―――36―――
おカミさんの部屋に不自然な風が吹いた。誰かがこの部屋に踏み込もうとしているらしい。
彼女はその人物を迎え入れた。瑠美那「おー、龍黄!」
入ってきたのはその人で、一瞬魔王の姿はしておらず、幻翼人…というよりは人間っぽい姿。
だが髪が以前の緑とは変わって、魔王の時の真っ黒の髪だったので、一瞬誰か分からなかった。
今の彼は超偉いはずなのに、この部屋の中にいる人物は誰も慎まずにくつろいでいた。
龍黄に続いて誰か入ってきた。
さっきの会議にいた、青年in神王ズ。
彼を見た瞬間、羅希と飛成が急にシャキッとした。
青年「どうせ魔王よりも位は下です。慎まなくても結構ですよ。」
青年は穏やかにそう言った。だが笑顔はなんだか引きつっているような気がする……かも。
ヴァレスティ「こんなへんぴな部屋で申し訳ありません。おかけになって下さい。」
二人の前にも椅子が現れる。
二人は軽く会釈して座る。
ヴァレスティ「さて、精霊王もいらっしゃるとは、如何様で?」
あ、あの青年は精霊王か。
羅希と飛成には本当の王様だ。
龍黄「個人的に訪ねたのもあるけれど、さっきの会議のことで、話したいことはあるかと思って。」
瑠美那「はーいはーい」
カルネシア「神王が隠してることなら却下だぞ。」
カルビーがズバリと突っ込んできた。
瑠美那「なんでぇ。ここだけの秘密ってことでさ。」
カルネシア「王が、王達の制約を破るは万死に値する、って話だ。魔王を殺したいのか。」
瑠美那「あー………じゃ、いい」
龍黄「隠さずとも、君らは察していると思うけれど。」
私がいいや、と言い切る前に龍黄がそう答えた。
………やっぱり、キャディアスが優秀だからって罪を重くしたってやつか。
龍黄「でも、どうか他言はしないよう願いたい。もし知れたら一部の神族が反乱を起こしかねない。」
………てかさぁ、だからってあのショボクレ神王を、王様にしておくのもどうかって思うよ?
龍黄「後は?」
誰も反応無し。
龍黄「じゃあ、失礼しようか…」
精霊王「ちょい待ちぃや龍ちゃん!!」
えっ。
みんなが一瞬固まった。
龍黄はただ無表情で、妙な発言をした精霊王を振り返る。
精霊王「せっかくみんなに会っとるんやし、もうちょっと、こうさぁ〜団らんとかせぇへんの?」
………精霊王、妙になまってる。
龍黄「……別に、感動の再会って訳でもないし。俺は早く執務を済ましたい…」
精霊王「うわ、冷めとるぅ〜冷めすぎぃ〜。『ひさしぶりっ』って言葉一つもないなんて!アンタら薄情すぎー!
だから龍ちゃんこんなヒネクレとるんやないかい!ちょっとしっかりしてよ羅さん!」
羅希「わ、私!?」
精霊王は一人で暴走しはじめた。
瑠美那「てかさ、精霊王ってこんなキャラだったのか。」
精霊王「こんなんで悪かったな。執事には毎日ブーブー言われてるからちゃんと直そうとしたんよ?
せやけどこびりついたモンはなかなか取れんねん。仕方ないやんかぁー。」
さっきまで妙にじっとしていたせいか、かなり暴走している気がする。
それとも、もともとこうゆう性格なのだろうか。
精霊王「あ、そーそー、うち元は人間でな。セナ・ケントってんねん。愛称セナートでよろしく。」
しかも超フレンドリー。
セナート「それはそうと、瑠美ちゃんさ」
瑠美那「おう、何」
セナート「うちの奥さんならへん?」
しかも何を言うかこの人は。
視界の端っこで、羅希が椅子から落ちた。
セナート「だってなんか度胸あって女の中の女って感じ?かっこええわぁ!」
度胸は男の中の男じゃないか?
羅希が何か言いたげにこっちを見ている。
瑠美那「うーん」
悩むフリをしたら、羅希が泣きそうな顔をした。
瑠美那「丁重にお断りします。」
羅希が安堵で飛成にしがみついた。
セナート「うーん残念。」
そう言う彼の表情はただにこにこしていて、残念そうでも何でもない。
瑠美那「……あんたさ、本当に精霊王なのか?」
セナート「そうや」
瑠美那「威厳が全然無いな」
セナート「威厳なんかあっても腹はふくれんわ。あってもしょーがない。シャキッとすべきとこだけしときゃ十分や」
瑠美那「王になる前からそんな性格か?」
セナート「生まれてこの方、一回もしょぼくれたことなんざ無いわ」
瑠美那「王になると性格が変わるもんだと思ってた。」
私がそう言ったら、龍黄が「俺のことか?」と目で訴えてきたので「そうだ」と目で返事をした。
セナート「そやねぇ。龍ちゃんって場に流されやすいんとちゃう?
いっくら住まいが魔王城だからって魔王っぽくならんでもええのにね。」
龍黄「………」
彼は何か言いたそうにしていたが、何も言わない。
セナート「魔王継承前に数分だけ会って話したときは、そりゃもう可愛いキャラやったんに…継承終わって部屋から出てきたらごっつ暗くなってて言うこと答えることメッチャ暗いねん!!」
セナートは一気に言ってからちょっと一息ついて、夢を見るように妄想にふけっていった。
セナート「あぁ…あの可愛い龍ちゃんが恋しいわぁ〜あの白くてきめ細かい肌に、妖精が戯れる野原のような緑の髪の毛、一度開かれればアポロの竪琴のような」
龍黄「セナート。いつまでもふざけてると斬るぞ。」
なんだか勝手に妄想に酔っていたセナートに、龍黄が背後から大鎌を振りかぶって待機していた。
龍黄の二の腕にはハッキリと鳥肌が見える。
彼はやっとおとなしくなって縮こまる。
龍黄「失礼した。今度こそ帰る。」
鳥肌をたてたまま、セナートの後ろ襟を掴んで引きずっていく。
瑠美那「龍黄」
何か言いたくなって、思わず呼び止めた。
彼はこっちを見て、相変わらずの声で「なに」と呼びかけてくる。
本当に、変わったなと思う。
私がまだ精霊界にいたときも、私の前ではいつもニコニコしていた。
……羅希達には多分、いつもこうだったのだろうが…。
瑠美那「あー…、体に気をつけろよ。」
母親か、私は。
私としても、以外だと思う言葉に、龍黄自身も驚いている。
目を丸くしてこちらを見ていたが、不意に、前とは違ってやたら明るいわけでもない。柔らかな笑顔をうかべる。
一瞬、私も含める一同がその様子に驚いた。
これが、本当の龍黄の笑顔なんだろうか。……急に、龍黄を魔王にしたことを後悔した。
セナート「龍ちゃん可愛い――――――!!!!」
抱きつこうとしたセナートを今度こそ鎌で斬って、龍黄は部屋を後にした。
龍黄達がワイワイやっている間にカルビーも落ち着いたらしいので、すぐにヴァル・ヴァヌス、アステリア邸に帰ってきた。
神界で、近いうちに戦争が始まるかも知れないので、準備は常に万端にしておけ、とのお言葉を頂いた。
なのに私は………
瑠美那「だぁ―――!!いってぇ!!!」
カルビーにまたスパルタ特訓をしてもらい、全身傷だらけの筋肉痛だらけになっていた。
羅希が、二の腕の刺し傷に何かの液をかけた瞬間「そのままにしておいた方がいい」と思う激痛が走った。
羅希「我慢。下手すると膿むよ。」
液体を、混じった血ごとゴシゴシふき取って、手際よく包帯を巻き付ける。かなり強めに巻かれたが、痛みがちょっと紛れて丁度良かった。
もう彼は私がどれだけ傷だらけになっても何も言わなくなったし、カルネシアに何か言うこともなくなった。
ただ無言で睨んだりはするらしい。
羅希「じゃあ、痛みが引いたら包帯をゆるくして。」
瑠美那「あぁーありがとぉ…」
今度は体力がなくなってベッドに倒れ込んだ。
倒れたはいいが、ジャケットの中が汗で濡れていて気持ち悪い。脱ごうと手を動かしたが、力が入らなくて上手く動かせない。
瑠美那「るおしー、ジャケット脱がして」
彼が変な声を出した。
そして赤くなる。
羅希「……ちゃんと中着てる?」
一応中にはシャツを一枚着ている。
瑠美那「着てない。」
羅希「えぇっ!!」
恐ろしいまでに赤くなって、部屋の端まで後ずさった。純情なヤツ
瑠美那「嘘だよ馬鹿。寝苦しいっての、早くー」
それでも彼は少し疑っているようで、赤くなったまま戻ってくる。
瑠美那「変なとこ触ったら金取るから。」
羅希「………」
やっとジャケットを脱がしてくれる…途中に
部屋の扉が開いた。
飛成「羅、ちょっとここの調合……」
入ってきた飛成は、こっちを見るなり手にしていたメモの束を落とした。
………私と羅希がちょっとヤバイ構図に見えたのだろうか。
飛成「……………ごめん邪魔した!!かまわず続けて!!!!」
羅希「ちょっと飛、違っ」
真っ赤になって彼女は電光石火の勢いで部屋を飛びだした。
羅希をその後ろ姿をポカンと間抜けに見送っていた。
てか「続けて」って……私はまだ未成年だぞ。止めろよ。
瑠美那「……後でちゃんと話せばいいだろ」
ジャケットの前は開けられていたので、残りはなんとか自力で脱ぎ捨てた。
羅希「だってさ……う゛っ」
彼がこっちを泣きそうになって振り返った瞬間、変な声を出してしゃがみ込んだ。
……汗で濡れたシャツが透けていたらしい。
だからって鼻血だすなよ。
瑠美那「お前、キャラ的には面白いけど、ちょっと人間的に問題あるぞ。」
また扉が開けられた。
飛成か、と思ったらカルビーだった。
カルネシア「おい、羅し………何やってる、お前ら。」
今度は羅希が鼻血出してうずくまっているので変な構図になっている。
彼の場合、羅希の鼻血ブーの方が問題で、私のセクシーショットは眼中に無いらしい。
瑠美那「羅希が私を襲おうとした」
羅希「えぇ!!?」
瑠美那「だから冗談だっての」
私達のふざけた様子を見て、カルビーがため息をついた。
カルネシア「羅希、鼻血拭いたら外に出ろ。重要な話だ。」
羅希が部屋を出たらカルネシアが待機していた。
羅希「それで、なんですか。」
顔を洗ってきたようで、前髪から少し滴が垂れている。
カルネシア「戦いの日が決まった。」
いきなりの報告に少し唖然とした。
羅希「……いつ」
カルネシア「明後日だ。」
しかも早い。
カルネシア「ただし、俺とお前以外にはまだ伝えるな、だそうだ。」
羅希「何故?」
それには、さあな、と肩を竦めた返事。
カルネシア「でも、なるべく準備は……」
話す途中で、彼が視線だけ廊下の曲がり角に向けた。
羅希はその様子を見て、初めて誰かそこにいることに気が付いた。
どうしようか、彼に尋ねようとしたときには、カルネシアはそこに歩きだしていた。音もなくそこに近づき、あっという間に死角にいた人物を押さえこみ、引っ張り出してきた。羅希「飛…?」
そこに潜んでいた人物の正体は、飛成その人だった。
飛成「あー…ごめん。なんか重要なことだったら…聞くつもりはなかったんだけど。」
ごめん、とまた彼女は謝る。
羅希「…なんでそにいたの」
飛成「いや…さっきの羅と瑠美の状態が気になって…止めた方がいいかなぁと思ってさ…」
羅希「え、あ、あれはだからっ」
カルネシア「尋問中に取り乱すな阿呆。」
飛成「それで戻ってきたらなんかカルネシアさんと深刻に話してるから……」
羅希「………?」
カルネシア「………?」
飛成「………瑠美の取り合いでもはじまったのかと」
羅希&カルネシア「「妄想しすぎにも程がある」」
……それで、ついつい立ち聞きしてしまった、と。
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