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私は突然背後から名を呼ばれ、少し遅れた反応で振り返った。

私を呼んだのはギルド長だ。

顔まで覚えてないが、制服で分かった。

瑠美那「こんなところで何か用ですか」

ギルド長「ああ・・・今日中に済ませて欲しいという仕事が入ったんだが、何処の奴らも手が埋まっててね。君は仕事はないだろう?」

瑠美那「・・・」

多分、それはみんな嘘なのだろう。

いくら人手のいる仕事が入ってもアレイジ全員の手が埋まるなんて事はないはずだ。

アレイジ達が理由つけて断るほどヤバイ仕事なのか・・・面倒なのか・・・よっぽど嫌がられる仕事なのか・・・。

それか、ギルド長が周りの奴らに多見たくないから嘘をついているか。

ギルド長「キリングホルダーの君に頼むのもどうかという仕事なんだが」

瑠美那「内容は?」

ギルド長「届け物だよ。この小包をあの丘の孤児院まで。」

・・・たいして時間がかかるわけでもない。小包が重いわけでもない。

なぜ、皆が気にかけるのか。

瑠美那「小包の中身は極秘ですか?」

ギルド長「いや、ただの薬草だの毒草だ。」

瑠美那「で、なんでわざわざ私に頼まなければならないんですか。アレイジ全員の手が埋まるなんてことはあり得ないでしょう。」

これ以上考えるのは面倒だ。私はさっさと理由を聞いた。

もともと私は知能派じゃないんでな。

ギルド長「なんだ、分かってたのか・・・。」

瑠美那「・・・聞いてはいけませんか。」

ギルド長「・・・まあ、いうなとも言われてないが・・・。あまり依頼者が好みそうにないから。黙秘と言うことにしておこう。で、どうだ?」

ただの小包届け・・・。

そんな危険なことでもないだろうし、仮にそうだとしても龍黄がいるから何とかなるな。

瑠美那「・・・受けます。で、報酬は?」

ギルド長「・・・これだ」

そう言って彼は依頼票を出す。

瑠美那「・・・・マジか?」

そこに書いてあったのは普通考えられない額。

ただの距離ない宅配なのに、私が危険を冒して稼ぐ額の二倍ほど。

よっぽど訳有りなんだろう・・・。

やめた方がいい気もしたが、その額に目のくらんだ私は首を縦に振るしか出来なかった。

ギルド長「あ、そうそう、それは君一人で届けに行ってくれ。」

瑠美那「はい?」

ギルド長「そうゆう依頼だ。」

・・・なんだかよく分からなくなってきたが、とりあえずOKしておいた。

 

買い出しは途中で切り上げ、『今日中に済ませなければならない仕事』を始めた。

別に来る途中には何の生涯もない。

丘まで深い盛りがあったが、道がしっかりしていたので迷うこともない。

とりあえず戦闘服ではないものの、武器くらいは身につけて警戒しながら進んできたが、そんな危険な気配もない。

一体何が目的でこんな仕事に大金をかけたのか。

瑠美那「・・・あれか」

森の真正面が開けてきた。

そして見えてきたのははただの孤児院。

子供の姿は見あたらないが、何処も怪しいところはないし、破損しているところはあってもそれなりに手は届いている。

瑠美那「・・・まったく・・・いったい何なんだ・・・」

とりあえず警戒しつつも孤児院の中へ入っていく。

どうやら孤児院と言うよりも教会で、その廃屋を使っているように思われた。

中へ入ってすぐ、それ以上は進まずに人を呼ぶ。

瑠美那「すいません!誰かいますか!」

返事はなかった。それでもしばらく待ってまた呼ぼうかとしたときに左壁の隅にあったドアが開いた。

出てきたのは線の細い女性。

随分とたどたどしい足取りで近づいてくる。

さっきは離れていて分からなかったが、近づいてみると息をのむほどの美人だ。

顔つきは整っているし、肌は雪原のように白くて、髪はそれと対照的に黒く光っていて・・・

彼女は少し離れた位置で立ち止まった。

瑠美那「・・・!」

しばらくして気がついたが、彼女は盲目のようでここへくるまで一度も目を開けていない。

それに何かをしゃべるように小さく口を動かしたが声は出ていない。

多分、目も声も機能していないのだろう。

絶世とも言える美女でありながら、不便な・・・。

瑠美那「えっと、仕事で頼まれた届け物です。」

私は彼女の手を取って包みを持たせた。

女性「・・・?」

身に覚えがないのか、彼女は少し困惑しているが包みは受け取ってくれた。

このまま押しつけて帰ろうかとも思ったが、なんだか彼女に無理をさせるのが忍びなくなってきた。

それに、確かに受け取ったというサインをもらわなくてはいけないし・・・。

瑠美那「・・・じゃあ、誰か他にいませんか。コレを知ってる人は」

彼女はしばらく考え込む。

「あ、それ頼んだの私です。」

瑠美那「・・・!」

上から男性の声。

バルコニーから青年が声をかけてきた。

少々童顔の背の高めの男。顔は結構いい方で、結構勉強してそう。

・・・なんでこの孤児院はこんなに顔のイイ人を集めてるんだ・・・。

瑠美那「・・・!ちょっと・・・」

その青年は何のためらいもなく手すりに立った。

飛び降りるにしても結構高いぞ。ましてやあんな運動には縁のなさそうな・・・。

瑠美那「・・・あ」

彼は何もないようにぽとんと降りて、受け身もキレイにとって着地した。

見た目に寄らず動けるヤツらしい。

青年「わざわざすいませんね。」

だって仕事だし。

青年「何か飲んできます?」

コケた。

いきなり配達人にお茶を誘う奴がいるか?普通。

この男、龍黄並に観点がずれてそうだ。

瑠美那「いい。まだやることが残っているので・・・」

180°回転して、さっさと帰ろうとした・・・。

瑠美那「・・・え?」

が、思いっきり腕を捕まれ

青年「まあまあ、そんなこと言わずに!!」

瑠美那「え・・・っげっ・・・!ちょっと!!」

そのまま軽々とお持ちあげられた私は孤児院の奥まで連れてかれた。

 

この男、見た目とは正反対に力はあるし、頑丈だし・・・暴れても叩いてもびくともしない。

途中、何人かの子供に会ったが、子供達に「後ろの人誰?」と聞かれても無視でズカズカ歩いていった。

そのままなす術なく、客室まで持って行かれた。

 

青年「はい、どうぞ」

瑠美那「・・・」

彼は私を椅子に座らせ、お茶だのお菓子だのを出してきた。

瑠美那「あの・・・」

青年「あ、気にしないで、ゆっくりくつろいでいてください」

瑠美那「そうじゃなくて、まだやることが・・・」

青年「あ、私は羅・希麟(ルオ・シイリン)って言います。あ、羅希でどうぞ」

金髪のクセに名前は東洋か・・・私もそうだけど・・・ってそうじゃなくて!

瑠美那「お茶とか出してもらったけど、やっぱり帰り・・・」

羅希「実はあの包みを届ける依頼、出したの私なんですよ。」

瑠美那「は?」

この発言にはさすがに固まった。

・・・つまりは大金出して自分で自分に自分の届け物を運ばせたって事だろう・・・。

よくわかんねえ・・・。

瑠美那「・・・あの届け物って何の意味が・・・?」

羅希「アレは私の趣味でやってる実験の材料ですけど」

瑠美那「中身じゃなくて、なんでわざわざ自分宛の届け物なんか大金で頼んだんですか。」

羅希「・・・あれ?聞いてません?」

瑠美那「だれに、なにを」

羅希「ギルド長。別に口止めしたつもりはなかったんだけど・・・。」

・・・なんだかよく分からなくなってきたぞ・・・。

羅希「私が出したのは『小包みを瑠美那というアレイジに届けに来させてくれ』っていう依頼だったんですが・・・」

それであのギルド長は、私にその内容を伝えない方がいいと思ったのか・・・?

でも、まあ、それはおいといて、

瑠美那「なんでわざわざ私が?」

羅希「ナンパ」

瑠美那「帰ります。」

羅希「ああ!冗談だって!」

私は立ち上がりかけた椅子に再度座った。

瑠美那「で、なんで頼んだんだ?」

羅希「ん〜、聞いても仕方ない気がするけど、私のこと見覚えないですか?」

瑠美那「まったく」

なんだかあまりにもはっきり言ったのがショックだったのか、彼は肩までがっくり落とした。

瑠美那「どっかで会ったか?」

羅希「まあ、覚えてないなら良いんだけど。」

彼はティーカップに口をつける。

それを見て、私もいろいろとあるのを思い出し、お茶菓子に手をつけた。

羅希「本当に昔に・・・ね。少しだけ会ったことがあった。」

瑠美那「どれくらい昔だ。」

羅希「10年と少しくらい。でもまあ、ちょっと思い直してみれば君はまだ随分小さかったしね。」

瑠美那「・・・じゃあ、私の故郷とか両親とか知ってるのか」

羅希「・・・その辺も覚えてない?」

首を縦に振った。

私の反応を見た彼は少し驚いた様子で手に持っていたティーカップを置き、考え込む。

羅希「それなりに大きい村だった。人の心は冷たい村だったけど。君の両親は2人とも立派な人だったよ。」

瑠美那「ふーん・・・」

今まで全然知らなかったことだから、そんなに感傷的にならず、なんだか他人事のように聞こえた。

羅希「2人とも、10年前に死んでしまったけどね。」

瑠美那「ふーん・・・」

その私の両親とやらには悪いが、全く覚えてないので全然悲しくもなかった。

羅希「やっぱり、何も思い出さない?」

瑠美那「全然。そんな記憶、欠片ほどもない」

羅希「そっか・・・」

瑠美那「てか、それよりも気になってることがあるんだが」

羅希「はい?」

瑠美那「お前は私の何なんだ。」

羅希「コイビ・・・」

言い終わる前に私はティーカップの中身を羅希に向かってぶちまけた。

・・・一体コイツは何者なのか、予知でもしたかと思うほどのいいタイミングでどこからかお盆を出して、お茶をガードした。

瑠美那「ふざけてないで真面目に答えろ」

羅希「・・・愛人?」

私はテーブルの両端に手をかけ、少しテーブルを持ち上げようとした。

羅希「ちゃんと話しますから、テーブルを投げないようにね〜」

私は素直におろした。

コイツがこれ以上ふざければマジで投げるつもりだが、少しでも反省の態度を見せればすぐ戻るつもりだった。

多分、この部屋の外には孤児院の子供が聞き耳を立てている。勘だけど

その子達を不安にしてもいけないしな。

羅希「関係的には、君の兄貴の友達です。」

私には兄貴までいるのか・・・。

羅希「もっとも、あまり彼には信用されてなかったけど・・・。」

・・・。

羅希「まあ、それで彼につきまとってたら君にあって一目惚れ?」

瑠美那「・・・」

なんだかどう反応していいのか分からなかったので、とりあえず茶菓子を思いっきり投げつけた。

それをやっぱり難なくキャッチされた。

羅希「君がモノを投げるのは照れなわけか。」

私は新たに投げるモノを探す。

羅希「そ、それはおいといて!それなりに両思いっぽくなれたんだ、短い間だったけど」

瑠美那「やっぱりふったか?」

羅希「そうじゃなくて、突然君が・・・行方不明になってしまったんだ。」

瑠美那「あ、そう・・・」

多分、そのあとすぐに倉庫での生活が始まったんだろう。

ん?・・・私が倉庫の中にいたのは何歳からだ・・・?

寒い季節が2回くらいあったから2年はいたな・・・。

で、そのあとに7年くらい外で・・・。

瑠美那「お前、今いくつだ?」

羅希「24」

瑠美那「うわ、見えねえ。ガキっぽい」

羅希「よく言われるよ・・・」

瑠美那「それはおいといて。・・・てことはお前は15のクセに5歳児に惚れたのか。」

羅希「うっ・・・痛いところついてくるね」

瑠美那「ま、どうでもいいけど。」

私はさっき手をつけて、まだ少し残っていた茶菓子の残りを口に放り込む。

それを食べ終わってから、席を立った。

瑠美那「今の私を見て、昔の気持ちなんか飛んだだろう。それに、私はお前のことなんか何とも思わない。さっさと忘れることだ。」

彼に背を向けてドアの方へ向かう。

・・・思った通り、ドアの向こうで子供達が退散していく音が聞こえた。

羅希「悪いけど、僕らが結ばれるのは必然だからね・・・うわ!」

後ろを向いたまま装備していた小ナイフを彼に投げつけた。

今度は意外にも取ったり、止めたり出来なかったらしく、かわすのがせいっぱいだったようだ。

瑠美那「・・・あんましふざけてるとマジで殺るぞ」

殺気放出

羅希「こわっ・・・」

今度は何も言わせず、さっさと部屋から出ていった。

 

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