―――52―――
―――羅希は旅に出た。
………ガラにもなく、ちょっと傷ついた。
だって…話したいことあったのに…。起きたらすぐに話したかった。
それに、彼はいつも傍にいてくれるって…思ってたのに。裏切られたような心境。
瑠美那「………なんで」
自然と、私はポーカーフェイスになって、自分自身、冷静にあろうとしていた。
飛成「…まぁ、良いことなんだけど…。羅って前は、「どうせ自分は死ぬんだ」ってちょっと自暴自棄になってたみたいで…。瑠美のことも、好きだけどあんまし触れないようにしてたって感じで」
瑠美那「だな」
飛成「それがなくなったら、『やっぱり瑠美に本気で振り向いて欲しくなった』とか言い出したの。」
…いや、実は結構振り向いてるんだけど。
瑠美那「………で?」
飛成「旅に出た」
関連性が全く見えなくて、私は考え込む。
ちょっと考えたけど、全然わからない。
カルネシア「いわゆる“花婿修行の旅”だろ」
瑠美那「ぶっ」
………その妙な言葉がちょっと笑えた。
瑠美那「花婿修行って……なに考えてんだアイツは」
飛成「あれじゃない?瑠美が羅のことを散々『ガリ勉』なんて言ってたから、日の当たる場所に出ようと思ったんじゃない?」………本当にアイツは、私の気持ちに全く気付いていない。
少し腹が立った。カルネシア「…まあ、許してやれ。お前が起きるまでには帰るつもりだったんだ、アイツも」
瑠美那「帰ってきてないじゃん。」
カルネシア「それはお前のせいだ。予定よりも2年も早く起きるんだから。」
……私って、本当に危険な状態だったんだな…。
ってことは、羅希はあと2年しないと帰ってこないのか。
………本当にガラじゃないけど、すごく寂しい。セリシア「…君が魔界で起きたときに、魔王が文を飛ばしていたから、長くても1ヶ月くらいで帰ってくるでしょう」
いつもの白ローブは着ていなくて、青のワンピースを着たセリシアが言った。
………セリシアにこうやって話しかけられるのって違和感があるな。
瑠美那「そうか。……ありがとう。」
セリシアにそう言って、思い出した。
キャディアスの遺言。瑠美那「あ、あとさ。…キャディアスから、『ありがとう』って伝言」
それを言ったら、彼女は目を見開いた。
顔立ち、女カルビーで、美人でもちょっとキリッとした美人。
それが、一瞬、幼い少女のように見えた。
少女は口元を両手で覆い、うつむいた。
彼女の肩が小刻みに震えていた。
セリシア「………」
彼女は小さく頷いた。
下を向いているから、滴が落ちる。傍にいたカルビーが彼女を抱きしめる。
それと同時に、セリシアは彼の服に顔を押しつけて、嗚咽を漏らしだした。………私と飛成は、部屋の窓の外から注がれる、嫉妬の視線にとまどっていた。
ちなみに、その視線の主は…竜花
下町を1人でボーっと歩いていた。
起きてからもう9日たつ。
2年ご無沙汰していたうちに私のまわりは変わっていた。身近なところでは、竜花がでかくなったこととか…。
最近では本格的にカルビー恋愛視している、と飛成談。そのせいでセリシアが敵視されている。哀れセリシア。
あと、サンセがその有力さを買われて王宮に雇われていった。しかし、王宮では仕事が少なくて退屈らしい。
今年のアステリア領の冬倒祭準備前に帰る、と文が来た。
世界の方も、国際交流がさかんになって、アステリア領のみで普及していた機械がたくさん世界にまわった。
国際交流と言えば、龍黄のいる魔界の方も…。
魔界は相変わらず自由国。けれど最近は人間界への干渉が増えてきた。
もちもん、人間を襲わないという条約のもとに。
なぜいきなりこうなったかというと…原因は龍黄とレティスにあった。
レティスは私と龍黄で旅をしていたときに会った、皇女様……の口うるさい方。
実はレティスとパリスは少し前から龍黄が魔王になったことに気がついていたらしい。
二人は国家権力と財力を使って…長い時間をかけ、魔界とのコンタクトを成功させた。
そしてレティスが龍黄に……なんといきなり愛の告白。
私達としては笑える話だが、龍黄は本気で悩み込んで、飛成に相談にまできたほど。
龍黄曰く『嫌じゃないけど、種族とか歳の違いもあるし…』
………彼はすごいことを言ってるのを分かっているのだろうか?瑠美那「………仕事始めるかな…」
別に生活費が苦しい訳じゃないけど…ヒマだった。
ひょっとしたら、私ってまた昔のような生活に戻るのかな。
1人でアレイジの危ない仕事ばっかりして…。
瑠美那「………あ。もう1年以上仕事してないからアレイジメンバー証、無効になってるか…」
ま、書類書いて、星2つの仕事を1つでも成功させれば、すぐにメンバー証は取れるけど。羅希も龍黄も飛成も…みんな遠いところにいたり、自分の居場所を見つけた。
ジオンは私も居場所を見つけた、なんて言ってたけど…今私は迷ってる。
少し前まで羅希の傍がいい、なんて思ってたけど、彼はしばらく帰ってこない。
一昨日、龍黄から手紙が来た。
羅希は海を越えて大陸2つ渡ったところにいるから、帰ってくるまであと1年くらいかかる、と。
………どこまで行ってるんだアイツは。1年も待ってるのはかったるいので、やっぱり仕事をするか…と、アレイジギルドに向かうことにした。
………ギルドは騒がしかった。
中で誰かケンカしてるんだろうか。
まあ、ギルド内でのケンカなんて日常茶飯事。
私はちょっと警戒しつつギルド内に入ろうと……瑠美那「ぐえっ」
したら、入り口からむっさい男がと飛び出してきた…というか飛ばされてきた。
男「……っ、畜生…!!」
飛んできた男は私を潰しただけでは飽き足らず、掴み上げてナイフを突き付けてきた。
私何もしてないのに…。コイツ、多分賞金首だ。アレイジの装備ではない。
アレイジに捕まって連行されそうになってるんだろう。
でも、同じくアレイジの私を人質に…ってのは失敗だったな。
普段着でも、暗器を常に持ち歩いているので、それを使えばこんな奴の手くらい切り落とせる。
あーでも先に捕まえた奴と賞金取り合いになるか。やめて、救出される人質になっておくか。案の定、すぐにブラックリストハンターのアレイジがでてきた。
男「来るな化物…っ!来たらこの女の首を切るぞ!」ナイフを盗み見たら、すごく変な形をしたナイフで、柄が赤黒くて血生臭い。
コイツ、雑魚キャラのような態度だが、たいそうな人殺しか。アレイジ「化物は貴様だ。これ以上、人を切ったら賞金なんざ関係ない。その頭を吹き飛ばすぞ」
そういうアレイジの声はいかにもブチ切れていた。
顔はゴーグルのせいでよく分からないが鼻口元はスッキリしていて優男風。
“人を切ったら”……。
“殺したら”ではないところから、この賞金首は殺人者じゃないか…。
よくある、女子供を切り付けて喜ぶ変質者タイプだ。
男「う、煩い!建物の中に入れ!」
アレイジは僅かに顔を歪めた。
どうするべきか悩んでいる様子。
でもまだ余裕はあるようなので、手がないわけではないだろう。
多分、私の事を気遣って、手段を選んでいる。
普通のブラックリストハンターは、こうゆうとき人質のことなんか気にしない。
ブラックリストハンターは報酬以外で『これ以上犠牲者を増やさない為に、賞金首を狩る』のが仕事なんだから、1人2人の犠牲者は気にしないのに。
このアレイジ、お人好しだ。瑠美那「……仕方ない、助太刀するか」
誰かの揚げ足取りはしたくない。
私はアレイジが攻撃に踏み切っても無傷でいられる自信はあったのに。
瑠美那「……」
私は大きく口パクで、5、4、3とカウントをはじめた。
アレイジが、あ、と声を漏らした。気付いたんだろう。カウントが1になり、私は男のナイフを握る手を、ブレスレットから出る糸で括った。
1本のみで使えば簡単に手首を切断できる、金剛線だ。
だが、この賞金首は人を殺していない、ということなので、5本くらいまとめてくくってやった。
賞金首はアレイジの様子を伺っていて気付いていない。カウント0。
糸を手元で大きく引いた。
糸は5本も巻き付けた甲斐あって、糸が食い込んで血が溢れるだけで終わった。切断とまではいかない。
ナイフを落とした男の頭を踏んで、トドメはあのアレイジに…ということで、上空へジャンプ。
私が放物線を描いて頂点にたっするころには、アレイジが賞金首を殴り倒して昏倒させた。
瑠美那「お疲れ〜」
時間を無駄にしたな…とか思いながら、現場に背を向けて店に入ろうとした。
やたら友好的な奴だと呼び止められるので、そうなる前にギルドに入る。アレイジ「待ってくれ!」
やっぱりキタか。無視ってドアに手をかけたが…
アレイジ「瑠美!!」
引き戻されて…思いっきり抱き締められた。瑠美那「なっ、……」
一瞬混乱したが、抱き締められて…感触か、匂いか、温もりか、私は彼の何かを感じて思い出した。
とても心地よくて、懐かしいような。
瑠美那「……つかぬことをお伺いしますが」
アレイジ「はい?」
彼は私の首筋に顔を埋めたまま答えた。瑠美那「……間違ってたらごめんなさい」
アレイジ「はい」瑠美那「……羅希?」
彼は私から離れて、一瞬きょとんとした。
間近でやっとゴーグルの奥が見え、スカイブルーの瞳が見えた。
アレイジの男は悪戯っぽく笑い、ピースサインをしてみせた。瑠美那「………」
変わりすぎにも程がある。
まぁ、髪型や服装(支給品だけど)に気を配るようになったからだろうか。以前のようなファッションへの大雑把さがない。
最近、羅希って凡人程度のルックスかなぁ、と思ったりしたけど、ちゃんとすればやっぱ格好良かった。
瑠美那「羅希……」
いざ、彼を目の前にしたら、頭が真っ白になる。
言いたいこと、聞きたいこと、たくさんあった。
とりあえず、一番言いたいことがある。
口を開いたら…
瑠美那「羅…ぅお?!」
彼がいきなり倒れた。
瑠美那「なっ、どうした羅希!?」
地に伏した彼を抱き起こして、呼び掛けた。
よく見たら顔色が悪い。さっきからだったかも。
疲れが溜まったんだろうか?
とりあえず、ギルドの電話で、アステリア邸に連絡することにした。瑠美那「砂糖とパンもらってきたぞ」
木造の、木や花の香りが漂う建物。
下町の孤児院である。
中央広場の教会の裏にあるここは、孤児院のやりくりにつまってきた葉蘭達の為に建てられた。
子供達は飛成と羅希を慕っているし、竜花も同い年くらいの子がいるので、みんなよくここに来るそうだ。羅希が倒れて、駆け付けたのはカルネシアだった。
みんな忙しかったので、メイドが暇そうだった彼に連絡をいれたそうだ。
その後、近かった孤児院に羅希を運んで、私は彼に頼まれたおつかいをしてきた。
カルビーは私が買ってきた角砂糖を一個とって、羅希の口の中に放りこんだ。
だが、羅希は溶け残るそれを吐き出し、一緒に胃液も吐き出した。
それで、私も羅希の状態を悟った。
彼はここしばらく何も食事をとらず、なおかつ激しい運動をしていた。血糖値なんかも下がっているはず。
だから砂糖を食べさせてるんだろう。点滴が好ましいが、今日はたしか休観日。
原始的ではあるが、こうしておくしかない。
カルネシア「瑠美那。湯ももらってこい」
瑠美那「分かった」角砂糖だと溶けにくいしなかなか腹に収ってくれなかったので、お湯に溶かして彼に飲ませた。
やっぱり吐き戻すが、それでも少しは飲んで腹に治まった。
彼の口を拭いながら、少しずつ飲ませる。
コップ一杯半を飲ませ、また少し角砂糖を砕いて食べさせ、一旦中断することにした。
ずっとカルビーに任せていて、後ろから眺めていただけだったので、羅希の容態はよく分からなかった。
だが、近くで見てみて、ゾッっとした。
滝のように冷や汗をかいて、体が小刻み震えている。
何度も嘔吐したせいで、小さな音がする妙な息づかい。うっすら涙の後がある。
瑠美那「………大丈夫なのか…?」
カルネシア「血糖値の下がりすぎ以外はただの疲労だ。正しい処置はしている、問題ない。」
一度、アレイジ仲間がこうなったのを見たことがある。
仕事に失敗し、樹海を何週間も遭難した後だったらしい。
瑠美那「そんなにキツい仕事したのかな。」
カルネシア「いや……アレだろ」
瑠美那「アレって?」
カルネシア「…………お前に会いたくて」
吹き出してちょっと笑った。でもすぐに腹が立ってくる。
羅希に手紙を出したのが9日前。そして返事が返ってきたのは7日後。
つまり、羅希に手紙が着いてすぐにコチラへ向かったのだとすると…彼は6日間ほど飲まず食わずで飛んできてしまったらしい。
そりゃこんな状態にもなる。
瑠美那「馬鹿だろ、コイツ」
カルネシア「だな」
〜注〜
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