―――35―――
瑠美那「ああ、もうやだ…うえぇ〜」
礼の絶叫ワープを終えて、出てきた草地にしゃがみ込んだ。
まだ頭がグラグラする。羅希が背中をさすってくれる。
また帰りはこれやんなきゃなんないから嫌になるよなぁ…。
ヴァレスティ「瑠美那、これからはちゃんとしていろ。高飛車なヤツを怒らせると祟られるぞ。」
瑠美那「え……はい…。」
飛成は私がこうなることを予想していたらしく、一回分程度の小さな水筒に入った水を差し出してくれた。
それを飲んで、なんとか姿勢を正した。進んだ先は、思ったよりもすごいことになっていた。
おカミさんとカルビーも、ちょっと驚いた様子でいるし、羅希と飛成はちょっと縮こまり気味。
………神王と面会できる。
ただし、四大世界の王様勢揃いの会議室で。
…………まぁ、私には、お偉いさんの数が増えた程度にしか思えないけど。
神王の部屋へ行こうとした私達は、途中で神族に止められて「神王が別室で待っている」と言われ、向かった先は…こんな感じだった。
白で統一されていて、見たこともない材質で出来た壁に薄緑で模様が入っている。所々に飾りが付いている。
また白い広いテーブルが部屋の中心にあって、私達が座るべき所の向かい側に、王様&その他の面々。
……その中には龍黄と、“執事”の女性がいた。
ヴァレスティ「……では、私はこの辺で」
入って十秒経たずに、おカミさんが引き返した。
逃げたな。
カルネシア「ヴァレスティ…殿」
言ってから思いだしたように付け加える。
さっきまでの会話からは分からなかったが、立場的にはカルビーが下らしい。
彼女はいかにも早く逃げたい様子で、顔だけ振り返った。
カルネシア「ご厚意、痛み入ります。」
おお、ちゃんと敬語使えるんだな、カルビー。
おカミさんが「ガラじゃない」と、小さく笑った。
龍黄「私からも、感謝いたします。」
テーブルの向こう、神王の隣にいる龍黄が言った。
ヴァレスティ「は」
彼女が頭を下げて、部屋を出た。
神王「まずは、座りたまえ。」
神王…らしき人物が言った。
らしきというか、この人しか神王と思える人はいない。
向こう側に座っているのは8人で、王様4人、それぞれの側近4人。
そのうち、龍黄とその側近以外は、じーさん2人と龍黄くらいの青年1人。その青年は、あまり威厳が無いし、席も一番端なので神王とは思えないし、残り2人は服が白と黒。神王が黒はちょっと合わないので、多分白じーさんが神王だろう。
神王「久しいな。もうどれくらいになるか分からぬが、会えて嬉しいぞ。」
表情はよく分からないが、なんだか表向きだけって感じがする神王の言葉に、無表情で慎んで頭を下げるカルビー。マジで慎んでるよ…。
でも下に向けた顔は絶対に苛立ってる。
神王「で、現状は…カルネシアが参戦してくれると言うことで、準備は大体整った。時を待って戦争を起こせる。やり残したことや、疑問のある者はいるかな。」
瑠美那「すいません、確認したいことが。」
私が普通に手を挙げたことに、一同がちょっと変な顔をした。
とくに飛成当たりがビクビクしている。
瑠美那「セリシアの…やっていることは分かったんですけど、その目的が曖昧なのでハッキリ知りたいです。」
私はそういってから羅希の方を見た。
封呪が解かれたせいか、ちょっと顔色と気分が悪いようだ。
彼は私を見て頷いた。彼も目的をハッキリは知らないらしい。
神王「世界征服であろう。その為により大きな力を求め続けている。」
その言葉にどこかつっかかった。
瑠美那「なら…何故王様達は皆無事なんですか。」
神王「どうゆうことだね。」
………この王様、馬鹿なんじゃないか…?
瑠美那「世界が欲しいのなら、今その世界を治めている王様は、彼女にとって邪魔だと思います。」
神王「それは、彼女がまだ我々よりも強くはないと言うことだろう。」
むか
瑠美那「なら何故セリシアを止められないのですか。それに、以前、龍……魔王が殺されかけました。」
神王は返答に困り始めた。
………うっしゃ。
カルネシア「セリシアの目的は、闘神キャディアスの復活と言っていました。」
カルビーが横やりを入れてきた。
カルネシア「彼女とキャディアスの関係は上級神族なら誰でも知っているはず。てか知ってなきゃおかしい。
そしてキャディアスの死後、彼女が行動を起こし始めたという事実から、彼女がキャディアスを復活させようとしていることは馬鹿でも分かる。
なのに何故あなたは小娘への回答でそれを言わなかった。」
瑠美那「カルビー、敬語抜けてるぞ。」
カルネシア「てめぇもカルビー言うな。」
しかも、言い方に棘がある。
言い逃れできないようにしているのか、それとも単に地がでてきただけなのか。
カルネシア「神王、あなたは一体何を…」
龍黄「カルネシア」
カルビーの言葉を遮ったのは、以外にも龍黄だった。
やはり、魔王の立場としては、神王の味方に付かなければならないのか。
ちくしょー、龍黄……お前はもう“そっち側”の人間(?)なんだな
龍黄「そこまで分かっているなら十分だ。もう神王が隠そうとした内容に踏み入り始めている。
それ以上深入りして神王の目の敵にされる前に謝りなさい。
それに、どうしても言えない秘密なんだから隠してるんだ。いくら問いつめても無駄だ。」
「………………」
やっぱ“そっち側”でもない?
…………どっちの味方なんだよ龍黄!
カルネシア「……すいません。感情的になりすぎました。」
カルビーはいたっておとなしく引き下がったが、神王は明らかに怒りに打ち震えていた。
……多分、カルビーよりも、龍黄に対しての怒りではないだろうか。
ま、あんな馬鹿にされたことを言われたら当然だが…でも龍黄はカルビーに神王の怒りが向かないように、汚れ役を買って出たんだろう。
だから、カルビーもそれ以上食い下がらなかった。
龍黄「瑠美那への回答は、カルネシアの言ったとおり。セリシアの目的は闘神キャディアスの復活である。キャディアスについて知りたければ、後にヴァレスティに聞いた方が良い。
それでは、話を移そう。」
今の神王では、ちょっと…なにかと不味いので、龍黄がまとめ役になった。
龍黄「今まで報告して貰った事以外に、新しい情報はありますか。」
………なんか、龍黄、サマになってんじゃん。
羅希「はい。先日セリシアの襲撃を受け、私の封呪が解かれました。その際に呪法を強固にされ、再度封印することはできないと…カルネシア様の見立てで。」
羅希の他人行儀の報告の内容を聞き、
個人的にだろう…龍黄の眉がひそめられた。
龍黄「では、少し計画を早く、実行に。よろしいですな、神王。」
神王「……わかった。」
何か言いたげであるが、神王は渋々了解した。
カルネシア「っあー!!畜生!!!」
会議室から出て、待っていたヴァレスティの案内で彼女の部屋へ向かった。
このまま帰るつもりだ、と羅希が言ったのだが、ほぼ強引に連れてこられた。
始めは何故か分からなかった。
ヴァレスティの部屋とやらは、広く、真っ白で統一された、丸い大きなベットのみ部屋だった。
そしてそこに入り、周りの親族達と隔絶された瞬間…カルビーが荒れだした。
ヴァレスティ「神界に来るとこの男はいつもそうなんだ。しばらくほっておけばいい。」
羅希「はぁ………」
羅希でもカルビーのこんな様子をみるのは初めてらしい。
彼は自分の髪をわしづかみにして、時々掻きむしる。
ドカッとベッドに腰掛けた。
瑠美那「カルビーなにイラついてんの?」
カルネシア「神王ムカつくんだよアイツ!理由はないが見てると寒気がする…!」
瑠美那「あーなんかセクハラしてそーだよな」
カルネシア「そうじゃなくて、体が変に嫌悪感もってんだよ。あー!胸くそわりぃ!!」
ヴァレスティ「確かにそうゆう話が多いな」
瑠美那「ええ!マジ?!おカミさんもされたとか?」
ヴァレスティ「カルネシアにされたな。」
一同が固まった。
カルネシア「誤解を招くようなことを言うな。」
ヴァレスティ「まぁ、冗談はそのへんにしておいて、真面目に話すことがある。」
瑠美那「え、ってカルビー完全否定してなくない?」
ヴァレスティ「まぁ、そのへんはそのうち話してやる。笑い話だ。」
変な笑みを浮かべながら、手品のように椅子を出して、座り足を組む。
其れを合図のように、私達の隣にも椅子が現れた。
ヴァレスティ「実は会議の内容を盗み聞きしていた。」
あっけらかんと話す。
おカミさんってじつはかなりおおざっぱな性格…?
ヴァレスティ「神王は“セリシアの力は王を下回っている”ような事を言ったであろう?」
羅希「言っていました。」
ヴァレスティ「100%違う。セリシアは四大世界の王を集めたよりも…神族全てを集めたよりも強い。ガイアをも上回る。」
飛成と羅希とカルネシアが同時に声を出した。
カルネシアが、本当だったのか…?と呆れたような声を出した。
羅希「何故分かるのですか?」
ヴァレスティ「彼女をはカオスを破ったのだ。」
3人は無言の驚きを見せた。
みんなの話のテンションは上がってるけど、私にはなんのこっちゃ。
瑠美那「ガイアって誰?強いのか?」
私は椅子に座らずに、ベットでごろごろしていた。
羅希がこちらを見ずに説明してくれた。
羅希「神族の始祖。つまり全ての母親だよ。強いのはもちろんだけど…偉大なんだな。
一度人間の男に恋をして世界が狂ったために、彼女は混沌と言われる存在、カオスの奥に閉じ籠もったんだ。
それ以来、世界は平静を保っているけど、昔に比べて廃れたんだ。」
瑠美那「うっわ〜やっぱうさんくせぇ神話っぽい」
羅希「神話だから」
瑠美那「で、セリシアはガイアを倒したわけ?」
カルビーが隣で呆れ気味に付け足した。
カルネシア「ガイアに異常が起こったら世界は平気ではいられない。彼女の強さが証明されたのはカオスの方を破った方からだ。
アレはガイアを守る分、ガイアよりも強大。挑んだ者はいるらしいが、みんな近づくだけで跡形もなく消されている。」
瑠美那「ほ〜。んじゃガイアやばくない?丸腰なんだろ。セリシアならどうにでもできちゃうだろ」
ヴァレスティ「そう。それが何よりも困ったことなんだ。数年前に姿を消した。」
え、と一同から声が漏れた。
ヴァレスティ「神族の者を不安にさせないように伏せられているが…おそらくセリシアに連れ去られたんだろうな。」
瑠美那「やべぇじゃん。」
ヴァレスティ「だが今のところ世界の何処にも異常はない。ガイアは無事だ。
それに、セリシアの居場所は掴んでいる。」
カルネシア「何処だ。」
ヴァレスティ「カオスの中だ。」
それを聞いてカルビーが項垂れた。
ヤバイ状況なんだろう。
カルネシア「カオスもセリシアに従っているか。」
裏切り?、と私が聞くと彼は首を横に振った。
カルネシア「カオスに仲間意識などない。強い者に流されただけだ。」
瑠美那「じゃ、セリシアに勝てなくねぇ?」
それを勝てるようにするんだろうが、とみんなから当然のツッコミを受けた。
カルネシア「ヴァレスティ、ついでに聞きたい。キャディアス様は“今も神王に戒められて存在している”とセリシアが言っていた。どうゆうことだ。」
それを聞いて、彼女は肩を縮めた。
ヴァレスティ「初耳だ。処刑されたと聞いたが……ひょっとしたら、最高刑なのかもな。」
最高刑?と聞き返されて、ヴァレスティは少し言いにくそうな顔をした。
ヴァレスティ「キャディアスが処刑された罪は、敵国への荷担と、人王になりながらも恋人があったということだが」
瑠美那「なあなあ、『人王』って人間の王様?いるの?」
私の横やりに、カルビーがちょっとこっちを、制する目で見た。
だって私は何も知らないんだから、いいじゃん質問くらい。
ヴァレスティ「いた。キャディアス以降はその力が継承されなかったために今はもう無くなったが…。
まぁ、彼がその人王であったために、どちらの罪も重かったが、彼は時期神王と言われるほど人望があった。だから刑も軽くされた、はずだが…。」
カルネシア「あのクソ野郎が、隠れて重い処刑を行ったか。」
カルビーの蝶不機嫌な言い方から、クソ野郎=神王だろう。
……んなこと言っていいんかい。
ヴァレスティ「大方、そんなところだろう。何かの逆恨みか、それとも理由があるのか。
それに、最高刑が行われたのなら、人王が継承されないことも納得がいく。」
羅希「闘神キャディアスは生きている…?」
龍黄の場合のように、ただ先代の王が死んだだけなら、その力は継承できる。
だが継承されないという異例は、キャディアスとやらが生きているから起きた…そう考えられた。
最高刑…最も苦しい処刑はやっぱり生き地獄。
無理矢理生かされて、拷問みたいのを受けてるんだろう。
一体どんな拷問の数々だろう…とグロテスクなものを想像してみた。
ヴァレスティ「で、カルネシア。おぬしはどちらにつくつもりだ?」
おカミさんの言葉が静まりかえっていたせいで妙に響いた。
ヴァレスティ「このまま我々が進軍すれば、セリシアもキャディアスもただではすまないかもしれぬ。」
………そうだった。
神王サイドはセリシアもキャディアスも敵と見なしている。
カルビーとしてはどっちも自分の肉親のような存在だから、多分失いたくはないと思う。
カルビーはセリシアを一度として「殺す」とか「倒す」とか言ったことはない。
むしろ「救う」とか「止める」とか、安否を気遣うような様子だった。
……カルビーは神王サイドよりも、セリシアサイドにいた方が自然だ。
カルネシア「俺に向こう側へ行く気少しでもあるなら、こんな所にいない。」
言い切ったカルビーはなんだか勇ましかった。
瑠美那「やっぱセリシアLOVEなんだな、このナルシストがグベッ!」
顔面がつぶれる、と思うほどにベットに顔を押しつけられた。
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