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丘の上にポツンとたたずむ孤児院の広くもない書斎で、青年が一人で大量の書類を書き上げている。
その部屋には窓が少なく、その上カーテンを閉めているから朝日が全く入らず、人が過ごすと言うよりは監禁されるような雰囲気である。
暗い部屋の中で、机付近のみ、ロウソクの明かりが照っている。
この部屋の主が、この方が集中できる・・・と、整えた環境だった。
その部屋には今まで全く物音が響かなかったが、トントンと小さく扉が叩かれる音が響いた。
そんなに大きい音ではないのに、この静かな部屋には妙に大きく聞こえた。
羅希「飛“フェイ”、おかえり」
扉が開く前に、室内の机に座っていた青年、羅希が客人に声をかけた。
入ってきたのは呼びかけた内容にピッタリ当てはまる人物。
飛「ただいま、羅。」
その返事も、呼びかけに合っていた。
客人、飛は全く足音もたてずに机に寄ってきた。
羅希「早かったな。何時帰ってきてたの」
飛「昨日の夕方。瑠美とすれ違いに。」
飛は書類の一つを取り上げて目を通す。
少々黙読した後にため息をつく。
飛「また実験につきあえって?」
羅希「会社に関係してるのはそれと、薬剤調合法の取引についてだけ。他は全部私の趣味。」
飛「・・・精霊具づくり?」
返事はないが、“そうだ”という答えは自然と分かった。
羅希「・・・その実験の方、君に関してだから。」
飛「サインね・・・。わかった」
羅希の持っていたペンを取り、目を通していた書類にペンを走らせる。
一つの蘭に書かれた名は『美園・飛・成玉』“メイユァン・フェイ・ソンユイ”。
それを書き終わると、ペンを返しながら間をおかずに羅希へ質問をぶつけた。
飛「羅、いつまで『セヴァールフ』に付き合うんだ?」
相手からの返事はない。
飛「・・・瑠美は・・・もう見つかった。あとは何か会社に関わる用があるの・・・か?」
また相手からの返事はない。
けれど、今度の質問には返事が来る、と何となく分かったから黙った。
相手は書類を一段落終わらせて、ペンをペン立てに戻し、一息ついた。
羅希「もう会社とは手を切るよ。瑠美と話を付けてから。でも、その前に、会社に渡した君のデータを消して置いた方がいい。邪魔をされかねないから」
飛「・・・ああ、そうかもね。僕らはともかく、龍達が危ない。」
返事を終えたところで、時間が惜しいと言うように、すぐにまたペンを持った。
羅希はまた書類を書き始めている。けれど、それもかまわずに
飛「羅」
また声をかける。
それでも、羅希はいつも話を聞いてくれている。
飛はクスッと笑いながら
飛「なんだか、僕ら、悪徳商法みたいだな」
それに相手も笑いながら
羅希「てゆーか、悪徳商法そのものだから」
そんな返事をよこした。
さすがにこれ以上邪魔するのは悪い、と、飛は扉へ向かう。
そして、部屋を出るついでにこれで最後、と声をかけた。
飛「羅、いつまでもこんなに暗い部屋にいるとドラキュラになるよ」
羅希「その時は君のか、瑠美のでも貰いに行く」
皇女に呼ばれ、宮殿に来た。
名を名乗っただけで、女官達は無防備にも門を通してくれた。
・・・もし偽物だったらどうするつもりだったんだこいつら・・・。
とは思っても、なんの検査もなかったし、衛兵にビッチリ横に立たれる事もなくて快適だったから嬉しい限りだ。
この地方では極暑の季節が多いので、宮殿内は壁が少なく、随分開放的である。
戦なんかあったらすぐに敵に侵入され、落とされるだろう。
けれど、それがないから宮殿は開放的だし、警備も薄いと考えられた。
女官「こちらです。」
宮殿内見物をしている内に皇女の部屋であろう所についた。
扉は結構大きく、龍黄が手を伸ばして上の方をやっとさわれるくらいだ。
意味無く綺麗な布や宝石で飾り付けられている。
瑠美那「え・・・ここ、皇女の部屋か?」
女官「そうですけれど・・・何か?」
私が信じられないと言う感じにした質問に、女官は当然だとでも言いたげに返答した。
・・・ボケてるんじゃないか?ここの奴らは・・・。
皇女に呼ばれたなんて、嘘か本当か分からない理由・・・その上
訪問者が本物かも分かりにくいのに、ズカズカと皇女の部屋に直接通すなんて・・・。
龍黄「君は何かと警戒しすぎなんじゃないの?ここが平和ってだけなんだから、それでいいじゃない。」
瑠美那「龍黄・・・お前って見た目に寄らず思考力あるな」
龍黄「そりゃ、君よりはあるよ」
にこやかに言うもんだから、一瞬私の脳味噌が固まった。
瑠美那「・・・て」
女官「皇女様。お客人をお連れしました。」
・・・女官が私の殺気を感じて部屋の戸を叩いた。
・・・ちっ、余計なことを・・・。
龍黄を撲殺するタイミングを逃した私は仕方なく構えた拳を降ろした。
皇女「通してください。」
皇女「通せ。」
口調が違うだけの、全く同じ声が扉の向こうから飛んできた。
その返事を待ってから女官が重そうに扉を開けた。
思いんなら何でそんなにデカイのを作るんだ。とか思いながら、ズカズカ部屋に入っていった。
・・・皇女の部屋は思った通り広くて開放的で派手だった。
なんだか、貴族の部屋って一定パターンだ。あまり好みじゃない。
相手は2人ともソファー型のクッションの上に行儀良く並んで座っていた。
この前のパレードでは2人とも同じ服装をして、遠くからだったから見分けがつかなかったが、今ならつきそうだ。
1人はメガネをかけていて服もローブに近いので知能派という感じがする。
もう1人は薄着で開放的な服に、顔立ちがもう1人よりもキツイ感じがする。
龍黄「瑠美、皇女様観察なんかしてないで。座らない?」
・・・ほんっとにコイツは勘が鋭い・・・
私はさっき随分じろじろ皇女を見て(観察して)しまったので、ちょっと視線を逸らし、皇女とは向かい側に座った。
皇女「堅くならずに、くつろいでください。さて、まずはあなた方の名前を」
瑠美那「え・・・」
・・・こいつら、名も知らずに呼びだしたのか・・・?
やはり、パレードで見て呼んだだけなのか。
龍黄「僕は神・里・龍黄(シェン・リー・ロンファン)。こっちは瑠美那です。」
皇女「私はパリス。こっちの口の悪いのがレティスです。」
知能派皇女=パリス 口の悪いの=レティス ね。
レティス「そんなことより、呼び出した理由を。」
パリス「はいはい。特に理由はないんですよね。ただ会っておきたかっただけで」
・・・ピシッ
龍黄「瑠美。頭にヒビ入ってるけど」
パリス「私達は『星見』という占いが得意なんです。それで、あなた達の事を見ました。」
レティス「『コイツらには会っておいた方が良いぞ』って占いの結果だったから」
・・・ピシピシッ
龍黄「瑠美・・・、意味無い呼び出しだからって怒ってるの?」
瑠美那「・・・呆れた。」
龍黄「そう。じゃあ、怒ってないだけマシだね。」
パリス「ま、そう呆れないで。ちゃんと損はしないように、プレゼントを用意しましたから。」
パリスのその言葉で私のヒビはスッと消えた。
だって、皇女様からの贈り物だもん。なんか価値ありそうだし・・・。
あんまし高価なモノじゃなかったら怒る。
レティス「はい、これ」
レティスがごそごそとクッションの後ろから箱を取り出した。
レティス「こっちが筋肉娘で、こっちが羽男のね」
瑠美那「おい、てめ・・・え?」
私は途中で吐こうとした罵声を飲み込んだ。
瑠美那「なんで、今「羽男」って・・・?」
レティス「見たまんまを言っただけだが?」
瑠美那「見たまんまって・・・だって龍黄は・・・っておい!!」
龍黄は翼を隠しているはず、と思っていたら、
この野郎。ちゃっかり出してゴロゴロくつろいでいた。
瑠美那「お前は何出してんだ。」
龍黄「だって、さっきパリスが『堅くならずにくつろいで』って言うからお言葉に甘えてくつろいでんの。羽しまっとくのって結構堅くなっちゃうから。」
瑠美那「・・・そんなんだから、今までずっと追われてたんじゃねえのか。」
龍黄「レティスとパリスなら平気だよ。きっと」
・・・この野郎の性格はこの国にはピッタリかもな。
レティス「んなことより、コレ」
押しつけるように、レティスは私と龍黄にそれぞれ違う大きさの箱を渡していった。
龍黄「おお!すごーい!」
私が開けようとする前に、龍黄が声を上げた。
なんやねん、と、彼の箱をのぞき込んでみる。
瑠美那「・・・首飾り?」
龍黄「あれだよ。僕が翼しまうのに使ってたやつ。でも、こっちの方が全然鮮度イイや。かなり使えるよコレは」
パリス「まあ、値打ちがコレくらいですから」
と言って、パリスが指を4本たてた。
瑠美那「四千?」
パリス「四十万」
瑠美那「よ、よんじゅっ・・・」
私の口が金魚みたいにパクパクなっている。
かなり情けない状態だが、なんだか押さえられなかった。だって・・・四十万と言ったら家が一軒建てられてしまう価格・・・。
それをタダで貰えるとは・・・。こりゃ損なんて絶対に言えないぞ。
レティス「おっと、もう朝食の時間だ。せっかくだから一緒に食べていかないか?」
私はまだ金魚状態で首を振ることすら出来なかった。
龍黄はその首飾りの価値をまだ理解していないらしい。
ヘラヘラして「ご飯食べに行こうよ」とか言ってやがる・・・。
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