―――46―――

ジオンとギャアギャア言い合ってから数十分後。
いきなり私はその夢から覚めた。
もう絶対ジオンと夢の中で会うのはやめよう、と思った。
あいつ、想像以上に性格悪いし。

瑠美那「……あのさ、なんで走ってるの……」
起きた瞬間、カルビーに引きずられるようにして走らされている。寝起きに全力疾走はキツイ…。
カルネシア「さっさとセリシアと戦いだけだ」
……こんな寝ぼけた状態で最終戦突入は嫌なのですが……。
羅希が隣から、おぶってあげようか?と声をかけてくれるが、遠慮して自力で走る。

カルネシア「入るぞ」

瑠美那「………え」
気が付けば、目の前に金細工の大扉。
……もしや

私が止める前に、カルビーが扉を開けてしまった。

 

その室内は今までと同じ虹色の材質の壁。ただそれが時折色を七色に変えた。
その中で場違いな金の祭壇が目立つ。
そこに横たわるアステリアはどう見ても死体。
その体から信じられないほどの血が、祭壇をつたり、その下の巨大杯に溜まっている。
祭壇の左右の柱に、セナートと龍黄が無造作に縫い付けられている。彼らも、生きているかちょっと危うい。

カルネシア「…俺が言ったことを忘れるなよ」
羅希「はい」
竜花「うん」
瑠美那「なんだっけ

……………。
カルビーにすごい形相で睨まれた。
だって……いつ話した話?
なんで羅希と竜花は覚えてるの??

羅希「…アス」
隣から、羅希がそれだけ言ってよこした。
あす?…アス…アステリア?……あー!アステリア奪還が優先ってやつか!
瑠美那「………了解」
カルビーの睨みから解放された。

 

セリシア「飛成…!!」
セリシアが苛立たしげに、彼の名を呼んだ。
瑠美那「アイツはここにはこないぞ!」
飛成を部下のように呼ぶセリシアに腹が立ち、つい叫んでしまった。
彼女が私をにらみ返してくる。
セリシア「……ジオン、またお前は……」
彼女はいらいらを…今度は私に向けてくる。正確にはジオンだけど。
セリシア「うざったい…」
悪かったな。私だってジオンはうざったいよ。
彼女の片腕があがった。
てか何でこんなにブチ切れてるんだ。よっぽど意地悪したのか…ジオン。
セリシア「散れ」
彼女の言葉と同時に、私達は四散して走りだす。
だが、その一人一人を光球が追跡してくる。

けど…明らかに私が一番多い!!(泣

 

私はアステリアの所に行くのは諦め、光球とセリシアを引きつけるのに専念した。
追跡方はむやみに逃げ回るのは良くない、それで疲れさせるのも追跡方の役目だと聞いた。
けど、私程度の力の結界でセリシアの魔法に勝てるとは思えない。
だったら誘導してどこかにぶつけるか、何かで壊すのがいいか。
隠し武器の小刀を試しに投げつけてみた。

カルネシア「小娘それに手を出すな!!!」

もっと先に言えカルビ丼!!!!
もう勢いづけて小刀を投げてしまった。

羅希「瑠美、結界を!!」

羅希に言われたとおりに、慌てて気の結界を張る。
その中で、飛翔具でガードを堅め、体勢を低くした。
それをしている間に、視界が真っ白になり、爆風が来る。
爆音が激しすぎて、耳が聞こえなくなった。
最初の爆風とは比べものにならないほどのものが、つづけて来た。
それには全く抵抗できずに吹っ飛ばされる。
壁に後頭部をモロにぶつけた。

 

―――気を付けろ、セリシアが来てる

ジオンの声がして、私は慌てて目を開けた。
風のせいですぐに閉じるしかなくなったが、その一瞬でセリシアの姿が見えた。
すぐに横に飛ぶ。
まだ目が開けられなかったが、セリシアの方で羅希とカルビーの声がした。
彼らがセリシアに攻撃をしかけたようだ。
それで新しい爆風が起きるが、今度はなんとか目を開けられた。
瑠美那「っ………」
目眩と吐き気がする。ぶつけた後頭部が酷く痛む。
髪の間を何かがすり抜けて降りてくる……妙な感覚。さっきぶつけたので、出血したようだ。
それは知らなかったことにして、セリシアから逃げることに専念した。

 

瑠美那が攻撃されていたので、カルネシアの言葉を忘れ、ついセリシアを止めに走ってしまった。
だがカルネシア自身もそうしていて、竜花がアステリアの元へ向かっていた。
彼女は力がない分スピードと技術で補っているので、竜花なら大丈夫と、カルネシアも任せられたのだろう。
彼女が爆風に飛ばされて、壁に叩き付けられる。
セリシアがそれにとどめと、再度魔法を放とうとしている。
カルネシアが瑠美那の前に立って、セリシアに軽い魔法を放った。彼女の創り出したそれを壊す為のものだ。
彼の後ろで立ち上がった瑠美那は、目元を庇いながら離れていく。
それを確認して、カルネシアと目で合図をして、セリシアを挟み撃ちで攻撃。
時間を使いすぎず、弱すぎず、の魔法をぶち込んだ。

 

竜花「……生きてる?」
祭壇に横になっている彼はどう見ても死んでいる。
もう息をしていない。
だが心臓が動いている。動いているとは言えない、不自然に震えているようだった。
触れてみれば体温が全くない。ただの人形のようだ。
生きているのか、死んでいるのか、よく分からなくなる。
竜花「……すぐ降ろす」
体の各所を貫く刃を一つずつ引き抜いた。そうしても、もう傷口から血は出ない。
数本抜いて、彼を祭壇から降ろそうとした。
だが下手に動かさない方が良いかも知れないし、竜花では動かせない。
竜花「アステリア」
呼びかけても返事はない。
ポシェットから小さな水筒を出して、彼の口元に注いだ。
わずかに唇が動いた気がした。
竜花「アステリア」
もう一度呼びかけ、少し多く水を注ぐ。
のど元が動き、水を飲んだのが分かった。
アステリア「…っ」
彼が眉をしかめる。むせたのか、だがそれをする力もないようだ。
とりあえず竜花はまた少し水を流し込む。アステリアも、それを少しずつだが飲み込んだ。
竜花「………」
ちょびちょび入れるのが面倒になって、一気に水を流し込んだ。

……当然、彼はむせる。が、それもやっぱりできないで、かなり苦しそうだった。

水がなくなり、それは見なかったことにしてなんとなく辺りを見回してみる。

竜花「……あ」
真上に何かがあった。
こちらに走ってきていたときは、天上が出っ張って祭壇に垂れ下がっているように見えたが…
祭壇のから見ると、その出っ張りの中心が空洞になっているのが分かった。
その空洞の中で、何か淡く光るものが動いている。
嫌な予感がした。
それが、今にも飛び出してきそうな気がする。
やっぱり、アステリアを祭壇の上に置いておいてはいけない。
彼女は微力ながら、彼を祭壇から落としてでも降ろそうとした。
だが、彼の体は動かない。
何かで縛られたように。

 

―――渡さない

声がした。
どこからかは分からなかったが、なんとなく上だと思った。
あの光る何かが話した気がした。

竜花「カルネシア、早く来て!!何かいる!!!」

 

竜花の声が聞こえ、爆煙に包まれたセリシアの様子を見ることを止めて、祭壇へ走る。
瑠美那「カルビー!下!」
上や後ろはともかく、下と意外な場所を言われて的確な判断ができずに、適当に飛んだ。
それと少し離れてから、床がぐるん、と激しく変形して、何かが生えてきた。
カオスがもうセリシアの一部とかしているからか、魔力の流れを全く感じなかった。
………それなのに、何故、瑠美那はカオスの動きに反応できるのか。カオスだけではなく、ガイアの時もだった。
カルネシア「羅希!小娘を連れて行け!!」
彼がすぐに動き出した。
瑠美那「羅希、私はカルビーの補助にまわる。なんか私だけいろいろ見えてるんだ。」
それは言えている。
ここでの予測できない動きは、カルネシアでもかなり手間取る。
横から口出しするだけでも、ここだったらかなり助かるだろう。
羅希「わかった、気を付けて」
瑠美那「そっちこそ」

 

竜花が祭壇に横たわるアステリアに覆い被さるようにしていた。
何かに怯えながら。
竜花「この上に何かいる。でもアステリアを動かせない」
こちらが「どうした」と聞く前に、彼女が声を荒げて言った。
竜花が言う“上”に何かの気配がする。
神族の気。
羅希「まさか………」
何かに気付いた彼は、慌ててアステリアを動かそうとする。
だが動かない。彼が動かないのは竜花の力が至らないだけではなかった。
羅希「縛られてる…。解呪するから下がって」
竜花に言うと、彼女は逃げるように離れた。
上にいる何かがヤバイものだと彼女も感じていたのだろう。
アステリアに手をかざして、彼を戒める魔力を探る。
彼の周りに不格好にまとわりつく空気。普通、こんな形ではここまで強い呪縛を作ることはできない。相手の感情への影響や、体調を悪くする程度しか…。
だがちゃんと束縛できていることから、この魔力は恐ろしく強力。
しばらくそうして魔力の流れを読んでいた。
無造作な呪縛なために、弱いところが掴めない。
だがこの魔力の差で、この呪縛に正面からぶつかることは無謀だ。弱点を探って突くしかない。
セリシアを引き付けてくれている二人の為にも、早く……。
わずかに焦りを感じたとき、魔力が鼓動した。
羅希「え……」
思わず一歩引いた。だがそれから後に下がれない。
羅希は、アステリアに取り巻いていた魔力が、自分のそれに絡み付くのを感じた。
振り払おうと魔力を奮った。
だがそれすら取り込まれていく。
声も出ない。
ただひたすら抵抗した

何かが体内の奥深くに侵入し、根こそぎ何かを奪っていこうとする。
抵抗する力も尽きてきた。
自分の中の何かが無くなっていく。
命を奪われるというよりは、存在を奪われるような……

羅希「……っ!」
突然、自分の中で何かが動きだす。
羅希「……シュ、ン…!!」
魂の力を奪われた。
そのため、彼女を抑える力も失った。

「羅希!!」
瑠美那の声を、頭の端で聞いた気がした。

 

セリシアとカルネシアの闘いにはついていけない。
セリシアの強力で休む間もない連撃。
それに対し、カルネシアは動きの速さと反射神経でそれらをかわしながら攻撃を仕掛ける。
が、自分の補助は役たたずではなく、何度も彼を危ういところで救っている。
……1つでも取り柄ができてよかった。

視界からセリシアが消えた。
だが私は視覚以外の何かで彼女の気配をとらえていた。

瑠美那「あれ……」
彼女が場違いな方向へ向かっている…と思ったら祭壇の方だった。
瑠美那「祭壇に向かってるぞ!」
祭壇の方へ走りながら指示を出した。
見れば、羅希が祭壇の上にいる。アステリアもまだそこにいた。
何かに手間取っていたのか。

───シュンが目覚める!羅希が何かに魂を奪われたんだ!

ジオンの言葉に焦った。シュンがどうした、よりも…

希が魂を奪われた…って?

瑠美那「羅希!!」
彼が倒れかけたのを見て、叫んだ。
だが彼は倒れず、すぐに態勢を取り戻していた。
一瞬ほっとしたが、それも束の間、セリシアがそこに現れた。
瑠美那「羅希に触るな!」
だが彼女は彼の頬を手のひらで包んだ。
セリシア「……おかえりなさい」
優しい表情でそう彼に話し掛ける。
セリシア「さあ、これで最後よ…私の中へ還ってくる前に」
セリシアが私の方を睨んだ。
セリシア「…今度こそ、ジオンとお別れを」

嫌な予感がした。

 

 

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