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「明日、社長がある国の王族達と会談するからボディガードとしてついてきて欲しい」と言われて、翌日の朝に準備を始めた。
彼らの勤めている“セヴァールフ”は会社だがその企業の大きさから、周辺の農村や町の中心となり、
一国の中心のような存在に発展したので、他国との会談にはよく顔を出しているらしい。
羅希が一通り準備をすませ(特に装備品以外に持ち物はなかったが)、時間はまだか、と時計に目をやった。
飛成「・・・羅」
羅希「ん、なに?」
出発の時間までは、あと40分あった。
飛成「あのさ、今日別の大陸に行くんだよね?」
羅希「ああ、どこかの国と接待するらしいね。それが何か?」
視線を時計から飛成へと移した。
飛成「・・・船・・・乗るよね・・・」
飛成の顔色が悪い。
しばらく考えた後、あ、と羅希が声を漏らした。
羅希「・・・別に、海を泳げって言われてる訳じゃないんだから・・・」
飛成「で、でもでも!落ちたらどうしよう〜」
・・・会話からでもすぐにわかるが、飛成はカナヅチだ。
涙目になって意味不明な行動をとる飛成は結構笑えた。
これほど見た目と中身のギャップが違う者などいるのだろうか・・・、と羅希は思っている。
羅希「大丈夫だって。私は放り出されることはあっても、君はないだろう。」
飛成「そんな不吉なこと言わないでよ・・・。」
彼に向かって軽く微笑んで、また何となく時計を見る。
羅希「あ・・・」
また、思いついたように声を上げる。
羅希「そういえば葉蘭に手紙を書かなきゃ・・・」
飛成「大丈夫じゃない?普段から僕らはあんまし孤児院にいられないんだし。」
羅希「けど、彼女に変な虫が付かないように常に気にかけておいた方が良いし。」
そうでないと父さんと母さんに申し訳が立たないから、と小さく呟く彼を、飛成は唇の端をあげて見つめる。
飛成「いつもながら心配性だね。瑠美の事といい、葉蘭といい・・・」
羅希「当然だ。」
2人とも、私の妹なんだから。
瑠美那「ふぇあっくしょい!!!」
龍黄「・・・!」
瑠美那「う・・・夏風邪でも引いたか・・・?それとも誰か私の噂でも・・・」
龍黄「・・・んなことより、僕の髪におもいっきし鼻水つけておいてオール無視か。」
ぶつぶつ言いながら私につけられた鼻水をハンカチでこすり取る龍黄だ。
私たちは護衛を引き受けて、船で出国。そして船旅二日目・・・
瑠美那「雑草みたいな髪してるくせにちょっと汚れるのがそんなに嫌かうわあっ!!」
言いかけてる途中で後頭部に何かがすごい勢いでぶつかってきた。
レティス「雑草って言うな!ちょっと緑なだけじゃん!」
龍黄に皮肉を言っていた私の頭にドロップキックを食らわせ、倒れた私の前に仁王立ちして、そう叫んだのはレティスだった。
しゃがみ込んだ私とちょうど同じくらいの目線の少女が、なんだかすごい形相で私を見ている・・・。
呆気にとられていると、レティスと同じ顔が横にちょこんと現れた。
その同じ顔、パリスも横に立ってレティスに加わる。
パリス「そうですよ!龍黄の髪に虫でもとまったらのどかな野原を想像してしまうけど、彼の髪はキレイじゃないですか。」
レティス「・・・」
龍黄「・・・」
瑠美那「・・・」
レティス「あ、ろ、龍黄。夜、私たちの部屋に泊まらないか?パリスだけだとつまらないんだ。」
龍黄「え・・・あ、・・・」
答えに困り、龍黄が私の方へ視線を移した。
私になんの答えを求めているんだ、おまえは。
瑠美那「・・・皇女の護衛だと思って行ってやれ。」
彼は何ともいえない表情をして、パリスの方へは微笑みを向けて、首を縦に振った。
それを見て、いかにも女の子らしい笑みを浮かべて、彼に小指を出した。
レティスは龍黄は好きだけど、私のことはあまり好きではないらしい。ま、好かれたいとは思わないが・・・。
レティス「よし!約束だからな。」
龍黄「え・・・?」
彼女に指を出され、それにどう答えて良いのかわからなくなり、龍黄は声を詰まらせた。
レティス「ゆびきり、知らないのか?」
龍黄「ゆ、指切り!!?」
その言葉を聞いて顔を青くして後じさる龍黄。
・・・どうせ指を切り落とすとでも考えたのだろう、と、彼の頭の中が容易に読めた。
レティス「あのな。こうやって・・・」
龍黄の小指を取って、自分のと絡める。
んでもってその手を縦に振る。
レティス「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲〜ます!ゆびきった!」
とか歌いながら龍黄の指を放した。
レティス「じゃあな!」
レティスとパリスは船の看板から走り去った。
なんだかぽつんと取り残された龍黄は私の方を見て、
龍黄「ねえ。指まだあるんだけど・・・」
とか意味不明なことを呟いた。
瑠美那「・・・とりあえず、約束は絶対に守れ、ってゆう契約だ。今のは」
龍黄「はあ、そうなんだ・・・」
瑠美那「龍黄。なんか今日元気ないんじゃないか?」
龍黄「え?そう?」
瑠美那「ああ。いつものやかましい五月蠅さがない。」
龍黄「・・・」
瑠美那「船酔いでもしたか?」
龍黄「・・・いや、酔ってはいないけど・・・海って苦手なんだ・・・」
瑠美那「カナヅチか」
龍黄「!!!!???」
図星だったらしく、顔を赤くして、ホッペタもふくらませて、目も涙目でこっちを睨む。
瑠美那「おまえもう22だっけ?うわ。ダッセェ」
龍黄は、私の嫌みにマジで顔を真っ赤にして叫ぶ。
龍黄「う、うるさいなあ!!大体僕は羽のせいで泳げないの!!」
瑠美那「他の幻翼人もカナヅチなのか?」
龍黄「え・・・・・・いや・・・・・・だって、みんなは羽消せるし・・・」
瑠美那「お前だけか。やっぱりだせえ」
龍黄「いぢめないでよ〜〜〜〜!!!・・・うわあ!」
急に船がガクンと揺れて私達はバランスを崩した。が、さすがに転ぶまでは行かなかった。
瑠美那「ああ、港に着くみたいだな。」
龍黄「え・・・到着までは四日かかるんじゃないの?」
瑠美那「途中で他国のお偉いさんも乗せるんだろう。ほら。なんかあの辺に同じような格好の団体さんもいるし。・・・!!」
私は自分で言ってて目を見張った。
龍黄がどうしたんだ、と声をかけてきたが私は答えずにその団体を凝視している。
瑠美那「・・・」
仕事で数回見かけただけだから良くは覚えていなかったが、見間違いじゃない。
あの制服は“セヴァールフ”のものだ。
瑠美那「・・・“セヴァールフ”って会社だろ?なんで国家の会談に顔出すんだ・・・?」
龍黄「・・・“セヴァールフ”?」
瑠美那「・・・裏じゃ悪名高い会社だ。この前、私のいた村をおそったのは奴らだ。」
龍黄が黙り込む。
私もしばらく彼らが船に乗り込むのを黙ってみていた。
“セヴァールフ”の社員の1/3が船に乗り込み終わったとき、後ろからレティスが走ってきた。
レティス「龍黄〜!なんかすごい魚がいるぞ!こっち!」
龍黄「え、ああ。うん。」
龍黄が彼女に腕を引っ張られ、船の看板の反対側へ一緒に走っていった。
私がその後ろ姿を見送り、室内へ行こうかと視線をそらした瞬間。
羅希「あ!瑠美!」
聞き覚えのある声が、さっきの団体の乗船列の方から聞こえた。
そっちを見ると、案の定いたのは孤児院で会ったあの男。
瑠美那「・・・羅・希麟・・・だったか。」
背後には、孤児院を出るときにすれ違った長い黒髪をした青年がいる。相変わらずサングラスをかけている。
羅希「覚えていてくれたんだ。ありがとう。“羅希”でいいよ。」
微笑みながら手を差し出してきた。
けれど、私はその手を握り返さない。
瑠美那「・・・お前ら、“セヴァールフ”の人間だったのか」
そういう私の顔は、自然と怒りがこもっていた。“セヴァールフ”という言葉だけで気分が悪くなる。
羅希達に恨みはないが、こいつらに対してもなんだか不快感がこみ上げていた。
羅希「そうだけど・・・。瑠美は“セヴァールフ”はあまり好きではないみたいだね。」
瑠美那「・・・あ」
羅希の申し訳なさそうな表情を見て、私は自分の子供っぽさを感じた。
瑠美那「・・・わり。つい・・・」
視線をそらして、とりあえず謝罪。
羅希「いいよ。私もあいつらの仕事に荷担してるんだから。」
彼は人の良さそうな笑みを浮かべて、そういいながら首を振る。
羅希「あ、瑠美。紹介してなかったね。」
羅希は一歩後ろへ下がり、後ろにいたあの黒髪の青年を前へ出させた。
羅希「彼は美園・飛・成玉(メイユァン・フェイ・ソンユイ)。えっと・・・飛成ね。」
飛成は紹介されても微動だにしない。
礼もしなければ、握手も求めないし、何も話さない。
羅希「あ、ごめん。飛は“セヴァールフ”の社員がそばにいるときは話せないんだ。」
瑠美那「え・・・?」
羅希がそう言って、背後でまだ乗船してから入室していない“セヴァールフ”社員を指さした。
飛成も、後ろの奴らにはよくわからないように苦笑いして肩をすくめた。
羅希「僕らはちょっと特別な方法で特別に雇ってもらってるからね。」
瑠美那「・・・そうか。」
羅希がほんの少しの間何かを考えていて、
羅希「ねえ。瑠美・・・」
龍黄「瑠美〜〜〜!!」
彼が何か言い出そうとしたところで、私の後ろから龍黄の声が近づいてきた。
瑠美那「なんだ・・・うわあああ!!!!」
今日はやけに悲鳴が多い・・・じゃなくて。
背後を振り返ると、いきなり目の前にはこっちをすごい形相で睨む巨大魚!
自分で聞こえるほど心臓がバクバク言っている。
龍黄「驚いた?!なんかこの辺の模様がおもしろくない?この魚〜」
瑠美那「おっ、お前なあ〜〜!・・・あれ?」
・・・気がついたら、私の後ろにいるはずの羅希がいない。
龍黄「どうしたの?瑠美。誰かいたの?」
瑠美那「・・・いや、なんでもない。」
飛成「・・・瑠美がいるならやっぱり・・・いるよね・・・」
羅希「・・・この船の上で口説くのはできないか・・・」
飛成「瑠美の場合、邪魔なく口説けてもついてきてくれそうにないと思うし・・・説明しにくくない?」
羅希「・・・そう、だね。」
龍黄と話している瑠美那をみて、羅希は深いため息をつく。
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