―――34―――

私は大きく息を吸い込んだ…と同時に口の中に蠅が入ってきた…う゛っ!
瑠美那「ぶぇっ!!」
カルネシア「馬鹿者!!」
蠅をはき出したとたんにカルネシアの拳が後頭部に入った。
あ、相変わらず脳天までくるぜ…。
カルネシア「たかだか虫一匹で詠唱を止めるな。」
瑠美那「だって〜」
カルネシア「実戦では良くあることだ。慣れろ。」
良くあるのか…?
っつーことは、龍黄とかって蠅とか蜂とか食いながら魔法唱えてたのか…?

――あ、まーた口の中にあしながが入ったー…。
まあ追っ払えないし、口の中で動かれるとキモイし……
………えい(クチュ)
あ、あしながって体液甘い〜
今度の夕食に入れてみようかなぁ

………何故か詠唱時の龍黄をリアルに想像してしまった。
しかも何故あしなが!!

カルネシア「夜が明けてきたな。飯にするか。」
と言って彼は小さな紙をだす。
そこには角三つ、目三つのクマのような獣が描かれていた。
瑠美那「何これ」
カルネシア「これがこの森のどこかにいる。それを捕ってこい。制限時間2時間。」
瑠美那「え、あ、」
カルネシア「始め」
瑠美那「〜〜〜〜」
私はとりあえず、飛翔布で飛び立った。カルビーが改良してくれてから、ずいぶん動きが早くなった。
これでもかと言うほど高い位置に昇った。
……制限時間が2時間ももらえるなら、結構手強いと思う。多分その辺の動物よりも凶暴。それなら立てる物音も多分デカイ。
瑠美那「……これ、使うかぁ……仕方ないし。」
と、ポシェットから手のひらサイズの土色の箱を取り出した。
これもカルビーが(昔に)作ったモノで、効果は聴力アップ。
ただ、あまりにも聞こえすぎるから、五月蠅いところでつけるとすぐに鼓膜が破れる。
のでここまで昇ってきた。
瑠美那「………やだなぁ…これつけるの…」
でも仕方ないから左耳につける。
何故嫌なのかというと…
箱からひも状の物体が出てきて、左耳の中へ、または周辺から皮膚を破って神経に根をはり付けていく…。
という事が起きるからだ。
初めて渡されたとき、知らずにつけて、めっちゃ怖い思いをした。
瑠美那「………っ」
装着完了。
ここからは自分の声も出せない。出すと超大音量で聞こえるからだ。

瑠美那「………」
動物の声が五月蠅い……あ!なんだかちょっと意味ありげな物音が!
急いで耳を頼りに飛んでいった。

………そして、例の動物はアッサリ見つかった。てか超見つけやすかった。
なぜなら……
瑠美那「デカすぎだバカ――!!!」
上空から見下ろしているからまだましだろうが、下から見上げたら、多分塔を見上げているような感じだ。
果てしなくデカイ!!ウルトラマンにも劣らない!
これは…気付かれる前に仕留めた方が良いかも知れない。
瑠美那「……いっちょ試してみるか…」
カルビーと羅希に教えて貰った『魔法』。ただ、素質のない私が普通に使うと、ロクなのが出来ない。
そこで、私の中にいる“あの人”を利用するのだ。
瑠美那「……また口に虫とか入ってきませんように」

眠りの森に包まれる人 
其を愛でる独りの我
彼らを憚る者は愚者の骸なり

体の中に異物感が生まれた。
ああ、あの迷惑野郎がいるんだ。
瑠美那「文句は言うんじゃねぇ。恋人救出は手伝ってやるってるんだ。これくらい力を貸せ。カルビーのお仲間なんだろ?」
なんだかもうややこしくなってきたが、罪もないのに呪われた幻翼人の女性。彼女を愛し、ここまで彼女を救うために罪を重ねてきたのは
セリシアの分身。カルネシアと同じ身の者だったと言う。

我は身を焼き 其に授かり
炎帝の咆哮 その紅に生じる者
激烈なる我が誠実を欲すれば
舞い狂う荒らしと吹き荒れよ

………間違ってないよな。
カルビーにこれくらいは覚えろってぐだぐだ言われたヤツだし。
にしても、羅希とか龍黄ってよくこんなの覚えてるな…。まぁ、間違っても熟練者ならちゃんと使えるらしいけど。
瑠美那「炎帝・裁きの獄刑火」
最後の言葉で、始めの詠唱からじわじわと湧き出ていた感覚が体内で弾けた。
視界が赤いヴェールで覆われ、気持ちも高ぶり、自分では無くなっていく。
それに潰されないように…無意識のうちに腹の底から叫んでいた。
私の雄叫びに反応して、辺りに発生した、信じられないまでの強大な炎が、例の動物に向かってうねり、噛みついた。
炎が何度も、何度も、動物の体を貫き、気が付けば既に対象は絶命している。
それでも、炎が止まらない。
私は意識があるのに、それを「異常だ」と見ているだけで、頭がボーっとして体が動かない。動かす意志が働かない。

竜花「ぅおしい!」
名前をちゃんと覚えていなかったらしく、微妙な発音で呼ばれ、短剣の手入れをやめた。
声が聞こえてから少し遅れて、竜花が家の扉を蹴破る勢いで開けた。
息が荒い。走ってきただけではない。
羅希「何かあっ…」
竜花「カルネシアが!!」
今にも泣きだしそうにそう叫んだ。

虚ろ気に炎に包まれていた光景を眺めていた私の前に、何かが現れた。
以前にちょっと嫌な体験をしたせいで、その姿は私の意識をハッキリさせるには十分だった。
瑠美那「セリシア!!」
もうさっきの魔法は止した方が良い。
残る対抗手段、気での防御を用意した。
セリシアが真正面に向き合った。
体が無意識で震えていた。背筋も寒い。まだ、かなうわけがない。
彼女の放つ殺気が、怖い。

――少しでも長く生きたければ、邪魔はするな

セリシアの声がした。
そして、彼女の姿がぼやけて…消えた。
瑠美那「何処へ……」
と、一瞬思ったが、見当はすぐについた。
結界が解けて間もなくここへ来たことと、この森で関係ありそうなのは彼だけ。そう推測すると…
瑠美那「カルビー…?」
彼女と対峙するのは正直、超嫌。でも
瑠美那「おとなしく邪魔しないのは絶対に嫌だな。」
当然。

羅希「……」
竜花に連れられ、カルネシアのいる泉に来て、予想していたことが的中し、内心舌打ちをした。
多分、先にこの状況に陥れば被害は…カルネシアだけで済む。
人数で言えば得だが、戦力的には損。
そんな冷静な判断をしてみるが、実はかなり焦っていた。
激しく波打ち、音もなく暴れている泉の水の上にしゃがみ込むカルネシアと、それを見下ろすセリシア。
よく似た二人の男女と、その周りを彩る緑の木々と、青の水しぶきは、まるで聖地の姿。教会に飾られた絵画のようだ。
竜花が今にも泉に飛び込もうとする、だがセリシアの魔力を孕んだ水に触るのはかなり危険だ。
安心させるのと、飛び込み防止を兼ね、しゃがみ込んで彼女を抱きしめる。
羅希「大丈夫」
竜花「……」
彼女は横に首を振った。

セリシア「返事を聞きに来た。」
静かで穏やかな口調でそう言った。
セリシア「私の元へ戻ってくるか、否か。」
そう言われるカルネシアは視線を泳がせた。
独り言のように、たんたんと言葉を発していた。
カルネシア「貴女に全てを告げられ、その時は迷った。それが事実なのか、貴女がしようとしていることを成して何になるのか、それにどれだけの価値があるのか…変わらなかったからだ。」
セリシアは黙っている。
カルネシア「だが今は事実だと知った。だが…愛しい人を、死以上絶望以上の苦痛と悪夢の地獄に放られ、その人の記憶すらも奪われ、知ったときにはもう取り返しがつかなくなった。それはどれだけの悲しみか、今なら…想像は出来る。」
セリシア「もう十分学んだでしょう?私のように、全てを捧げる恋をしていなかったとしても、愛しさは学んだ。」
カルネシア「ああ。…だが、それ以上に…貴女は愚かな事をしている。もう全ては終わったのに、それを取り戻そうとして罪を犯し続けている。もう、キャディアス様はいない。蘇らない。」
セリシア「蘇る。ここまで来た。私はガイアをも凌駕する。」
カルネシア「目を覚ませ、セリシア。いくら時間と犠牲を費やしてもガイアを越えることなど出来ない。ガイアにも、消滅した者を蘇らせるなんて事は」
セリシア「キャディアス様は消滅していない…。今も神王に戒められて存在している。それらを取り戻し、また彼を復活させ、汚名を晴らし今度こそ彼を神王に。」
カルネシア「キャディアス様はこんなにも多くの犠牲をはらって蘇ろうとは思わない。あの方はそうゆう人だった。だからこそ、人王でいた、最後まで神王に逆らわなかったんだ。」
彼女は何も返事をしなかった。
改心したとは思えない。
必死にそう言っても、この程度の口論で改心するようなら、もうとっくに解決していた。
カルネシア「…俺は誰よりも貴女の気持ちを察しているつもりだ。だが、彼を助けることより、犠牲になっていった者達を不憫に思う。」
セリシア「…結局、協力する意志はない…か」
カルネシア「…貴女に反するよりも、貴女を助けたい。これ以上は無意味だ。貴女の傷が広がるだけだろう。」
セリシア「……カルネシア」
今まで穏やかだったセリシアの声のトーンがグンと下がった。
それに、わずかに後じさる様子を見せたカルネシアだった。
不意に近づいた彼女の右手が、カルネシアの耳元にのび、いつもつけているピアスに触れた。。
セリシア「お前は私にそう言えるほどの立場ではないよ。」
低いいら立ちを帯びた声で囁かれ、背筋が寒くなる。
セリシア「例えお前がいなくとも、私の企みは崩れない。いつでも…殺すことも取り込むことも出来るお前に、チャンスを与えたのは、ただの気まぐれだ。」
彼女の瞳に殺気が帯びた。ほぼ反射的にカルネシアは離れた。
カルネシアの顔のすぐ前の空気が裂けた。幸い、その異様な力はカルネシアの顔までは届かなかった。
少し高く浮いて、セリシアを見下ろす形になって体勢を立て直す。
横に赤い翼を広げて加勢に来る羅希が見えた。
カルネシア「…来るな!!陸へ!!」
もっと早く思い出せれば良かった。
羅希はカルネシアの分身であるために、セリシアの力に対する抵抗力が強かった。
そのため、まだ“エサ”としての成長を遂げていない。セリシアはもう少し成長を待つつもりであった。
だから取り込むことはしない。しないが…
羅希「……っ」
軽く操作するくらいは出来る。
まったく警戒していなかった羅希はアッサリ意識を手放した。
カルネシア「っの馬鹿!」
水面に落ちる羅希を、前髪が水面についただけの位置でなんとか受け止めた。
だが激しい爆風にそのまま陸の方へ吹き飛ばされた。
カルネシアはなんとか宙で体勢を整えようとしたが、かなわずそこらの木に叩き付けられる。が、それをなんとか木に足をつけて防いだ。
風が2人を切り裂こうと暴れた。
羅希を背に回して、結界を張る。それなりに強い結界なのだが、一つ一つの風の刃が思ったよりも強力で、結界が激しく削られていく。
結界を意識したまま、別の魔法を手のひらに溜めた。
いきなり、風の刃に紛れて、重い物が結界を叩き付けた。
それ一発で結界がほぼ崩壊した。
風の刃もやっかいだが、結界を破った鉄球のような威力を持つそれは、明らかにくらえば助からない。
まだ満足に溜まっていない力を、脇に放つ。
それで一瞬出来た抜け道に、羅希を抱えて飛び出した。
瞬間、全ての攻撃は途切れた。
見れば、カルネシアがさっきまでいた場所以外は木は愚か、地面も吹き飛んでいる。小さめの谷が後ろを延々と続いているようだ。
カルネシアは腕の中で眠る人を投げ捨て、その場を離れ、上空に飛び立った。
セリシアを警戒しつつ、上空へと誘い出す。
カルネシア「………なんでこうゆう時に…」
つぶやく声はかなり苛立っている。
背後に近づく気配と
瑠美那「カァールービィー」
瑠美那の声…。
カルネシアは彼女の方を見るよりも、セリシアの行動を気にした。
彼女は黙って見上げてきている。
瑠美那「カルビーやばい!セリシアがってうわ!もういんじゃん!!」
カルネシア「小娘、例のアレ、やってみたか。」
瑠美那「やったけど、全然ダメ。もう使ってから頭ボーっとしちゃって死んだ状態。セリシアが出てきてかなりビビッたから正気に戻れたけど。」
カルネシア「……まだ早かっ…!!」
彼が話している最中に私を突き飛ばした。
一瞬何か分からなかったが、すぐにセリシアが攻撃してきたのだと分かった。私とカルビーがいた位置に妙なゆがみが出来た。それにわずかに触れていたカルビーの腕が破裂した。
瑠美那「カルビッ」
カルネシア「服だけだ!魔力の流れで来る場所は分かる、避けろ!」
瑠美那「無理だっての!全然わかんね」
カルネシア「後ろ!!」
瑠美那「うわああ!!」
声に反応して、何も感じないまま前に飛んだら、背後であのゆがみが起きた。
髪の先が破裂し、粉々になった。
私が避けている間に、カルネシアはいつの間に溜めていたのか、赤い光球の魔力を、セリシアに向かって雨のように振らせた。
一発一発が、どこかに触れるたびに爆発を起こす。
……何かを吹き飛ばすとか、そんな時限ではない。
大地をえぐっていく。地上がどんどん窪んでいく。これでもセリシアを倒せないと言うのか。
カルネシアがやっと攻撃の手を止めた。
……止めたというか、エネルギー切れで止まった。
瑠美那「カルビーこれでも倒せないのか?」
もしかしたら、セリシアを倒すためには地球ごとぶっ壊すぐらいする必要があるのでは…?
カルネシア「これくらいで倒せたらもうとっくに解決している。」
彼の顔にはまだ疲労は見えない。快調では無くなった程度のようだ。
カルネシア「……来る」
瑠美那「ええ!またぁ!?」
カルネシア「重力系だ!急いで地表に戻れ!!」
叫んだ彼が落下以上のスピードで地表に向かう。少し遅れて私も降りる。
カルネシア「小娘!止まって踏ん張れ!!」
どうやら、私は発動前に地表につけないらしい。言われたとおり、踏ん張った。
瑠美那「っか!!」
言われたとおり“重力”の攻撃。いきなり深海に放り出されたらこんな感じなのだろうか。
主に上から何かで押しつぶされそうなのだが、それをカルビーに言われたとおり踏ん張っているので、必要以上に苦しい。
内蔵が潰されている。血が止まり、頭が割れそうだ。
それでも、今力を抜けば地面に押しつけられ、つぶれる。
だが私の高度は徐々に下がり、下にいたカルビーにぶつかった。
瑠美那「っがっ……」
カルビーが受け止めてくれたが、体がまた固定されて苦痛が倍増した。
もう、死にたい、と思う。私達の周りは、地面がどんどん窪んでいく。

カルビーが耳元で囁いた。もう少し我慢しろ、そう聞こえた。
これの状態の打開策があるのか、そう思ったときに、カルビーの“気”が恐ろしく大きくなっていることに気が付いた。
魔法は平常心が必要だが、気道は気合いがあればそれでいい。
そんな事を思い出し、私もがむしゃらに気を高め…少し、楽になった気がした。
魔法と気道は似たもの。だから気道で魔法を弾くことが出来るかも知れない。
カルビーの声が聞こえた。発する。
私も合わせて気を高め、咆哮した。
周りの、私達を戒めるものが剥がれ落ちていく。
そして、それらはすべて消えた。
瑠美那「っ…ふうおっ!?」
一息つく間もなく突き飛ばされた。
尻餅をつきかけて、体制を整えた。
瑠美那「カルビー…?!」
彼は倒れていた。うつぶせになっていて、すぐには起きなかった。
その理由は、丁度私の位置から見えた。
左足が…膝上あたりから跡形もなく吹き飛んでいた。
走り寄ろうとして止まれと怒鳴られる。
とっさに後ろに飛ぶ。思った通り、そこにまたあのゆがみ。
そのゆがみが消えた瞬間信じられない物を見てしまった。
瑠美那「うっ…ぇ」
妙なショックがあって、嗚咽が漏れた。
ハッキリとした意識が、また薄れていく。
瑠美那「カルビー……うそ…」
横に倒れていたカルビーの胴体から…首が離れた。
すぐ脇に立つ、セリシアに切り取られた。
セリシア「……あら、核…首じゃなかったのね。」
セリシアのそんなつぶやきも耳に入らない。
彼女が剣を、切り落とされた首に再度振りかざす。
瑠美那「……っ」
今更どうしようもないかも知れないが、それを止めようと走り寄る。
瑠美那「うぎゃあああ!!!」
突然、首のないカルビーの胴体が動き、セリシアの腹を蹴り飛ばした。
彼女はたいしたダメージはなさそうだが、数歩下がった。
その隙に、胴体が頭を拾って来た。
瑠美那「カッカッカッカッ」
顎ががくがくする。
カルネシア「神族はこれくらいでは死なん。」
ぶら下げられた頭がそれだけ言って、私を抱きかかえて走り出す。
瑠美那「ちょっ、何処に行くんいやああああ!!!!」
カルネシア「うるせぇぞ!!!」
つい、カルビーの頭のない所を見上げてしまって、絶叫した。
うるせぇぞ、の声が、ちょっと気になったところから…。
それは、お姫様だっこ状態で抱きかかえられている私の腹の上。
案の定そこには…
瑠美那「もうやだああ!!!ホラー館かよここはあああ!!!!」
カルビーの生首があった。
上も下もちゃんと血が流れ出ているので怖い…。頭のほうなんか、私の腹の上に血が染みてきている。
瑠美那「で、何処行くんだよ…」
なるべく、どっちも見ないようにして言った。
カルネシア「行く場所なんか無い。とりあえず逃げる。」
瑠美那「あ、そうだ!アステリアとか呼べないか?」
カルネシア「誰だそれは。」
瑠美那「この前一緒に来てた長身で長髪の男。前にセリシアを追っ払ったんだ。」
カルネシア「……マジか、アイツどう見てもただの人間だろう」
瑠美那「そうなんだけどさ、なんかあの蝶の手紙みたいの飛ばせない?」
カルネシア「セリシアの目的は俺とお前だ。その男を呼ぶより、そこまで逃げる方が早いし…羅希と竜花も安全だ。」
瑠美那「あ、そうか。じゃあそうしよう。」
で、逃げると決定したとたん、カルビーが止まった。
カルネシア「……消えた。」
瑠美那「え、何が。」
カルネシア「……セリシアだ。」
カルビーは頭を動かせないので、私が代わりに辺りを見回した。
確かに、セリシアの姿はない。
アステリアにまで出てこられては困る…と思ったのだろうか。

一応警戒しながら、羅希と竜花を迎えに行った。
その時、初めて気が付いた。
羅希の封呪が解けていた。以前、私がかなり苦しい思いをしてかけられたヤツだ。
セリシアは目的の一つを達成していた。彼女が失った恋人を蘇らせる時を早めること。
私と羅希が死ぬ時が、早まってしまった。

 

陽があがりはじめ南中する前に、おカミさんが飛成を連れてやってきた。
白ローブに透明なショールをあしらった“神様的格好”が、この奇妙な森とは不釣り合いだ。
彼女が現れた瞬間、森の異様な空気が消えた。
結界が消えたんだろう。

彼女はカルビーを見るなり、躊躇わずに彼に抱きついた。
瑠美那「お。」
羅希「!」
ずいぶん仲よさげな二人の様子。
羅希が『あのカルネシアに抱きつくなんてなんて度胸だ…!』という顔をしている。
ヴァレスティ「久しいな。見違えたぞ。」
やっぱり知り合いだったらしい。
ヴァレスティ「あの青二才が、大きくなりおって」
笑いながら離れる彼女に対し、カルビーは無表情のままだ。
カルネシア「お前も…」
彼女を少し眺めて、口を開いた。
カルネシア「ケバくなったな」
二人以外が一斉に吹き出した。
瑠美那「カルビー、それはおカミさんに失礼!」
羅希&飛成『瑠美も失礼!』
彼女は怒った様子なく笑った。
ヴァレスティ「相変わらずの礼儀知らずだな。そんな様子では天界でまたガンつけられるぞ。」
カルネシア「上では慎む。」
慎めるのかネェ…。
おカミさん以外のみんなでちょっとそんな目をした。
ヴァレスティ「セリシアに襲撃されたそうだな。無事で何より。」
カルネシア「察知したクセに助けに来ないってことは、俺はまだ天界で邪魔者らしいな。」
ヴァレスティ「神王にだけだ。安心しろ。むしろ神族のほとんどはお主を哀れんでいる。」
カルネシア「……嬉しくもない。」
ヴァレスティ「それと、お主…一応、正装にしておいた方が良いぞ。」
カルビーの服装は相変わらず、黒のズボンとジャケット、中には白のシャツで、首飾りとチェーンをつけた、軽いビジュアル系のラフな格好。
昨日の夜に、切られた首は、私が糸でちくちく縫い合わせた。
お偉いさん面会の格好とは思えない。
カルネシア「………神王に会えるか?」
ヴァレスティ「ま、ピンキリ。会えるかもしれんから正装にしておけ。」
彼はイマイチ納得しきっていないが、仕方ない、とため息をついた。
次の瞬間。
瑠美那「うぉ!すげぇ!!」
なんかすこしカルビー近くの視界がぼやけたと思ったら、もう彼の服装が替わっていた。
青で統一された、おカミさんに比べたらシンプルで動きやすそうなローブ。
顔半面を金の装飾された仮面が覆っていて、なんだかカッコイイ。
瑠美那「おーなんか“変身”したっぽい」
カルネシア「………服変えただけだぞ。」
瑠美那「でもカッコヨかったー。神様みんなこんなことできんのかー」
カルネシア「………。」
カルビーは私がやたら感動していることに首をかしげていた。
別にナントカレンジャーみたいのが好きって訳じゃないけど、目の当たりにしたら面白かった。
ヴァレスティ「では、行こう。」
そう言ったおカミさんは、何故か嬉しそうだ。

 

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