―――47―――
瑠美那「羅希……」
彼をじっと見つめた。
…不意に彼の視線が動き、私と目があった。そして彼はゆっくりこっちへ歩いてくる。
その表情が嫌な予感の的中を実感させた。
瑠美那「……そんな目で私を見るな」
彼の何とも言えない視線で、背筋が冷たくなった。
彼が腰の鞘から短剣を抜く。瑠美那「羅希!!」
プレッシャーに耐えられなくなって、ちょっとヒステリックに叫んだ。
結構距離もあったはずなのに、彼は一瞬で私との間合いをつめてきた。
彼の軌道が読めないほど速かった短剣を、ほぼ勘と運でかわした。だが胸ショルダーがパックリ割れた。
瑠美那「やめろ馬鹿!」
彼が更に踏み込んだ。
第2撃がくる。
私はまだ切り出していない、彼の短剣を持つ手を掴んだ。羅希「瑠美」
彼が私の名を呼んだ。
正気に戻ったのかと一瞬、期待したが彼の表情は笑っていても、瞳は狂気を宿していた。
羅希「愛してる」
優しく囁かれた。
でも、それは彼の本心の声ではないから、なんとも思えなかった。
瑠美那「わかってる。でも今のお前に言われたくない」
羅希「どうして。あの木の上で夕日を見たときも、君は私に応えてくれなかった。…私は、こんなに好きなのに」
瑠美那「……」
羅希「私を見てくれないなら…私の手で殺してやる」
逃げる隙もなく、彼が片手で私の首を掴んできた。容赦なく締めあげてくる。
羅希「瑠美、愛してる。殺してやりたいほど…」
ストーカーみたいなこというなこの野郎。
彼の力なら私の首なんてたやすく折れる。
けどそうしないのは私の苦しむ姿を見て楽しんでいるからか。
捕まれた首がちょっと痛い。だがそんなに苦しくなくて、ただ頭がぼーっとしてくる。
だがこのままでいたらすぐ死ぬ。
彼の指を引き剥がそうと試みるが、びくともしない。
目が見えなくなって、体から力が抜けてきた。竜花「姉貴!」
竜花の声がして、同時に羅希から解放された。
羅希の腕に、竜花の剣が刺さっている。
気を纏わせて投げたのだろう。傷は深い。
羅希がそれを見て、表情を歪めた。
瑠美那「……竜、逃げ…」
声がかすれていた。
羅希の背に紅い翼が生える。殺意の光を纏う翼。
竜花に逃げろと叫ぶが、彼女は立ちすくんだように動かない。私は羅希に飛び付いた。
瑠美那「やめろ…」
声が震える。
瑠美那「シュン、羅希からでていけ!そいつを、誰かの血で汚したくない」
彼は竜花から標的を私に戻した。
彼の手が、私の顔をつかんだ。その瞬間、私の体が鼓動した。
───瑠美那
ジオンの声。
───力の解放を…俺ならシュンとやりあえる
瑠美那「羅希を殺せっていうのか。あんたは始めからそのつもりで…?」
───どのみち、それしか道は無かった…
腹が立った。利用されていた気分。
今、思えばこいつは龍黄の時も私を騙していた…。瑠美那「……嫌だ!お前の言うとおりなんかにしない!」
───瑠美那…!
瑠美那「お前ら二人とも消えろ!羅希は誰にも渡さない!!」
思わずこっぱずかしいことを叫んでしまった…羅希「……瑠美?」
けれど、それが効果有りだったのか、羅希の目から狂気が抜けた。
瑠美那「羅希、正気に戻ったのか」
彼が微笑んだ。
だが返事はなくて、視線が定まっていない。目が見えないのか…。
浮かぶ冷汗が辛そうだ。
瑠美那「羅希……」
楽になるかと思って彼の頭を抱き締めた。荒い息遣いを感じる。
瑠美那「大丈夫か…?」
羅希「…ああ。」
瑠美那「動けるか?」
羅希「…押さえるのが精一杯で……」
羅希の体は意識がないかのように脱力している。羅希「……セリシアは?」
瑠美那「え?」
羅希ばかり気にしていて忘れていた。
見回しても、この広い室内のどこにも姿は見えない。
そういえば、カルビーも…。
瑠美那「……セリシアもカルビーもいないな」「私はここよ」
すぐ傍で声がした。
その方向に歪みができ、セリシアが現れた。羅希が逃げろと囁いたが、羅希から離れるわけにはいかない。
セリシアとの距離はわずか。
彼女があと一歩踏み込んできて剣を振れば、私達を斬れる。
私はその一歩を警戒した。魔法でも私達を殺すことはできるのだろうが…。
瑠美那「……カルネシアはどうした…」
多分、彼はセリシアを引き留めていてくれたんだと思った。
だが今、その姿が何処にもないのは…?
セリシア「カオスの深部」
何となく、嫌な予感がする。
セリシア「そこで粉々にしてやった。かろうじて生きていても、じきにカオスに食われて無くなる。」
彼女が手の中にあった何かをこちらに放ってきた。何の宝石か分からない、鮮やかな赤いピアス。
セリシア「彼の形見よ」無意識で、羅希の服を強く握りしめていた。
セリシア「血が滲んだような色。彼の死を思わせる、素敵な形見じゃない」
さわやかにそんな皮肉を言う彼女を睨みつけた。
カルビーが死ぬわけないと思いながらも…なんだか不安だった。
瑠美那「羅希……」
彼に視線移した。セリシアを目の前にして、無防備だったが…彼女は何もしてこない。
羅希は一見、動揺していないように見える。
なんとも思わないのか?
彼は手を伸ばして、カルビーのピアスを拾った。
羅希「……このピアス、彼がいつも肌身離さず持っていた。」
羅希がゆっくり立ち上がった。
羅希「なぜだか、わかりますか?」
問い掛けられたセリシアは無言。
羅希「……貴方の、形見の品だったからですよ。」
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