−−−14−−−
飛成「瑠美は大丈夫。しっかり寝てるよ。」
羅希「・・・そうか」
羅希が飛成の腕に支えられている瑠美那をしゃがんでのぞき込む。
飛成「・・・龍はどうする?」
羅希「・・・そうだな、会社の手に落ちるのも避けたいけれど・・・このまま放っておいても瑠美を取り戻しに来るかも知れない。」
飛成「・・・いっそのこと、一緒に連れて行った方が彼も安全かもね。」
二人の見る先では、なんとか体が動かせるようになった龍黄が激しい目眩、吐き気と戦いながらもゆっくりと立ち上がっていた。
羅希「・・・残酷なようだが。」
飛成「仕方がないよ。」
飛成が腕にいる彼女を羅希に引き渡し、龍黄と対峙する。
龍黄が落としていた肩を上げて、飛成を睨みつける。
その時
レティス「龍黄!!」
パリス「龍黄!!」
レティスとパリスが龍黄の大鎌を持って、彼の元へ走り寄っていく。
龍黄「来るな!」
その呼びかけは遅く、飛成が龍黄と、その側へ来た少女二人に向かって走り出す。
龍黄は二人を突き放そうとした、だがそれもすぐにやめた。
少女二人が呪文の詠唱を行っていたのだ。それも強めの精霊魔法を。
レティス「ブレイド!!」
パリス「ブレイド!!」
二人が同時に同じ“鍵”の言葉を紡ぎ出す。
飛成は近づきすぎてからその魔法に気づく。けれど、その時にはすでに二人は魔法を放っていた。
二人を糧として青い色を持った風が船の看板の床を削り取りながら飛成に襲いかかる。
レティス「あっ!」
レティスが驚きに声を漏らした。
飛成がその場で足を止め、全く詠唱なしで張った結界で、その風を防ぎきったのだった。
レティス「なんだあいつ!めちゃめちゃ魔法力強いぞ!」
パリス「私達とは比べ物にならないようですね。あ、龍黄、これ」
パリスは、多少の驚きはあったものの、ずいぶん落ち着いた口調でそう呟き、引きずってきていた大鎌を龍黄に手渡した。
龍黄「ありがとう。でも、二人とも下がっててもらえる?」
レティス「あんな強い奴と一人で戦う気か!それに、私達が足手まといにはならないのはさっきの魔法で・・・」
パリス「はいはい、レティス。あなたがそう思っても龍黄には邪魔なの。おとなしく下がろうね。」
レティス「あっ!コラ、放せ!!」
パリスが騒ぐレティスの襟をつかんで、龍黄と飛成の間から離脱した。
二人がしっかり遠くまで離れたのを確認して、飛成と向き合う。
もう羅希から受けた一撃はおさまったし、武器も今はある。
けれど、彼に勝てる確率は少ない。
龍黄は人間と比べれば魔法力はあるが、幻翼人にしてみると極力少ない。
それに、相手はその幻翼人の中でも優秀とされていた。
ならば、瑠美那を連れ出して、飛んで逃げるか。
逃げ切れるかは分からない・・・けれど、それしかない。
龍黄「・・・」
龍黄は少々早口で、その詠唱を紡ぎ出す。その言葉は人の耳には理解できぬ精霊語。
それに対して飛成は、魔法を使うことなく体術で攻めようと、龍黄に向かって全速力で走り出す。
一瞬で飛成は龍黄との間合いに入り、みぞおちをねらった拳を繰り出す。
けれど、龍黄はある程度予測していたその攻撃をぎりぎりでかわす。
その交わしたのと同時に、何処もねらっていない蹴りが側面から繰り出された。
龍黄「っ・・・」
飛成「?!」
しかし、龍黄はそれをあえてかわさなかった。ダメージはあっても気絶や、致命傷になるわけでもない。
けれど、魔法を紡ぐために受け身はとれず、その威力に吹き飛ばされるのは避けられなかった。
大鎌が彼の手から離れてしまう。けれどそれでも詠唱を続ける。
龍黄「・・・!!」
そして、床に倒れる直前に魔法が完成した。
それを間おかず、飛成に向かって放つ。
飛成「閃光・・・!?」
その魔法の効力を一足遅く理解した飛成は、慌てて顔を腕で覆う。
目の前で強力な閃光を目の当たりにしたが、かけていたサングラスのおかげで目がつぶれるのは避けられた。
わざわざ時間をかけ、あえて蹴りまで受けながら、攻撃魔法ではなく、目くらましを使った。
予想されるその理由は2つ。
閃光とともに敵を倒そうとしていた。
敵を倒そうとはせずに、逃げることを考えていた。
けれど、飛成が倒れれば次は羅希と戦うことになる。
敵をわざわざ増やしてしまうよりは、戦いを破棄して逃げる方が得策。
そうなれば相手はかならず、瑠美那を救出しに走る。
まだ光り輝く魔法の光球のせいで目が開けられない。感覚と記憶を頼りに、瑠美那と羅希の元へ走る。
観客の悲鳴で、幸い自分の足音は聞き取れないだろう。
倒れる直前に確認したから、瑠美那の居場所はしっかりと覚えている。
−−−−そこだ!
そして飛び出せるように首飾りに手をかけた、その瞬間
龍黄「・・・なっ!」
閃光がかき消えた。
目の前に、閃光に向かって手を伸ばしている羅希。
それですぐに理解できた。
彼が自らの魔法力をあの光球をぶつけ、相殺させたのだ、と。
けれど、あの閃光は龍黄が時間をかけ、全力を絞り出して作り出した物。
それをわずかな時間で同じ力・・・いや、あの距離までとばすには更に強い力が必要。羅希はそれをやってのけるほど強力な魔法力を持っている。
龍黄「うっ・・・!」
少し前に感じたような激痛と吐き気が再度首の付け根をおそった。
飛成「すまない、油断した」
そして、背後に聞こえた飛成の声。
世界が回っているような感覚と目眩の中で、一瞬だけ瑠美那の顔を見た。
羅希「それにしても、今回はずいぶんと控えめな戦闘だったな。」
飛成「空中戦は避けたかったんだよね。あんまし危なくすると龍、絶対空に逃げると思うし。」
羅希「空中戦は君の十八番じゃないのか?」
飛成「海では勘弁。下手に落とされると、僕絶対に死ぬから」
龍黄は悠々と話をしている二人に腹が立った。
薄れそうな意識を唇の端を噛み切って保たせた。けれど、起きているのが精一杯で体が動かない。
羅希「龍に魔封じの結界を張っておく。瑠美を部屋に連れて行ってくれ。この騒ぎのことは、社長に話しておく。」
飛成「はい」
羅希は腕にも垂れかけさせていた瑠美那を抱き上げ、飛成に渡す。
飛成は彼女を受け取り羅希に背を向け、残った彼は龍黄に向かって手をかざす。
そして詠唱をはじめようとした、その時・・・
飛成「うわああああ!!!!!!」
すっとんきょうな飛成の悲鳴に、慌てて後ろを振り返ると、いつの間にか起き出したのか、瑠美那が手すりに足をかけ、勢いに任せて飛成を海に突き落とそうとしてる。
羅希「フェ、飛!!!」
慌てて彼の元に走り出す。けれど、すでに二人は船から飛び出し暗い海に向かってダイブしていた。
羅希「くそっ」
羅希は上着を脱ぎ捨て、その二人の後を追って海に飛び込む。
飛成「ぐあっ、ぢょっ、はなしっ・・・!」
瑠美那「放せと言われて誰が放すか馬鹿!おとなしく沈んでろぉ!」
私ははい出そうとする飛成の上にのしかかり、彼の浮上を許さない。
ついでに、下手に魔法を出されないように口を手でふさいでやっている。
なんだか残酷だが、こいつは敵だ。
瑠美那「・・・くそっ、もう来たか。」
そう言って私が見定めたのは、こちらへ泳いでくる羅希。
二人がかりとなるとこっちが返り討ちにされかねない。
・・・まあ、今までの二人の行動、言動からすると殺されはしないだろうが。
私は逃げるついでに飛成を海中に蹴り落として、少し離れたところで海中に逃げ込む。
羅希「飛!」
羅希に少し持ち上げられて、少し飲んでいた水をはき出し、空気を肺に流し込む。
羅希「大丈夫?!」
苦しげな声で激しい呼吸と一緒に吐き捨てるように返事を返す。
飛成「死ぬかと思った・・・」
羅希「どうやら、彼女は持ったよりも強者らしいね・・・。」
飛成「・・・これでも彼女に手を出さすなって言うのなら僕はもう辞めるよ」
羅希「・・・そうだな・・・」
無傷で捕らえるのは無理そうか、と自分に言い聞かせるように羅希は呟いた。
羅希「仕方ない、飛んで船まで戻ろう。あまり私達がここにいると、瑠美が隠れたまま溺れるかも知れない。」
飛成「はぁい・・・」
飛成が深くため息をつく。
それから少し羅希に乗りかかり、上半身を海上に出した。
瑠美那「(あいつら・・・行ったか)」
私は羅希と飛成がいないのを確認すると肩当たりまで思い切り飛び出した。
船の速さと、今の距離から言って、泳いで追いつくなんてできない。
龍黄が助けに来てくれるのを待つだけだ。
多分、羅希と飛成がいなければそのうち復活するはずだし、レティスとパリスが面倒見てくれるはず。
彼が助けに来ないか、自分を見つけられなければこのまま溺死か凍死するしかない。
瑠美那「・・・とにかく、早く来いよ・・・」
助けてやったんだから恩はちゃんと返しに来い、とか目の前にいない相手に呟いてみたりする。
昼は暑いくせに夜はずいぶん冷える・・・。
小さく肩をふるわせ、待っている相手がいないかと、暗い空を見上げた。
レティス「龍黄!無理せず少し休んでいった方が・・・」
レティスの小さなからだが龍黄を止めようと必死にしがみついてくる。
龍黄「大丈夫、もう充分休んだから・・・早く行ってあげないと」
本当は早く飛んでいきたいから振り払いたいところだったが、相手は少女、少々気が引けた。
そう言って、優しく引きはがす。
けれど、レティスはそれでもしがみついてきて、そのしつこさに少し困らされた。
レティス「だって、足下だってそんなにふらついてるじゃないか。」
パリス「レティス」
パリスがレティスの腕をつかむ。
パリス「瑠美那さんがかわいそうでしょう。」
そうだけど・・・、と言いかけて、レティスはパリスの腕を払う。
レティス「・・・あ!」
彼女の腕が解けた隙をみはかり、龍黄が逃げて部屋から飛び出していった。
レティス「龍黄!」
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