―――44―――
飛成「さあ、始めよう」
ついに対面してしまった飛成は、私達を見るなりそう言った。
その瞬間、カルビーと羅希と竜花が何かの力にはじき飛ばされ…いきなり私と3人の間に壁が出来て…何故か私だけ、飛成と対峙する形となった。
瑠美那「なんでやねん畜生―――!!」
叫んだところでどうにもならない。
虚しく響く私の声を聞きながら、剣を構えてため息をつく。
瑠美那「どうせ私が一番弱いからなんだろーなぁ。ああそうですよ私はヘボだよクソッ!なめやがって」
内心、結構混乱していた。
セリシアや飛成と戦ったら勝てるのか、分からなかった。だから怖かった。
それに飛成と戦ったとき、どうしてやれば良いのか分からなかった。
彼女を解放してやる手だてが分からない。
カルビーにそれとなく聞いたが、契約相手(つまりセリシア)を倒さないと駄目らしい。が、彼女に会うまで飛成と対峙しないなんてあり得なかったから、アテに出来ない方法だった。
他には…カルネシア「神族との契約の場合、その神族の核の一部を体内に埋め込むことがあるな。」
瑠美那「んじゃ、それを取ればいいのか」
カルネシア「いや、それが無いこともある。契約の方法は一つじゃない。血を交わらせたり、符を書きつけたり、いろいろだ。それら全てに有効なのが、さっき言った契約主を消すこと。」
瑠美那「じゃ、他の契約方法の破り方は?」
カルネシア「……契約はある程度の関係を持てば簡単に出来る。方法は無限。いちいち説明できるか。」
瑠美那「えー、じゃ、飛成にはどの契約方法が」
カルネシア「分かってればとっくにやってる」記憶を探っても、イマイチ良いことは見つからなかった。
羅希「飛!やめろ!」
後ろで羅希の叫ぶ声がする。
それと一緒に、私達と彼らを阻む結界が妙に発光し、動いた。
羅希が結界を無理矢理突き破ろうとしている。それに対し、結界が異物を排除するように、羅希をはじき飛ばそうとしている。
瑠美那「羅希、やめろ!」
結界の力に耐えようとする羅希の腕が、それにズタズタにされようとしていた。
それでも彼が退く様子はない。
瑠美那「カルビー!羅希を止めろ!!」
彼はすでにそうしていた。
羅希を羽交い締めにして後ろへ下がろうとしていたが、無我夢中の羅希の力が勝っていた。
飛成が剣撃を繰り出してくる。それに対応するためにも、もう羅希達に目を向けるわけにはいかなくなった。カルネシア「羅希、この結界は破れない!ここで瀕死になってどうする!」
羅希「瑠美が飛に勝てるわけがない!これは破らないと…!!」
カルネシア「飛成が、小娘を殺すと思うのか!」
一瞬、羅希の力が緩む。その隙に結界から離れた。
だが、やっと手が離れた程度で、羅希はそこより下がろうとしない。
羅希「飛が自我を保てる確信がない…」
カルネシア「ようは、てめぇは結局信じ切れてないんだろうが。」
羅希を掴む腕の力を緩めた。
カルネシア「飛成が味方だって事も、自我を保つ力があるって事も信じてやれ。じゃないと、本当にそうでもアイツは乗り切れない。」
勝手に突っ走って、それを自分に止められて、反抗しても結局は止まる。そんなところは昔から変わっていないな、とカルネシアは内心おかしくなった。
カルネシア「それに、小娘も意外とくわせ者だからな。簡単に死にはしない。時間かかってもここを破る方法を考えろ。」
羅希「……はい。」
うつむいている羅希の後ろ姿が、やたら小さく見えた。彼に深く踏み込むと、必ず切り返される。
また、彼の攻撃を下手に強く弾くと、そのまま切り込まれる。
彼の剣術は、どちらかとカウンターのパターンが多い。
ので、段々と攻撃できなくて、防御に回ってばかりになった。
瑠美那「………っ、どりゃ!!」
段々と疲れてきた私は、試しに思いっきり脇から切り込んだ。
やっぱり、待ってましたとばかりに綺麗に軌道を変えられた。私の剣先は飛成から離れて上空へ向かってしまう。
私の脇腹が隙だらけになったので、そこに攻撃が来る、とすぐにわかった。
剣を手放し、飛成の肩を掴んで側転し、彼の予想した通りの剣撃をギリギリかわした。
一瞬、自分の身体が変だ、と思った。こんなに上手く身体が動くのが信じられない。
飛成の肩口に残っていた私の剣を掴み、側転途中おかまいなしに彼に向かって剣を振った。
その振る速さが、いつもよりも確実に速かった。
何より、私はこんな動きを…考えずに、勘でやっていた。
飛成「っ…」
彼がしかめっ面をして飛び退いた。
彼に与えた傷は、致命傷にはならなかった。
左腕を斬った。動くだろうが、痛みは激しいはず。
離れた位置からこちらをみる飛成の目は、殺気に満ちている。
瑠美那「飛成…なんて顔してんだよ」
彼は黙って、また剣を構える。
何か答えて欲しかった。
私に殺気をむける飛成が…味方であると信じられないほど、別人の顔だったから。
瑠美那「お前、セリシアに好きで荷担してる訳じゃないんだろ?」
彼が一瞬で間合いに入ってくる。
瑠美那「答えろよ!!」
彼の剣を受け止めて、そう叫んだ声は震えていた。
飛成の紅の瞳が殺意にぎらついている。
瑠美那「羅希を裏切るな!」
彼の剣を防ぐことよりも、叫ぶ方で必死になっていた。
そのせいで、退きがたりなくて、足から一筋の血が流れる。
瑠美那「お前はアイツのこと好きだったから、セリシアと契約したんだろ!?」
確信を持っていたはずなのに、それを求めるように、そう叫んでいる。
飛成の“そうだ”の一言が欲しかった。彼の立場上、言えるはずがないのに。
瑠美那「お前は羅希を裏切らない。アイツは、お前のこと信じてたから。飛の側にいてやりたいって言ってたからな!」
最後、そう説き伏せるように言って、私は剣を放した。カルネシア「馬鹿っ、小娘!」
羅希「瑠美!」
竜花「あっ!!」後ろでカルビーと羅希と竜花の声がしていた。
私は賭けのつもりだったが、これは賭けにならないモノだった。
飛成は、セリシアの命令に反するようなことは出来ない。そうゆう制約を受けているのだから。
さっき、彼があんなに冷たい目でいたのも、それのせい。
それでも、これ以上、あの幸せそうでいた飛成のこんな姿を見るのが嫌になったから。
飛成「うあああああ!!!!」
瑠美那「!!?」
いきなり、飛成が悲鳴を上げた。
彼は剣を投げ捨て、その場に肩を抱いてうずくまる。
瑠美那「飛成!どうした?!」
さっきまでの飛成を忘れて、彼にとびついた。
そして彼が自分の左腕を抱えるようにしたので、彼が苦しむ原因がすぐに分かった。
右腕中の血管が破裂しそうなまでに膨らんで、大きく脈打っている。皮膚は少し変色して所々ただれかけ、それは肩口あたりまで広がっていた。
爪が何かの欠片のようにポロポロと落ちる。
すぐに、腕中から血が流れ始める。
瑠美那「…やめろ!セリシア―――!!!」
叫んでも、その相手はいない。
飛成が、私を殺すことを拒んだから。契約を破った罰。
瑠美那「すまない、こうなるって…分かってたはずなのに…!」
飛成を信じ切れなくて、確信が欲しくて、彼をつい、試してしまった。取り返しが付かないことをしてしまった。
狂おしく藻掻く姿が見ていられない。彼の悲鳴は断末魔のようにすさまじかった。
なんとか治めてやりたかった。
羅希にしたように抱きしめてやっても、なんの意味もない。
カルネシア「小娘!そいつの腕を斬れ!」
カルビーがその言葉に、私はためらわずにさっき捨てた剣を拾った。
飛成の腕の異常は、それ以上広がる様子はない。本当に、飛成を痛めつけるだけ。
なんとか治める手はないか、と思っていたが、カルビーがそう言う以上、手はない。
剣を拾ってすぐ、私は飛成の腕を肩から切り捨てた。
―――飛成!!
彼女の悲鳴がかすかに聞こえ、彼女の名を叫んだ。だが、それが声になることはない。
断末魔のように悲惨な声。
それに、遠くであるはずのアステリアが反応した。しばらくして、アステリアの魂の光が、希望を失ったように少しずつ小さくなり始めた。
けれど、それでもまだ、自分を失うことに抵抗はしていた。
セリシア「……なるほど」
その様子を見ていたセリシアが口元に笑みを浮かべる。
セリシア「愛する者の存在は大きいってことね。始めから、飛成を目の前で引き裂いてやれば良かったのか。」羅希「……飛」
飛成は私の膝枕で横になっている。意識はない。
彼が気絶してすぐに、羅希達を阻んでいた壁は消えた。飛成の意識を核とした結界だったようだ。
羅希が一通り止血を済ませ、その顔色をじっと見ていた。
飛成の腕は、肩からバッサリ斬られてなくなっている。そこからさっきまで大量に血が溢れたため、顔色は悪い。
痛みにより滲んだ汗で、首筋まで濡れていた。黒い髪が顔や首に張り付いている。
けれど、息づかいはものすごく静かだった。
時々、アステリアの名前を寝言のように呟いている。
その姿に、なんだかホッとしていた。
瑠美那「……セリシアは、すごく好きな人の為に、こんなことしたんだろ?」
私の呟くような声には、誰も返事をくれない。ただ耳を傾けてくれていた。
瑠美那「好きな人いるんだったら、同じふうに好きな人がいる飛成に…こんなことできるのか?」
その言葉にも、誰も返事はくれない。
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