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〜エピローグ1 転生〜
質素な室内は、辛気くさい雰囲気が充満している。
部屋には向かい合う2つの扉。そのうちの片方は、処刑場への入り口
羅希は2日ほどで回復し、葉蘭の事を心配してそのまま孤児院に住み着いた。
彼女はセリシアとの戦いには巻き込まれていなかった。
飛成が見せた“葉蘭の髪”も偽物で、あれは飛成本人の髪だったらしい。
羅希から見て、飛成の髪がわざとらしく一房切り取られていたから、すぐに分かったそうだ。(それを早く言え)
私もなんとなく、アステリア邸からそちらへ移り住んだ。
………これでも私の気持ちに気付かない羅希はかなり鈍い。
そうして数日後に、アステリアと飛成が孤児院へ重装備でやってきた。
息を切らせて叫ぶ飛成の姿が、やたら瞼に焼き付いている。飛成「カルネシアさんが神族に連行された!!」
扉が開いた。
みんなが一斉に視線を向ける先には、厳重に拘束されたカルビー。
装束の白がなんだか『処刑』の2文字を突きつけてくる。
両腕を後ろで肘から固定され、背中と鎖でしっかり巻き付けられ、そこから微動だにできない状態。
両足も鎖で繋がれ、歩きはできるが走るのはできなさそうだ。
顔は、目から下がすべてくつわで覆われている。
全身の至る所に札が貼られている。多分、魔力封じ。ヴァレスティ「……くつわと手錠を解いてやれ」
オカミさんが声のトーンをぐんと下げて言う。
なんだか威嚇のような雰囲気があって、カルビーを連れてきた神族が退いた。
神族「…それはでき」
ヴァレスティ「解かぬか…!」
苛立ち声。オカミさん……怖いです。
神族「神王の命令です……」
そう言い張る彼は、威勢がない。怯えきってるよちょっと。
ヴァレスティ「罪人でも処刑前の公言は許可されているぞ。」
神族「………大罪人ということで、それは許可しない、と。」
ヴァレスティ「………」
オカミさんは黙ってその神族に歩み寄る。
彼はちょっと退く。
オカミさんと真正面から対峙した瞬間。一同「!!!?」
彼女は神族を殴り飛ばした。
しかも強力。彼は壁まで吹っ飛ばされた。
ナイスパンチ。ヴァレスティ「私が勝手にした行動だ。おぬしに責任はない。神王に報告でもなんでもするがいい」
そう、唖然としている神族に言い捨てて、彼女はカルビーのくつわと手錠を外す。
音も立てずに、それらは外れた。
カルネシア「……相変わらずだな。」
ヴァレスティ「時間がない、早く瑠美那達を説得してくれ。さっきからずっと五月蠅いのだ。」
死ぬ前だってのに、面倒くさそうにため息をつく彼は、いつもと変わりない。竜花「カルネシア」
カルビーが話そうとしているのに、竜花はおかまいなしで彼に飛びついた。
竜花「カルネシア……どうしても、処刑されなきゃいけないの?」
カルネシア「ああ」
あっさりと彼は答える。
彼は泣きそうになる竜花の頭をいつものようにぐしゃぐしゃとかき回すかのように撫でる。
それから彼女の目線に合わせてしゃがみ込み、その頭を抱いた。
カルネシア「…泣くな。俺は後悔していない。」
お前が後悔して無くても、竜花は後悔しまくるよ。それは私達だっていっしょだ。
竜花は彼にしがみついて、嗚咽を漏らす。
瑠美那「…お前、本当に後悔してないのか?神王はまだ野放しだぞ」
私が間髪入れずに突っ込んだ。
カルネシア「そのへんは魔王と精霊王に任せた。」
瑠美那「でも…」
カルネシア「瑠美那」
やたら食いつこうとするので、彼はため息混じりに私の名を呼ぶ。
そういえば、カルビー、最近私のことを“小娘”って呼ばなくなったな。
カルネシア「お前が俺の立場になって考えてみろ」
瑠美那「私だったら生きて神王に食いつくぞ」
………正直、カルビーの気持ちなんて分からない。私は私だし。
でも、とにかく引き留めたくて、そんなことを迷わず言った。
私がムキになっているのは、彼もよく分かっている。
瑠美那「…とにかく、せっかく勝ったから……1人でも欠けて欲しくないんだ。」
カルネシア「あのなぁ…」
彼の呆れ声は変わらない。
カルネシア「別に処刑といっても転生はされる。しかも俺の場合は魔王の配慮で特別に生まれ変わる種族も選ばせて貰ってる。こうゆうオイシイ話があるうちに手を打っておきたいんだ。」
瑠美那「言い訳だろ。それ」
カルネシア「これはこじつけだが…。それに、俺がこのまま生きてみろ。1人でお前らが年取って死んでいくのを見なきゃならん。不快だし退屈だ。俺からしたらお前らの一生なんて一瞬だ。今死んでもなんら変わりはない。」
瑠美那「うっ…」
それは言えてるかも知れない。
カルネシア「かと言って、もう神界はうんざりだ。だから…そろそろ俺もこの人生を終えたい。」
分かったか、といつもの様子でビシリと言われたら…口を出せなくなった。羅希「カルネシア」
こちらへ来てからもずっと黙っていた羅希が、口を開いた。
羅希「…今までありがとう」
今回の戦いだけじゃなくて、もっといろいろと…。
カルネシアと長い時間共に過ごした羅希は、カルネシアがこうすることを分かっていたのかもしれない。
彼が大人しく処刑を受け入れたことを聞いても驚かなかったし、一度も悲しそうな顔もせず、文句も言わなかった。
羅希「来世ではお幸せに」
カルビーがそれを聞いて鼻で笑った。
カルネシア「ああ」
それだけ返した彼は、まだ足にしがみついていた竜花を、羅希に渡した。
カルネシア「………でもまぁ…少しの間だったが、今までで一番楽しかった。」
初めて、カルビーのこんな声を聞いた。
“切ない”声。ありがとう
そう告げて、彼はオカミさんの方へ…
カルネシア「あ、瑠美那」
と、いきなり彼が振り返って、私を手招きする。もう片手では、彼自身の左耳のピアスを外す。
なに、ピアス献上?
カルネシア「コレ」
彼に促されるままに、ピアスを受け取った。
いや、私に渡されても困るんだけど…どうすればいいんだ?
それを聞こうとして、彼を見上げる。
そうしたら、いきなり後頭部を捕まれて、引き寄せられた。瑠美那「………?」
後ろで羅希の悲鳴がした。
私は……状況把握ができていない。
頭と腰をガッチリ抱き寄せられ、カルビーの前髪が私の額あたりに揺れて、鼻の頭も少しくすぐっている。
目の前にはうっすらとだけ開けられた瞼と、そこから覗く真紅の瞳。
羅希「貴様ぁ―――――――!!!!!!」
数秒後に、その状況は羅希の跳び蹴りで壊された。
残念ながら、カルビーはそれを避けきった。
カルネシア「じゃ、行くか」
ヴァレスティ「よし、じゃあ腕を後ろに組んで…」
羅希「待てええ!!逝く前に殴らせろゴルァ――!!!」
飛成と私で、暴れる羅希を取り押さえる。ちょっとコイツ…怖い…。
手早くオカミさんが拘束具を(適当に)付け直す。カルネシア「会えたら、来世で会おう」
くつわをつける直前に笑いながらそう言い、彼は先の扉へ進んだ。
羅希「うわあぁぁぁ〜…」
カルビーが部屋から出て行って、羅希が飛成にしがみついて泣き崩れた。
羅希「あのロリコン野郎ついに瑠美にまで魔の手をー!!」
飛成「羅、落ち着いてー」
羅希「落ち着いていられるか!くそっ、私だってまだ頬だけだったのにー!!」
飛成「ホッペは一番だったんだからいいじゃん」
羅希「レベルが違う!レ・ベ・ル・が!!」
私は少し離れて羅希の壊れッぷりを見て笑っていた。
私の気持ち、まだ伝えない方が楽しいかも。
竜花「姉貴ー…」
瑠美那「あ」
忘れてた。
ちょっと背がのびても、やっぱり見下ろす形の竜花を見下ろした。
彼女は恨めしそうな目で私を見ている。
瑠美那「……安心しろ。何もされてないから。ちょっとお願いされただけだ。」
そう言って、竜花に彼のピアスを渡した。
それは、竜花が持つのが一番いい。誰よりも、カルビーの傍にいたがっていたから。
ちょっとドキドキな体勢で、突き飛ばすべきかしないべきか考えていたら、息がかかるほど間近で囁かれた。
カルネシア「羅希を頼む。あのバカ、まだ危なっかしいからな」心底楽しそうな声で言われて、自然と私も笑みがこぼれた。
瑠美那「おう。それより、この状態だと羅希に殺され…」羅希「貴様ぁ―――――――!!!!!!」
明るい別れのうちに、終わりにしたいから…
私達は誰も、彼の処刑には立ち会わなかった。
いつもなら、罪人に向かってヤジを飛ばす神族達は、誰1人口を開かなかったという。
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