―――39―――
人間界に異変が起きた。
祭りの夜に突然、空から星と月が消え、黒い雲が満ちた。
日中、太陽の光はほんのわずかで夕暮れ程度の明るさ。
そして大地が腐食していき亀裂が走り、木々も徐々にしおれていく。
ガイアが弱っている。私達は祭りの翌日、神界へ向かった。
龍黄「戦争が延期になった。」
その言葉に私達は唖然とした。
場所は神界のアスガルドの中央城会議室。
メンバーは私達の他に龍黄とセナートと二人付き添いの執事とおカミさん。
ガイアの危機、大地の腐食のために人々が危険にさらされている。それなのに
龍黄「昨日冥王が殺された。その為冥界の者達が平静を失っている。それをまずは鎮めなければならない……と、神王の意見だ。」
わざわざ神王の意見、と足す龍黄。きっと彼もこの意見に反対気味なんだろう。
にしても……また神王かよ。本人は異見を避けるためかここにはいない。
羅希「龍、個人的に質問する。君は神王に異見を唱えないのか。…また、君が唱えないなら、私達が唱えてもいいのか」
龍黄「私達、王には昔に結ばれた神王との制約がある、故に異見は出来ない。…もう一つの答えは、神族は君達よりも王を優先する故、君達の独断での進撃で勝利はありえないだろう。」
羅希「……つまり、龍達に異見を唱えさせなければ、神王に反対しても良いわけか。」
龍黄が眉をひそめた。
龍黄「……何をするつもり?」
魔王としての質問ではなく、龍黄としても質問のように思えた。
羅希「……“セリシア討伐”ではなく、“キャディアス奪還”と発表すれば、神族方の大半に協力してもらえるのではないかと。」
闘神キャディアス、彼はとても強力で優秀で、人望のある神だったと聞いた。
人王の座に就いたが神族の中で多くの者が、神王にするべきだと不満を覚えたという。
彼は優秀すぎ、人望がありすぎた。
それで、自らの座を守ることと、キャディアスで国が創れる程の力を消すために、神王がキャディアスを陥れた。
その結果、本当は無実であるキャディアスは様々な罪を押しつけられ、慈悲ある裁決と公表されながらも、最高刑に処された。
それは生き地獄で、彼は死ねずに今も拷問を受けている。
………一部を除いて、神族の誰も知らない隠された事実。
だが誰もがこの事実を想像しているという。
今でもキャディアスを忘れられずにいる神族は少なくないから。
龍黄「……また個人的に回答をする。できれば、やめてほしい。それは神王を敵に回すことにもなりかねないし…制約によって俺たちも敵に回りかねない。」
羅希「それでも、君は許してくれる。」
疑問形ではない、確信を持った回答だった。
羅希「本当に、もう時間はないから…。初めは僕と瑠美の問題と思っていたけれど…もう、それだけの問題じゃない。」
人間界の者達、全ての問題となってしまった。
龍黄「……分かった。」
龍黄がため息混じりにそう言った。
セナート「ちょい待…ちょっと口を出しても良いかな。」
意外にも、ボーっとしているようにも見えたセナートが口を出した。
セナート「無理に、とは言わない。……神族にそれを伝えるのは、例え今からでもかまわない。でも進撃は…時が来るまで待って欲しい。」
羅希「時が来るまで…と言うと?」
羅希の質問に、セナートは言葉を探していたが
セナート「……その時になれば分かる。別に今よりも…君達にとって危機に陥るということはないし、そう遠くもない。」
曖昧な答えを返してきた。
羅希はしばらく考え込んだ。
セナート「…その時が来れば、多分…うちと龍ちゃんは敵にまわらんですむ。」
セナートの後ろで執事が何か言いたげにしたが、場所が場所で言えない。
羅希「………それは」
セナート「龍ちゃんもええやろ?」
羅希の言葉を遮って、彼が龍黄に問い掛ける。
龍黄は迷いなく頷いたが、羅希の方が迷っていた。
だがすぐに、彼も首を縦に振っていた。その表情には小さな決意。
カルネシア「…ヴァレスティ、あんたはどうする。」
羅希達と共に、神王までも敵に回すのか、それとも逆か。
ヴァレスティ「間の抜けたことを言うな。私は自分の欲に忠実だ」
彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべた。それに返すように、カルネシアも口の端が上がる。
羅希「……ではヴァレスティ様、一役頼めますか。」
ヴァレスティ「分かっておる。ちょっとした噂にすれば良いのだろう?」
羅希「はい。そして、後日に公表しましょう。」飛成「なぁんかさぁ、僕らの頭オーバーヒートって感じ…」
瑠美那「だよなぁー。私達は私達で、従ってればいいんじゃねぇ?」
私と飛成の女性陣二人は、精神的に端に追いやられていた。
だってなんかみんなは先を先を考えていて、私達はそれに付いていけない……。
二人でぐちぐち話していたら、おカミさんがどっかに消えて、羅希とカルビーがこっちに来た。
羅希「飛、瑠美、こうゆうことになったんだけど…」
瑠美那&飛成「「ごめん。いまいち理解できないから好きにして」」
涙ながらに、話に突っ込むのを避けた。
羅希「あ、いや、そうじゃなくて…。準備が整うまで、人間界じゃなくて精霊界にいようか、って話もしてたんだ。」
瑠美那「なんで」
羅希「今の人間界だと不便だろ、食べ物とかでさ。今バテるわけにはいかないだろうし。」
飛成「ねぇー、まさか…幻翼人の村に行くとか言わないよねぇ?」
羅希「………言うねぇ。」
返ってきた羅希の言葉に、飛成が脱力したようにしゃがみこむ。
私としても、ちょっと行くのは嫌だった。
だって……散々いぢめられて、龍黄取り合いしたしー…。
羅希「ほら、今じゃ、僕らの方が優位だし、少し里帰り気分してみるのも良くないかと思って。」
アヒルのような口をしていぢけていた飛成も、ちょっとその言葉で反感が小さくなったようだ。
飛成「んー、瑠美どう?」
瑠美那「別にいい」
飛成「じゃあ、そうしますか。葉蘭も連れて行くでしょ?」
羅希「…本人に聞いてみてからね。」
あ、葉蘭。
すっかり忘れてた。
後日、結局精霊界の幻翼人の村へ。
葉蘭は、世話になっている孤児院を離れるのが嫌だと言った。
彼女は子供達のお守り役でもあるし…仕方ない、と手みやげ(精霊界からパクった食料)を置いてきた。
サンセにも、事情説明をしてアステリア入手。
村の人々は、何人がバツが悪そうに避けていたが、何人かはこちらにへこへこしてくる。神族のカルビーがいるせいもあるかもしれないが…。
んでもって、寝床は元私と龍黄の家と、元羅希と葉蘭の家。
飛成「僕アッスーと一緒に住む〜!」
ってことで、飛成とアステリアは羅希と葉蘭の家に泊まることになった。
竜花はカルビーにつきっきりなので引き離せないし、私も羅希も、1人で飛成達のラブラブカップルの中に入っていくのはなんだか嫌だった。
なので仕方なく少し広い私と龍黄の家に4人で一緒になった。
お互いの家はまだちゃんと残っていて、ホコリも比較的少ない。少し掃除すれば全然使える。瑠美那「おりゃぁ―――――!!!!」
朝っぱらから雄叫びが響いた。
カルビーとの特訓で、彼にありったけ気をぶつけてみろというのでやってみた。彼は魔法で防ぐという。
まるで盾を棍棒で殴っているような感じがあって、私の方が早く壊れてしまった。
瑠美那「あぁー!やっぱだめぇ!?」
脱力して、さっき特訓で切り倒した木の上に座り込んだ。
カルネシア「いや……気の量は十分だ。多分、あのクズよりは上だな。」
瑠美那「うぉ!マジ!?」
カルネシア「あくまで、“気”の量だが。」
つまり、彼の魔力と対決して競り合って勝てるわけではない、と
カルネシア「いまいち技術の方がついていっていないな。ちゃんと練習したのか。」
瑠美那「したよ。それでなんとかこうやって武器っぽくまとめられたんじゃん。」
カルネシア「まだ無駄がありすぎだ。立て」
私はちょっとやる気を取り戻して、立ち上がった。
彼は私の後ろに回って、腕を掴んでくる。
カルネシア「軽く気を出してみろ」
言われたとおりにした。捕まれた右腕を武器にするように、気を纏わせる。
カルネシア「ゆっくり息をしろ」
ゆっくり、少し大きめに呼吸をした。
今までもあったことだが、息のリズムに合わせて気の動きに小さなリズムができる。
それに乗るように、カルビーの気が腕に流れ込んでくるのが分かった。
なんだか腕が乗っ取られるような感じがしたが、受け入れる。
カルビーの気が私のを押さえようと促しているのが分かる。
そして私の気がガチガチと言えるほどに固まったのが分かる。
カルネシア「……次は一人でやってみろ。」
彼が手を放せば、まとわりついていた気が四散してしまう。
瑠美那「おぅ」アステリア「……飛成」
飛成「ん?」
彼女が新婚気分で作った朝食を口に放り込みながら、向かい側にいる彼女に声をかけた。
彼女の視線が、窓の外からアステリアに戻った。
アステリア「大丈夫か」
飛成「え、なにが?」
アステリア「眉をひそめて目が虚ろだった」
飛成「え、そだった?」
さっきまではそうだったが、今ではいつもの飛成だ…。
飛成「最近ね、調子悪いんだ。べつに頭痛とか風邪とかじゃないんだけど…。気分的に緊張してるんだろうな。」
アステリア「……」
飛成「あ、ちょっと出かけてくる。」
彼女は少し朝食を口に放り込んで、家を出た。私はじっと彼の返事を待った。
カルネシア「……まあ、合格だな。」
瑠美那「ウッしゃあああ―――!!!!」
私は芝生の上に仰向けに倒れた。
瑠美那「あーくそ疲れたー」
カルネシア「……どれくらいやってたんだ。」
瑠美那「昨日来てから一睡もしてねぇ…いや、10分居眠りしたな。」
そんな感じで、ずっと気の放出練習。
何度も何度も気を限界まで絞り出すことで、気を体に溜められる要領を、無理矢理広げるのだ。
カルネシア「小娘。俺の忠告を忘れるなよ。」
……少し、晴れていた気分が曇っていった。
瑠美那「……正直言って、できるかわからない。」
体に当たる風が気持ちいい。心地よい風は気分を晴らしてくれるから結構好きだ。
瑠美那「今でも、殺した奴らのことよく夢に見るんだ。だから寝るのが少し…いやだったんだよな。ただがむしゃらだけど、少なくとも死を恐れないで強くなろうとしてるんじゃないと思う。」
確かに、まだ死ぬのは怖くない。そんときゃ仕方ない、と割り切ってしまえる。
……祭りの夜から、悪夢が酷くなった。
あの少年に“クラウディ”の名前をあげたことで、自分がまだクラウディを忘れられずにいることを実感した。
自分の弱さを感じて、なんだか余計苦しくなったと思った。
瑠美那「……私はココロが弱い分、体を強くならなきゃならない気がしてる。」
カルネシア「……お前はどちらも弱くない。」
瑠美那「って言われてもネェ」
カルネシア「傷がありすぎるだけだ。」
瑠美那「……じゃあ修復できないかなぁ」
カルネシア「すればいい」
瑠美那「どうやってよ。そんな建築物じゃないんだから…」
カルビーが私の隣に座る。
カルネシア「やっぱお前にとっての一番の見本は、羅希だな」
瑠美那「どうして」
カルネシア「アイツは本当ならとっくに死んでる。」
風が静まった。
カルネシア「それを生きながらえさせているのはお前の存在だ。」
ちょっと前に聞いたカルビーの言葉を思い出した。
瑠美那「ひょっとして、前に言ってた『いい男でもみつけてみろ』ってヤツ?」
カルネシア「ああ。精神的に強くなりたいなら好きなヤツの為に…ってのが効果的だろうしな」
瑠美那「あぁー、経験者は語るって」
私の顔の横に出刃包丁が突き立てられた。ってなぜ出刃包丁!!?
カルネシア「失う物がないってのは強くはならない。無謀になるだけだ。」
瑠美那「そっかぁ…でもこうゆうせっぱ詰まった状態で恋愛沙汰やってらんねぇだろ」
カルネシア「羅希はだめなのか」
瑠美那「タイプから外れまくり。カルビーはタイプだけど、竜花持ちだろ」
カルネシア「………なんのことだかよくわからんが、無性にムカついたぞ」
出刃包丁が私の頭上でぶらつく。
瑠美那「ま、いいや。その辺は適当にやっとく。んじゃまた練習するかな!」
出刃包丁を避けて、起きあがる。
「手伝ってあげよっか?」
不意に、どこかからか声がした。聞き覚えのある男の声。
木の上から飛成がぶら下がっていた。
瑠美那「おー、男版ひさしぶりー」
飛成「たまには僕もしっかり運動しないとね。戦いが近いし。」
彼は運動した後のようで、じんわりと汗をかいていた。
木から飛び降り、私の前に着地する。
飛成「どう?実戦練習してみない?」
瑠美那「やるやる!飛成って気道できるのか?」
飛成「羅直伝で。気道対決する?」
瑠美那「いや…飛成は武器と魔法で。私は武器と気道にしておく。」
飛成「おっけー。」彼は少し離れて宝剣を抜いた。
金色の刃がギラリと光る。その瞬間、剣と彼の瞳に殺気が帯びる。
私の本能が彼を敵とみた。
体の奥が熱い。
飛成が先手。
彼が一瞬で間合いに踏み込み、剣を振る。刃に私の首を飛ばそうとする殺気が満ちていた。
それを弾き飛ばすように叫んで、気の塊を彼の剣にぶつけて軌道を反らす。
剣を避けて、気を込めた拳で彼の剣とは反対の左肩を狙う。
その瞬間に彼の右足が私の死角をついて左腕を蹴り上げてきた。彼が格闘家でもあることを忘れてた…。
彼の重く鋭い蹴りに、私の左肩が嫌な音をたてて動かなくなった。
彼がとどめとばかりに剣で斬り上げてくる。
飛成「…!」
次の瞬間、私は彼の剣の軌道線上に飛び込んで、靴底で剣を受けとめてた。
避けるか気で受けるかできたが、飛成は戦闘に何かと計画を立てているような気がしたので、思いっきり飛び込んで意表をついてみた。
靴ごと足を斬られる前に、足をねじって剣の動きを止め、私の体が落下しきる前に、飛成の喉元を掴んだ。
瑠美那「潰したぞ」
私は勝ち宣言にそう言った。
飛成は何故か呆けたようになっていたが、すぐににやけて両手を上げて負け宣言。
飛成「僕も猛特訓しなきゃ駄目かな」
いや、反射神経や体のこなしなど、戦闘能力は完全に飛成が上だった。
それでも勝てたのは、私がたまたま彼の戦い方のくせを発見できたからである。
彼の戦い方は、攻撃を仕掛けるとき、仕掛けられるときも、計画性をもっていた。
あえて攻撃を弾かせてから、わざと体のある箇所を隙だらけにして、そこを攻撃するように促す。
そして、あらかじめ考慮しておいた死角をねらう。それを繰り返そうとしているように思えた。
その方法は危険だ、とカルビーの教訓。
もし“形”に慣れすぎた人が、相手に考えもしなかった行動をとられるとかなり焦る。
それならとにかく体で反応して、キャリアを積めてから頭で考えるべし。
とか頭で今の戦いの反省をしていたら、飛成に蹴られた左肩に痛みが走った。
瑠美那「…って〜脱臼してるなぁ」
その肩を気合いで動かすと、また嫌な音が響く。
鋭い痛みはすぐに引いて、肩もすぐに動くようになった。
飛成「あっ、ごめん…湿布しておいた方が良いかな…」
自分でやっておいて…さっきまで殺気ムンムン(?)だったくせして…
瑠美那「……」
湿布を着ける必要はない、と返事をしようとしたら、彼の肩越しにカルネシアが見えた。何故か表情が険しい。
瑠美那「おい、なに…」
怖い顔をしているんだと言おうとしたら、彼はさっさと回れ右して歩いていってしまった。
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