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龍黄「・・・瑠美、大丈夫?」

瑠美那「・・・ああ、落ち着いてきた・・・」

あの首飾りの値段を聞いたときのショックがやっと薄れてきたのは、皇女たちとの食事を終えて(全然喉を通らなかったが)からしばらくしてのこと。

食事の後に、宮殿の大臣に、一緒に東の大陸へ向かわないかと言われた頃。

私たちが、特に当てのない旅をしていると聞いて、皇女のガードに、と誘われ(雇われ)たあたりからだ。

さすがに、他の国へ行くともなると宮殿の人たちも警戒してくるらしい。

他にもアレイジを何人か雇うと言っていた。

龍黄「ねえねえ、瑠美〜。この国、結構いい感じだから、ココに居座っちゃえば?」

瑠美那「・・・お前にはぴったりの国だが私には合わない。」

2人で商店街(昨日、買い出しをしそびれたので、買い出しをするために)をブラブラ歩く。

布で包んであるが、龍黄の大鎌が通行人の邪魔になってうざったい。

瑠美那「それか、いい首飾りを見つけたんだから、お前一人でここに住めばいい。」

龍黄「瑠美・・・それ、本気で言ってる?」

なんか急にマジ声になった龍黄を振り返った。

顔は、笑っていないがマジ顔でもなかった。


けれど、何かを訴えたそうな表情に見えたのは、たぶん気のせいではない。

瑠美那「どうゆうことだ?」
龍黄「だって・・・」


横殴りの風が、私と龍黄の上を揺らした。


少しの間をおいて、彼が口を開いた。
龍黄「僕がいないと寂しいでしょ?」
なんだかよくわからないがムカついたので、近くに置いてあったマグロを彼の顔面にヒットさせてやった。


瑠美那「なんだよ、意味深なこと言うかと思って、マジ入ったのに・・・」



ガラス細工がたくさん置かれている、広い一室・・・。

そこで大きめのノック音が響いた。

・・・「・・・誰だ」

羅希「私です。」

部屋の主の返事を待たずに入ってきたのは、会社の制服に身をまとった羅希と、白いバスローブのような形の薄布の服を着た飛成だ。

羅希が室内を見回す。

赤い・・・いや、血の様な紅の色をした絨毯に、真っ白くて動物の剥製が複数飾れた壁に、一番奥の壁が天井から床まですべてガラス(つまり窓)。

そして室内の至る所に、思いついたように飾られたガラス細工。

そんなバランスのとれない部屋だ。

羅希「相変わらず素敵な部屋ですね、社長」

社長「あまりほめられている気も、お世辞という気もしないが」

羅希「そんなことありませんよ。私は好きですね、こうゆう部屋は。」

・・・常識から外れた奇妙な部屋・・・と言うのはやめておく。

社長と呼ばれた人物は、いかにも【社長】というイメージの中年で、太めの体格がいかにも良い生活をしていそうだ。白髪交じりなのが、本当の年寄りも更に年老いてみせる。

羅希が社長に近づくと、ソレを追って飛成も前へ出る。

羅希「博士から、飛成の二次検査の報告書です。それと、言われたとおり本人を連れてきました。」

言いながら数枚の紙を挟んだファイルを机に置き、飛成を前に出させる。

机に置かれたファイルには見向きもせず、机の前に出て飛成の前に立つ。

近づかれて少し場に居づらくなった飛成がわずかに拳を握った。

社長「いつ見ても綺麗だな」

その発言に背筋に寒気を感じた飛成が、今にも殴りかからんという体制で拳を握る。

すぐ隣にいた羅希が彼の背中をたたいて、それを諫めた。

社長「・・・人の血肉を好む精霊か、確かにそんな雰囲気を出しているな」

そうつぶやく社長の手が飛成の黒髪を一房つかんだ。

飛成「・・・」

彼は拳を握っているだけで、何の反抗も、声も出さない。

社長「妙な感じだな。昔からずっと追い続けていたモノがこんなあっさり手にはいるとは。」

羅希「そうですか。」

社長「・・・こんな貴重で危険な生物を手名付けている実力者まで我が社にいてくれるのだから、うれしい限りだ。」

飛成の髪を放さないまま、視線を羅希へ向ける。

羅希「喜んで頂けて、光栄です。」

彼はその視線に応えて微笑みを返す。

その後社長は周りのガラス細工にするかのように飛成を眺めて、椅子に座った。

社長「もういいぞ。今度の実験の時にまた見させてもらおう。」

羅希は丁寧に例をして、社長室を後にした。

飛成はただ心のない人形のように、何の動作もなく、ただ羅希の後を歩いていく。

社長室を出た2人はコンクリートに囲まれた通路をしばらく歩き続け、誰かとすれ違っても何の反応もせずにただ歩き続ける。

しばらくして、やっと立ち止まったのは何の変哲もない木製の扉の前。

その中に黙って入ってゆく。

部屋の中は、少々上品な宿屋の一室といった感じで、2人で泊まるような感じの部屋だ。

羅希「・・・」

外に誰もいないのを確認して、ドアを閉めて鍵をかける。

羅希「ふう・・・。ゴメンね飛、大変な思いさせ・・・う・・・」

室内に目を向け、恐ろしいまでの殺気(オーラ)を発生させている相方に言葉を詰まらせた。

飛成「・・・す、・・・す・・・」

羅希「・・・飛・・・?」

飛成「殺す・・・殺す・・・」

羅希「飛・・・あのさ・・・とりあえず、落ち着こう・・・ね?」

飛成「あんの変態親父、会社やめたらぶっ殺してやる・・・」

もはや自分の声が届かないことを悟った羅希は、とりあえず飛成の私服を出してこようと、クローゼットを探り出す。

羅希「飛、もう少しの辛抱だから。そしたらこんなとこさっさとオサラバしよう。ね」

クローゼットから適当に引っ張り出してきた服を、飛成に投げつける。

が、彼はまだ殺気が収まっておらず、投げた服は彼の頭の上にポスッと乗っかってそのままだ。

その様子を見た羅希がため息をついて、奥の手を出した。

羅希「飛。プリン食べる?」

飛成「食べる!!」

羅希「じゃあ、そこ座って、まずは着替えなさい。そんな麻酔臭い白衣なんか着ててもいい気しないだろう。」

飛成「はい〜!」

さっきの鬼のような形相とはうってかわり、顔をほころばせながら白衣を脱ぎ始める。

甘党の彼には、お菓子でつるのが一番なのだ。

現に、この会社に入るときに飛成が“実験動物”というエサになってこの会社に雇ってもらうという作戦に、彼はケーキ1個で乗ってしまったくらいだ。

・・・甘党というだけでなく、見た目によらず頭が緩いという理由もあるのだが・・・。

羅希は冷蔵庫から2つ“エサ”を取り出し、盆の上に置いた。

この部屋には、客人がこの室内だけでも生活できるように、バスルームからキッチンまで装着されている。

あまり部屋を出たくない彼らには好都合だった。

盆を持っていこうとしたときに紅茶の葉を入れた瓶を見つけ、ついでに1つカップを取り出し、紅茶を入れる。

しばらく置いて待っていて、飛成が着替え終わりそうなのを確認したので、まだ少し早いが紅茶をティーカップに注ぐ。

甘い香りが鼻をかすめる。

砂糖を一緒に盆の上にのせてテーブルの方へ持っていく。

羅希がそう呟いて盆をテーブルにのせるのと、飛成が着替え終わってソファーに飛び乗るのは同時だった。

羅希「飛・・・すまない。」

飛成「ん?なにが?」

羅希「はい。」

すまない、と言っておきながら話を進めず、彼にプリンを勧める。

そして飛成もその先を忘れプリン飛びつく。

飛成「はあ・・・やっぱり一仕事した後はこれだよね〜。」

羅希「ほんとに好きだねえ・・・」

飛成「まあね。」

飛成は盆の上の紅茶に置いてある砂糖をすべて入れて、ゴクゴクと飲み出した。

本当は自分が飲むために入れたのだが、それは言わないでおく羅希だ。

それに、あんなに大量に砂糖を入れられては、自分にはもう飲めないだろう。

飛成「・・・で、『すまない』って、何がすまないの?」

羅希「・・・そうゆう細かいところはしっかり気が回るんだね。」

飛成「・・・?」

羅希「いや。・・・会社で雇ってもらうためにこんなに面倒なこと押しつけて・・・」

かなりじっくり味わっているようで、飛成の手のすすみはやけに遅い。そして口にほおばっている時間が長い。
しばらく味わった後、それを飲み込んで

飛成「ああ、それね。いいよ別に〜。僕と羅のなかじゃない」

それだけ言うと、またプリンを口に入れる。

羅希「・・・できれば、私がその役をやれたら良かったんだけど・・・うわあっ!!」

そう言いかけた瞬間、飛成が口に入れていたモノを一気に噴水のごとくはき出した。

羅希は危ういところで、それを後ろへ跳んでかわす。

飛成「ごほっ・・・、はあ、びっくりしたあ」

羅希「それは私のセリフだよ」

飛成「と、とにかく!絶対駄目!それだけは駄目!」

羅希「なにが?」

飛成「ざけんじゃないわ!!羅をあのセクハラ親父の前に出すなんて、僕が絶対に許さないから!!」

羅希「・・・僕の方が人間的だから飛が出るよりも被害少ないと思うけど・・・」

飛成「あの変態オヤジ羅に指一本ふれたらマジボコボコにしてやるんだから!!」

羅希「飛・・・そろそろプリン・・・片付けない?」

−−−−−−−−−5分後

羅希「落ち着いた?」

飛成「・・・はい。」

散らばっていたプリンは飛成が騒いでいる間に羅希が片づけた。

ソファーで騒ぎ疲れてぐったりしている飛成に、さっき残っていた砂糖どっさりティーを差し出した。

飛成「ありがと・・・」

羅希「飛ってさ」

飛成「ん?」

羅希「実は女の人だったりする?・・・てうわっ!」

先ほどのプリンの噴水、紅茶バージョンが発生。

それを羅希はまた後ろに跳んで回避した。

飛成「ぐ、ぐふっ・・・げほっ・・・な、なんでぞうなるがなあ・・・?!」

羅希「え、だって、ねえ。で、なおかつ私のこと好きだったり〜」

飛成はソファーからずり落ちて、テーブルの角に額をぶつけた。

羅希「・・・大丈夫?」

飛成「羅・・・、あのね・・・」

羅希「ごめん、冗談だよ。・・・にしても、すっごい反応。飛がこんなに動揺するの初めて見るよ」

飛成「・・・本当に冗談だと思ってる?」

羅希「思ってるよ。そんなこと私が本気で考えるわけないだろうが。」

飛成「・・・ならいいんだけど。」

まだ中身がのこっいる紅茶を飛成は飲み干して、落ち着こう、とソファーに深く腰掛けた。

羅希「本気にしてたの?」

飛成がカップを落として固まった。

その様子を見て、図星だな・・・と羅希は推測した。

羅希「そんなことあるわけないだろうが。大体、飛は自分が女だって思ってるのか?」

飛成「え・・・いや、思ってないけど」

羅希「いくら、取り乱すと女言葉がしょっちゅう出るからって・・・」

飛成「・・・でてるの?」

羅希「・・・でてるよ。」

飛成「・・・・・・」

羅希「・・・・・あ〜・・・私、ちょっと仕事が残ってるから・・・」

なんか、これ以上いろいろ話すと飛成がおかしくなりそうなので、彼は別室へ移動した。

飛成はその日ずっとそこで、幽体離脱していた。



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