―――43―――

セリシア「おかしい…何故入らない…?」
祭壇に横わたる、銀髪の、キャディアスの器を前に、彼女は頭を抱えていた。
その後ろに、呼ばれ、武装を整えた飛成が歩み寄る。
飛成「何かトラブルでも?」
セリシア「………ええ。器が魂を弾くのよ。」
…アステリアが、キャディアスを受け入れることを拒んでいる。
彼女がアステリアの閉じられた瞼の上に手をかざした。
セリシア「……抵抗する力は無いはずなのに…何故融合できない。」
飛成は黙っていたが、なんとなく分かっていた。
彼には信念があるから。
彼は自分を追ってくる。例えどんな状況であっても“飛成”のことしか考えていないのだ。
自分を奪うまで、彼は何者にも害されない。
けれど、飛成には見えていた。
少し前に自分と話したときよりも、彼の力が弱まっている。魂の光が薄れていた。
それでも、抵抗し続けているのがなんだか痛々しかった。
飛成「……セリシア、どうするの」
セリシア「……これ以上血を奪っても無駄ね。幻に捕らわれる気配もない。」
彼女はかざしていた手を引っ込めた。
セリシア「……この男が諦めるまで、待つしかないわね。まあ、これだけ手を尽くしているのだから、そう長くはないでしょう。」
アステリアに背を向けて、祭壇を降りる。
セリシア「器がそれだけ高級なら時間も必要でしょう。ガイアの子孫…申し分のない器だわ。」
さっきまで悩んでいて不機嫌そうだった表情も、今は上機嫌だ。
セリシア「さて、希麟達がカオスに入ってきたようだし…一応ガイアの欠片を放っておいたけれど、それで仕留められなければあなたが仕留めておいて。」
言われて飛成はどこかひっかかった。
羅希達と戦うのは嫌だけど、そうではなく…何故セリシアが直々に手を下さないのかが気になった。
アステリアがいない今、セリシアが直々に手を下せば彼らを一掃できるかも知れないのに…。
けれどなんとなく黙って、その命令に従った。

 

瑠美那「って何匹出てくるの――――!!?」
泉から水がわき出るように、カオスの壁から怪しい怪物達がゾロゾロと発生してくる。
そいつらをみんなで分担してひたすら戦っていた。
すでに絶命(と言っても、無理矢理作られた生命体なので魂や自我はないらしいが)した怪物が床に積もり積もっていく。
カルネシア「場所を変える!進め!!」
カルビーが先に通路を走り出しながら叫び、私と羅希と、実は付いてきていた竜花が後に続いて走る。

飛成「……セリシア」
羅希達の元へ向かう前に、聞いておきたいことがあった。
飛成「貴方は、何者なの?」
彼女と目が合う。
なんだかその瞳が強い力を帯びているようで、視線を交わらせておくことが辛かった。
目をそらしてしまう。
セリシア「お前が契約を交わしたのは、私。」
飛成「…」
セリシア「別に、私が誰であろうと君は構わないでしょう?」
彼女はセリシアではない。
それを知ったところで自分にはどうもできないけれど、なんだか不安になってしまった。
少し心に靄がかかったようだ。
それは予感だった。

瑠美那「おーい!!向こうにうおっ!!」
上から剣のような足をした鳥が飛びかかってきた。その剣を白刃取りして振り回してみたら、意外とあっさり剣が折れた。
その剣の欠片を鳥の本体に突き刺す。
血の代わりに水のような透明な液体が出てきて、そのうち動かなくなる。
そうしてる間に後ろから、私に飛びかかろうとした金属の鱗の巨大蛇が、羅希に蹴り飛ばされて首をはねられていた。
瑠美那「羅希!さっき向こうの横穴にちらっと扉が見えたんだ。勘だけど向こう行った方がいい気がする!」
羅希「漠然としすぎ!」
だって、私の第六感がそう言うんだもん。
私が指した横穴は、普通に助走つけてジャンプすればなんとか登れるくらいの高さで、広さも中で普通に立てるくらいはある。
カルネシア「もうどこへ行っても同じだ。そこ行くぞ!」
その言葉を聞いて、私がまずそこへ走り出す。
少し邪魔をされたが難なく横穴に飛び込み、すぐ後ろにいたカルビーから、抱えていた竜花を受け取った。
羅希が少し離れたところで敵の侵入を防いでいる。
私は急いで奥の扉を探る。
周りの虹色の壁に合わない、石の扉だ。だが意外と薄くて叩けば壊れそうだった。
思いっきりたたき壊そうと殴ったら、鍵なんかかかっていなかったようで、あっさり開いた。
とりあえずのぞき込んでみたら…。
瑠美那「………!!!?カルビー戻って!!バックバック!!!」
カルネシア「な、なんだ。戻れるわけないだろうが!」
瑠美那「だってヤバイんだって!戻って!」
カルネシア「こっちもヤバイんだ、進め!」
私は彼に蹴り飛ばされて、扉の向こうに転がった。
羅希とカルビーがすぐに入ってきて、後ろで扉が固く閉ざされたのがわかった。
羅希「ってうわ!?セリシア!!?」
瑠美那「だから戻れって言ったじゃーん」
羅希の驚きに、私はそう軽く返した。
部屋の中心で、膝を抱えてうずくまっている人影。
白いローブで覆われていて顔は見えないが、床に流れる黒髪でセリシアとすぐに分かる。
さっき、カルビーに蹴り飛ばされたときはどうなるかと思ったけど、彼女はそうしたまま動かないし、殺気も闘気も生気すらも感じられないので、今は開き直れた。
瑠美那「死んでる?てかセリシアじゃない?」
それでも、近づかないでおいた。
羅希も少々近づくのが怖い様子。
カルネシア「・・・」
しばらくしてカルビーが進み出た。
セリシアを見下ろすようにしていたが、すぐにしゃがみ込んでのぞき込む。
彼女の顔はそれでも見えない。
肩にかかる長い髪をどけてみるが、首筋までしか見えない。
カルネシア「……生きてはいるが……動かないな」
ちょっと思い切って、彼女の腕をどかす。
カルネシア「!」
力の入っていないセリシアの身体は横に倒れようとする。それをすぐにカルビーが受け止めた。
やはり、彼女は脱力していて動かない。
やっと見えるようになった顔をのぞき込むと…やはりセリシアのもの。
目はうっすらと開いていたが、瞳は生命力も何もなくて穴のようだ。
カルネシア「……どうゆうことだ。間違いなくセリシアなのに…」
瑠美那「……ぽっくり逝っちゃった?」
カルネシア「……いや、これは……魂を具現化したもの。それにセリシアの気を感じる。…これはセリシアの魂だ。」
羅希「…じゃあ、あのセリシアは…?」
羅希の質問に、彼はなかなか答えない。彼自身、謎が解けていないんだろう。
カルネシア「……ひょっとしたら、俺たちが戦っていたのは“セリシア”じゃなかったのかもしれない。」
瑠美那「……っていうと、なに、偽物?」
カルネシア「…ここに魂が放置されてるってことは、あの“身体”はセリシアのものだろう。彼女は“身体”を奪われたのか…。あくまで推測だが。」
んじゃ、誰かが“セリシア”語って悪行をやらかしていたって事か。
瑠美那「それ以外になんかあるのか?」
カルネシアはなにやら考え込んで返事をしてくれなかった。その代わりに羅希が返してくれた。
羅希「敵の目を欺くために“魂”をここに隠していたとか。」
カルネシア「…その可能性は低いな」
なるほど、と納得しようとしたらカルビーが突っ込んできた。
カルネシア「この“魂”はかなり弱ってる。力を多く奪われたように。自分の命を守るために隠すには意味もないほどの微量な力しかない。」
羅希「…では、他に何かあります?」
カルネシア「……さあ?俺が思い浮かんだのはさっきのくらいだ。」
カルビーは動かないセリシアを、眠っている人にするように静かに横たえた。
瑠美那「どうするの、これ」
カルネシア「……“身体”を取り戻したら、戻してやる。それまでここに置いておく。」
先に進もう、と彼がセリシアに背を向けた。
羅希「とりあえず、出口探しますか」
瑠美那「え……」
私が何か言おうと口を開いた瞬間、カルビーと羅希が過敏に反応してこっちを見た。
瑠美那「……何」
羅希&カルネシア「「いや、そっちが何」」
瑠美那「ああ、出口ならあるじゃん、と思って」
羅希&カルネシア「「どこに」」
二人のその言葉に困惑した。入ってきたところと反対の壁に、普通に大扉がある。
ハッキリ見えているから、二人に見えていないと思えなかったのだが…
瑠美那「……そこ」
私が指さす方向を見ても、二人は納得しない。
羅希「……さっきのことと言い、瑠美、どうしたんですかね」
カルネシア「なんか覚醒したか?」
瑠美那「は?てかやっぱり二人とも見えてないの?」
二人同時に頷く。
羅希「さっきも、敵襲を関知したり、見えない通路見えたりしてるしね。」
ってことは、さっきの横穴は二人に見えなかったらしい。
瑠美那「竜花も見えてない?」
竜花「…………」
彼女は不意に目を細めた。
竜花「…………うっすら人なら見えるんだけど」
一同は固まる。

瑠美那「竜花、なんか危ないモノ見てないか!!?」
羅希「と、とりあえず、その人と目合わせちゃ駄目だ!」

 

剣を軽く振る。
気分のせいか身体が少し重い。

―――まずは、あの小娘を確実に狩ってきて。

ここへ来る前に、セリシアに言われたことを思いだしていた。
彼女が一番戦力的に低いから、確実に殺せ、という事か。
けれど、彼女の目はそうは言っていなかった。瑠美那を警戒しているように思えたのは、気のせいか…?
飛成「………」
向かい合う扉の向こうで、良く覚えのある声の会話が聞こえる。
途端に泣きたくなってくる。
だがその気持ちと一緒に、身体の奥底がものすごく冷たくなり、感情までも冷ましていく。
この冷たさは、セリシアとの契約。
自分を戒めるものと、なんとなく知っていた。
いつもそれに抵抗していたが、結局はそれに自分が支配されていた。
そしてまた、自我があるのに、冷たさがそれを覆った。

目の前で扉が開かれる。
そして目にとまったのは、ずっと大切だった人達。
昔、どうしようもなく好きだった人が、悲しそうな目をしてこちらを見ている。
それを見ても、今はもう…何も思わない。
飛成「セリシアの元には行かせないよ。」
自然と口元に笑みが浮かぶ。
飛成「さあ、始めよう」
もう、悲しくなかった。

 

 

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