上げるのはどうやる?」
カルネシア「…俺がお前に居竦みをかける。こっちからの気で相手を金縛りにする術だ。」
瑠美那「……で、それを気合いで解けばいいのか?」
カルネシア「そうだ。これから三回やる。徐々につり上げるからちゃんと力はセーブしろ。」
あとの方はよく分からなかったが、とりあえず三回弾けばいいわけだ。
……こんなことやったことないからよく分からないが…けど気合いで何かを乗り切ったことは何度もあった。限界を超える、いつもそんなイメージでいた。
それをやればいいんだろう。………多分。
カルネシア「行くぞ」

言われて間を置かずに、それが来た。
カルネシアの眼光が鋭くなった。それを見た瞬間、全身の血が一斉に騒ぎ出し、四肢の感覚を全て奪われた。
おもわず足の力が抜けて倒れかける。

ここで倒れたらだめだ。立っていないと。
感覚を奪われるな。取り戻す。
力を込めろ。
咆哮して、全てを奮わせてはじき返す。

私の経験からなのか…一瞬で指令が頭の中を走った。
瑠美那「っ……!」
全身に不思議な感覚と力が走った。
次の瞬間、体内で何かが弾けて、感覚を取り戻す。
もう倒れるほどに傾いていた体を、慌てて踏ん張って立たせる。
カルネシア「よし次」
瑠美那「っふ…えあ!?」
早いって!!
体勢を整えた直後、またさっきのが……。
瑠美那「んっ…!」
かかった瞬間、寒気がした。
さっきのよりも明らかに強力だ。全身の血が固まっていくような感じがした。
息苦しい。
さっきのはただ窮屈な感じだったのに…今度のは“死”を少し感じさせて…怖い。
瑠美那「っ……!!!」
――さっきの感じを…!
必死に思い出し、力を込める。
けれど無情にも解けない。
膝を付いてしまった。
全身が痙攣している。
瑠美那「……ぅ…あ」
せめて声が出せれば、なんとかなる気がする。けどそれができたらなんとかなってるっつーの…(やば、混乱してきてる)
カルネシア「……小娘。」
カルネシアの声が遠くで聞こえた。
けれど、視界の情報ではすぐ目の前にしゃがみ込んで私と目線をあわせていた。
私の耳が遠くなっているだけか。
カルネシア「そうゆう危ない状況の時は一度死ね。」
瑠美那「っぇ…」
なんだかちょっと傷ついた。
カルネシア「一度命も全部捨てろ。冷静になって、ちゃんと少しづつ取り戻せばいい。」
瑠美那「………っ…」
言ってることよく分からないけど、でも、なんだか感覚的には理解できた。

羅希「カルネシア…!」
まだ顔色の悪い羅希が―寝ていた格好のまま―慌てた様子で走り寄ってきた。
彼は、カルネシアの足下でうつぶせに倒れて動かない瑠美那を見て、逆上した。
羅希「瑠美那に何をさせた!」
カルネシア「…小娘が望んだことだ。鍛えてやっている。」
冷静にいるカルネシアとは反対に、羅希は青かった顔を赤くして怒鳴る。
羅希「彼女は戦う必要はない!!」
カルネシア「お前が望んでいるだけだろうが。これもコイツが生きていくためだ。」
羅希「瑠美はまだ15の女の子なのに、こんな事間違ってる!やっぱりアンタの所へ来るべきじゃなかった…!」
ヒステリックにそう言いながら、倒れた彼女に近寄ろうとした。
けれど、それをカルネシアに阻まれ、また彼を睨む。
彼はそれに対して笑っていた。
カルネシア「そうでもない。もう“3回目”だ。」
羅希「…え」
辺りの草が、風に反して揺れた。
瑠美那「ウッシャアアアア!!!!!!」

コツは掴んだ。
壁を破れ。冷静になるんだ。
別に苦しくったってしばらくは生きてられるんだ。
死ぬ前に死んだ気になって、冷静になれ。
感覚を研ぎ澄ませ。
力を解放するタイミングを…探すんだ。

瑠美那「どうだカルビー3回乗り切ったぞ!3回目マジで心臓止まってたから驚いたけど。……あ、羅希。」
乗り切った嬉しさと、なんだか違う体の感覚に上気しながら笑っていたら、尻餅をついてマヌケに私を見上げている羅希が目に入った。
カルネシア「そうか、じゃあ次に行くぞ。」
ま、期待はしてなかったけどなんの言葉も無しね。
けれど、気合いを入れて“次”に行こうとしたら、羅希に止められた。
羅希「瑠美、もうやめてくれ。」
瑠美那「なんで。まだ始まったばっかりなんだけど?」
それ以上は何も言わずに、ただ聞き分けのない子供のように首を横に振っていた。
瑠美那「まぁ、なんで止めたいのかは分かるんだけどさ。
私は守られるだけってのは合わないんだよな。
せめて自分の身は自分で守るくらいはしたいんだわ。
でもこの前のセリシア戦で、それも無理だって思い知らされたし。」
羅希「それは…分かるけど…」
瑠美那「それにさー私は『小娘』って言われるのすっごい嫌なんだわ。そんじょそこらの町娘と一緒にしないでくれる?」
羅希「してない」
瑠美那「してるだろぉ?さっき“まだ15の女の子”っての聞こえたぞ。」
うっ、と言葉をつめた羅希を見て、鼻でわらってやった。
瑠美那「今にそう言えなくなってやる。」
その言葉は、自分にもいい聞かせていた。

カルネシア「次は集中力。技術の方は、お前自身でやれ。いちいち俺が見るものじゃない。」
……1人で力の調整とか発射とはいろいろやってりゃいいってことか。
瑠美那「へい。」
カルネシア「これから俺が四方から魔力でねらい打ちする。それを全部避けろ。」
瑠美那「………何分?」
カルネシア「2時間だ。」
瑠美那「………………」
ものすごく「嫌だ」と言いたかったが…、もう死んだ気で頷いた。
カルネシア「あと、身を守るのに魔力を弾いたり壊したりのはかまわない…が、1回やったら後でペナルティ1時間トレーニング」
瑠美那「お、鬼コーチ……」
でも、今まで実戦ばっかりで『訓練』というものをしたことがなかった私には、なんだか面白く思えた。
瑠美那「さあ!始めようぜ!!」
言った瞬間、なんの合図も無しに地面から灰色い…一見石なのだが、実体のないそれが爆発したように飛び出してきた。
あまりにいきなりだったので、つい腰の剣を使って払ってしまった。
………さっそくペナルティ1時間追加。
唇を舐めて、再度目を凝らした。

カルネシア「……」
集中の境地にいる瑠美那を見て、カルネシアは鼻で笑った。
――笑ってやがる。…バトルマニアか。
それを喜ぶべきか、哀れむべきか。

 

 

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