―――5―――

帰り道、龍黄の待つ森が見えた頃、森よりも目を引きつけるモノがあった。

私は言葉を失った。

 

村が・・・燃えている。

瑠美那「・・・まさか!!」

私は龍黄のことなどすっかり忘れて村へ全力疾走した。

 

村の入り口に何人かの武装集団がいた。見てのところ賊・・・。

だが本性はセヴァールフの社員か傭兵か・・・。

どっちにしろ、奴らは追い返す必要がある。

賊?「おい、誰かこっちに来る」

賊?「・・・村人じゃないか?命令だし殺すしかないだろう」

賊が剣を抜き、私の方へ攻撃体勢をとった、が、私はかまわず全力疾走。

ちょうど彼らの間合いに入ったとき、私は1つの剣撃をかわし、避けきれないもう1つは更に加速して相手の手首を押さえた。

意外とすばしっこいに驚いたのか、彼らに動揺の色が見られた。

とりあえず手首を押さえたヤツはスキだらけだった腹を思いっきり殴ったら、そいつはあっさり倒れた。

他の賊が罵声を浴びせながら獲物を振り下ろしてくる。

私は慣れた手つきで獲物を避けるなりはじくなりしつつ、隙のできたヤツを1人づつダウンさせていった。

・・・ここは無傷で全員のして、村の中へ入っていった。

 

 

瑠美那「クラウディ!!何処だ!!?」

喉が張り裂けんばかりの大声で彼を捜しながら走り回った。

一体何処にいるのか。

村長の家へは行った。もう襲われたあとで中にいた者はみんな死んでいて、あとは逃げ出したか・・・。とりあえず、クラウディの姿はなかった。

彼が私を待つと言った村の東口も行った。

既に山賊が群がっていたが彼らは首飾りを持っていなかった。きっとクラウディがとって逃げたのだろう。

村の中央に村人の亡骸が集められていた。試しにそこの山賊を蹴散らして調べてみたが、その中にも彼の姿はなかった。

あと残るのはどこか・・・。

「きゃああああ!!!」

どこからか女性の悲鳴と赤子の泣き声がした。

―――――――――助けに行くか・・・

声の方・・・一軒家の裏側へ全力で走る。

 

瑠美那「・・・!?」

私がその現場に着いたときには事は済んでいた。

賊は皆地に伏し、悲鳴を上げていた母子は家の壁に沿って座り込んでいる。共に無事だ。

ただ、そんなことより私が驚いたのは、ここにいるはずのない奴がいることだ。

龍黄「瑠美!やっと見つけた〜」

いつものボケ顔をした龍黄だ。

瑠美那「龍黄!?何でこんなところに」

龍黄「ちょっと待ってね」

龍黄はにこっと笑って、私たちをきょとんと見つめていた母親とその腕にいる泣きやまぬ赤子の前にかがみ込む。

龍黄「無事で良かった。西口にはもう賊はいない。そこから村を出て、東の森に行って下さい。

森の奧に泉があります。そこに大鎌がつきたっている。そのまわりなら魔物も入ってこない。そこへ逃げて下さい。」

母親は動転していて龍黄の異形の姿に気づかぬまま、指示されたところへ逃げていった。

瑠美那「・・・随分手際がいいな。それより、なんでお前がここに?」

龍黄「半刻ぐらい前に火の手が見えてね、『こりゃここにいても瑠美はこないな』と思って、村人を避難させながら瑠美を探してたんだ。」

瑠美那「・・・じゃあ、18くらいの黒髪の優男見なかったか?」

龍黄「探し人?・・・いなかったと思う。僕が助けた人の中には。」

瑠美那「・・・おまえ、どこのあたりを回ってきた?」

龍黄「あと、僕が行ってないのは北の方だけだけど」

――――――――北は私がもう見てきた・・・じゃあ、どこに?もう村中回ったぞ・・・。やはり、もう逃げたのか・・・?

龍黄「あ、あとは南の丘に家が建ってたけど・・・、あんなところには賊も村人も行かないだろうと思って見てきていないな?」

瑠美那「え・・・?」

――――――――南の丘?・・・私の家!?来るという確信はないけど一応あいつと縁はある。

まさかと思いながらも、私は少し疲れてきているのも忘れて走り出した。

 

瑠美那「クラウディ!!」

大声を上げて家の扉を乱暴に開けた。

人の気配がすぐ前にあった。外にいる賊と同じ格好の男が数人。

やはりここに彼は居なかった・・・。

賊「まだいたか」

そう言って1人の賊がこちらへ歩み寄った。

――――――――・・・!!!!??

今までにないくらい、どっと血の気が引いた。

あまり感じたことがない感情。ひょっとしたら恐怖とでも言うのか・・・

私の方へ歩み寄る男の足下に人の大きさほどもある赤黒い物体・・・。

瑠美那「ク・・・」

足の力が抜けて、無様に腰を抜かしたように座り込んでしまった。

視線が低くなって、より明確に“それ”が見えて、その正体をはっきりと悟った。

こちらに助けを求めるかのように向けられた、もう光もない“目”が、私を見ていた。

息ができなくなった。頭の中が破裂しそうで、胸が何かに引き裂かれる。

詰まる息をなんとか吐き出せた時に、もう呼ぶには遅い叫びが喉をわった。

瑠美那「クラウディーーーーー!!!!」

 

“それ”は、四肢が離れ、血に塗れた服を着た、醜い肉片と化した彼だった。

 

叫んだ瞬間、心臓が信じられないほどの大きな鼓動をした。

全身の血が、沸騰でもし始めたかのように熱い。

通常なら、その状態の異常さに気が動転してしまいそうだが、その時、私は何よりも・・・

 

龍黄「・・・瑠美?」

残っていた残党をかたづけていた龍黄の耳を、かすかに彼女の叫び声がかすめた。

龍黄「あ・・・」

声のした方を探りはじめて数秒後もしないうちに、瑠美那が向かったらしい南の丘が一瞬ひかり・・・

轟音をたてて爆発した。

龍黄「・・・魔法?でも・・・」

龍黄はあっけにとられて丘の方へゆっくりと足を向けた。

・・・彼が向かい始めたときには、もう“丘”ではなく、“がれきの山”になっていたが・・・。

 

 

クラウディ・・・すまない・・・もう少し早くここに気付いたら・・・

お前はもっと生きていられるはずだったのに・・・。

病気も治って・・・今とは違ってたくさん旅をして・・・。

お前だけでも助けてやりたかった。

なのに・・・、また・・・

 

私は殺すことしかできないのか・・・?

 

 

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